どうして?人体の不思議~登山の「あくび」

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尾瀬ヶ原のミズバショウと至仏山 (2019年5月26日撮影)


 なんで出るの?

脳の酸欠!

 山歩きをしている時、あくびが出たことはありませんか?特に、登頂に要したタイムを縮めるために、額から汗をポタポタ落としながら登った時。

 歩きながら「疲れた~」と思った途端、あくびまで出て、「あれっ、何であくびが出るんだ」と何度か思いましたので、ちょっと調べてみました。

 医師や大学医学部の研究者の書いたものを見ますと、どうも「脳」や「酸素」が関係しているようです。

 

 人間の脳は、1000億個以上の「神経細胞」とそれを取り巻く細胞(グリア細胞)からできていて、1つひとつの神経細胞が電気信号を出し、筋肉の細胞に体を動かすよう命令しています。

 この脳が自分のエネルギー源としているのは、「ブドウ糖」のみです。エネルギーを出すためにブドウ糖を血液から吸い取って消費するのですが、そのブドウ糖を燃やすには「酸素」が必要です。脳はたくさんの酸素を必要とするわけです。

 ところが、登山で一生懸命体を動かしますと、体が必要以上に熱を持ち、体温が上昇してしまいます。上がりすぎた体温を調整するために、毛細血管から水分や塩分など電解質が外に染み出し、汗腺という器官を経て皮膚の表面から汗を出します。体の表面をぬらした汗が蒸発する時に、体から熱を一緒に持ち去ってくれるため、人間は体温をほぼ一定に保つことができるわけです。

 

 その際、問題になるのは、血管の中の血液の水分が減ってしまい、血液がドロドロになっていることです。これは脳梗塞の原因にもなりますが、脳に酸素とブドウ糖などの栄養素を運ぶ血液中の水分の量が大幅に減って血圧が下がるために、脳の神経細胞に酸素が十分に届かず、「酸欠」状態になってしまいます。脱水症です。

 登山中に出るあくびは、この脱水症が原因の生あくびではないか、と考えられます。

 

朝、起きた時のあくびは? 退屈な授業の時のあくびは?

 あくびは、いろんな状況のもとで出ますね。夜、眠くなった時。朝、布団の中で目が覚めた時。つまらない講演を聴いている時。さらに、脳や心臓の病気の時も、脳が酸欠状態になってあくびが出るそうです。

 

 

北一郎・首都大学東京教授の説明

 あくびのメカニズムを研究している首都大学東京の北一郎教授らの論文「脳内低酸素とあくび反応」(2001年)によりますと、こう記されています。

 

▽(脳の)視床下部(ししょうかぶ)にある「室傍核」(しつぼうかく)は、あくびの発現に重要な役割を果たしていることが明らかにされてきており、室傍核を刺激することによって、あくびの頻度が増加し、また、室傍核の電気的破壊により、あくび反応が抑制されることが報告されている。これらの知見は動物実験としてラットを用いて得られたものである。

 

▽あくび反応は、中枢神経系により制御され、特に室傍核が重要な役割を果たしていると考えられる。

 

▽室傍核には、虚血・低酸素を感受する細胞が存在し、室傍核に局所的な虚血・低酸素が引き起こされると、覚醒を伴うあくび反応が誘発される。

 

▽あくびの役割や、それを誘発する生体内の刺激に関しては、いまだよく知られていない。あくびは就寝前や起床時、あるいは退屈な状況で誘発される。このことは、あくびが注意水準や覚醒レベルを上げるための生理現象の1つであることを示している。

 

▽このように、あくびは覚醒反応が必要とされる場合に誘発される現象である。

 

▽さらに、あくび反応を誘発する生体内の要因の1つとして、脳内低酸素・虚血が考えられ、あくび反応の機能的意義の1つとして、脳内低酸素・虚血に対する「警告」反応としての覚醒行動であると考えられるかもしれない。

 

 

 

 ちょっと難しい言葉が多いですね。

北教授は、著書「脳と体がよみがえる! リズム深呼吸」(山と渓谷社)ではもう少し噛み砕いて、こう書いています。

 

 「ため息やあくびは、普通の呼吸のなかに無意識に割り込んでくるものです。」「『あくびは酸素が足りないから出る』といわれていますが、一時的に室内の酸素濃度を下げても、あくびがたくさん出ることはないという研究報告もあるので、単純に酸素が足りないからとはいえないのです。」「しかし、脳内に酸素が足りなくなると、あくびが出ます。これは私たちが実験したのですが、脳の中のある部分を低酸素にすると、あくびが必ず出ます。病気でいうと、脳出血とか脳梗塞とか、脳のどこかが大量出血していたりすると、あくびが頻繁に出るようになる。つまり、『脳が、いま危険な状態にある!』という時にあくびがたくさん出るのです。日常的にはそんなに危ない状態ということはないのですが、いま何かしら危険かもしれない状態にあることを知らせている、ということです。あくびで頭をスッキリさせて、『あれ、いまヤバイのか?』と注意を促しているのです。」

 

 要するに、登山中にあくびが出るような状況は、脳をはじめとして体が脱水状態にあるから、塩分と水分と、脳のエネルギー源のブドウ糖を急いで補給してね、というサインのようです。