北穂高岳で味わう至福のひと時

穂高連峰を中心とした登山でみたこと、感じたこと、考えたことを備忘録として書いています。

どうして?人体の不思議~ふるえ①命を守るための手段

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北アルプス・涸沢のテント場  (2018年5月4日)

 

テントの中での震え(ふるえ)

凍った雪の上で寝る

 

 穂高連峰の山小屋は例年、4月中旬からスタッフがヘリコプターで空から舞い降り、小屋の周りの雪除けと中の整理をして、下旬から登山者の受け入れを始めます。毎年のように私も小屋開け直後に涸沢に入ってテントを張り、純白の雪に靴を蹴り込んで、山頂を目指すことを喜びとしています。ただ、毎回のように悩まされるのが「寒さ」です。

 この時期の地面は、分厚い雪に覆われており、テントを張るのにふさわしい場所を決めると、まずアイゼンを外した登山靴で雪を踏み固めます。その上で、持参したスコップで50㌢かそれ以上の深さまで掘り、掘り出した雪はブロック状にして周りに積み上げていきます。風雪除けです。この時期、春とはいえ、吹雪にもなりますから。

 さて、そこでテントを張るわけですが、ひもで縛った十文字の「竹ペグ」を4組、雪の中に埋め、雪の上に出したひもの端と、テント本体の「張り綱」の端とを結びつけるわけです。私の場合、ズボラな性格ですので、カラビナ4枚を使って双方を結び付けます。テントを撤収する時に、雪面がコチコチに凍っていれば、竹ペグは残置します。(ゴミになるので問題ですが…)

 問題はここからです。私の場合、まずテントの底いっぱいに「銀マット」(アルミシート)を敷きます。公園で芝生の上に敷くペラペラのシロモノです。その上に、厚さ15ミリ、幅50センチ、長さ120センチ程度のマット(サーマレスト社のロール式マットレス)を敷きます。ここにシュラフ(寝袋)を置いて体を潜り込ませるわけです。テントは「エスパース」の1人用の丈夫なオールシーズン用を20年前から愛用しています。

 しかし、そこは深夜には気温が氷点下になる星の下です。背中は薄い生地を隔てて凍った雪の上です。寒がりの私だけかもしれませんが、シュラフにもぐって2時間もすると、歯がガチガチ鳴り出し、体がガタガタ震え出して目が覚めるのです。頭と顔がシュラフから出ていることや、寝相が悪くて片腕がシュラフから飛び出し、銀マットの上に転がっていることも一因かもしれませんが、毎回のように震えて目が覚めるんです。なぜ震えるのでしょう。震えることにどんな意味があるのでしょうか。

 

 

体温調節は3段階で行われる

第1段階は、「血管の収縮」

 

 人の体温は場所によって異なり、外気に触れる体の表面よりも心臓や脳といった体の中心部の温度の方が高くなっています。心臓や脳の温度は「深部体温」といい、37度前後に保たれています。この体温をコントロールしているのは「脳」です。脳の中の、「視床下部(ししょうかぶ)」という部位が司令塔なんです。

 人の体は不思議なもので、体のあちこちに温度を感じるセンサーが付いています。「ちょっと寒いなあ」と人が感じれば、脳の視床下部は、自分の神経細胞で電気信号をつくり、自律神経の1つである交感神経に対し、活動を活発にするように情報を伝達。交感神経の働きで筋肉が緊張することによって、皮膚の表面直下の「血管」が収縮し、血圧が上がる一方で流れる血液の量が減るため、皮膚からの熱の放出を抑えるとこができる、というメカニズムがあるようです。

 

人間の「鳥肌(とりはだ)」

 人間は寒さを感じると、他の生き物と同様に、「鳥肌を立てる」という反応もするようです。毛の多い動物は寒さがひどくなると、ふだん肌にくっつけるように寝かせている毛を立てることによって、皮膚に接する空気の量が増え、その空気が皮膚で温められた層をつくることによって、体を保温するようです。

 人間の皮膚は動物のように毛がふさふさしていませんが、毛穴を締め付ける筋肉は残っており、寒さを感じると、この筋肉が収縮します。その際、毛穴の周りの皮膚が毛穴をふさぐように盛り上がります。これがしばしば目にする「鳥肌」です。

 でも肝心の毛が乏しいため熱が逃げてしまい、効果はありません。

 

第2段階は、「褐色脂肪細胞」

 

 聞きなれない名前の細胞ですが、もう少し、寒いなあと感じるようになりますと、「褐色脂肪細胞」が働き始めます。この細胞は脂肪細胞の一種で、肩甲骨と首、脇の下などごく限られた場所にある細胞。熱をつくりだす「ミトコンドリア」という細胞内の器官がたくさんあるために、細胞が褐色に見えます。この細胞は、体温が下がるのを防ぐために脂肪を燃焼させて「熱」を産み出し、体温を維持しようとするのです。

 

第3段階は、「震え」

 

 もっともっと体温が下がってきますと、脳の視床下部は、脳や心臓といった深部体温からの情報と照らし合わせたうえで、脳の神経細胞を通じて「骨格筋」に対し“震え”を起こすよう命令を出します。骨格筋というのは、骨格を動かす筋肉のことで、筋肉を震わせることによって熱をつくるのです。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇

 いつまでも厳しい寒さに人間の体が対応できないでいますと、最終的に「低体温症」になります。

 低体温症は、37度程度に保たれている深部体温が、体が冷えて血液の温度が下がり、「35度以下」に下がることをいいます。さらに下がると、脳に届く酸素が減るために、意識障害が起こります。寒さは侮れないのです。