山の雑学~増える「病気」「疲労」……最新遭難事情

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涸沢の紅葉……“素晴らしい”のひとこと (2018年9月28日撮影)

携帯電話利用増で遭難件数が増えた?

  梅雨があけると、夏山シーズンですね。2018年に全国で起きた山の遭難事故の統計を先日、警察庁が公表しました。

 新聞や通信社の配信記事の見出しを見ますと、

「山岳遭難3129人 昨年、最多を更新 半数が60歳以上」(日経新聞)

「18年山岳遭難3129人最多 死者・不明342人、警察庁」(共同通信)

「山岳遭難者、最多3129人=死亡・不明342人 警察庁」(時事通信)

 本文は、

「70代と60代が多かった」(時事)

「都道府県別発生件数は、長野が最も多く…」(時事)

「死者・不明者のうち71.9%が60歳以上」(共同)

「死者・行方不明者の6割が単独登山者で、単独行動が重大な事故につながりやすい危険性を裏付けた」(日経)

などと、前にも聞いたことがあるような、新味の乏しい、参考にならない記事でした。

 

 もう少し遭難の実態を知りたくて公表資料をめくってみますと、携帯電話による救助要請が年々増え続けていること、“疲労”が原因で救助を求めるケースが増え、“高齢者”も増えていることなどが透けて見えるんです。

 ただ、体力や技術のない高齢者の遭難が増えているのか、ケータイで気軽に助けを求める傾向が強まっているのか、どちらが先かは公表資料だけでは分かりません。

 長野県警が公表している「島崎三歩の“山岳通信”」と照らし合わせ、数字のウラにある昨今の遭難事情をちょっとのぞいてみました。

 

ジワジワ増える「病気」「疲労」

  警察庁公表の2018年の山岳遭難者数は、新聞発表どおり3129人でしょうが、実際は、都道府県の警察に届けられないケースもあって、統計数字よりも多く遭難が発生していると見たほうがよいと思います。

 

 遭難の原因は、「道迷い」が全体の4割近くを占めて最多であることはいつも通りです。しかし、病気と疲労が少しずつではありますが、増えているのが気になります。

 「病気」は2014年の187人以降、232人⇒229人⇒232人と推移し、2018年は276人に増えました。

 「疲労」も162人(2014年)から172人⇒204人⇒175人となり、2018年は237人に急増しました。

 体調管理なり、行動中の水分補給や糖質の補充が十分でなかったのかもしれません。

 以下、「山岳通信」から「疲労」「病気」が原因の事例を一部、取り出しました。

 

      ◇    ◇    ◇    ◇

▽2月20日、八ヶ岳の山小屋で、宿泊中の女性(25)が体調不良から動けなくな  り、県警ヘリで救助。

▽3月27日、八ヶ岳・蓼科山の登山道で、男性(70)が疲労で行動不能になり、県警ヘリで救助。

▽5月21日、北アルプス槍ヶ岳で、男性(35)が上高地に向けて下山中、体調不良で歩けなくなり、県警ヘリで救助。

▽6月3日、山ノ内町の岩菅山山頂で、男性(61)が疲労のために行動不能になり、県警ヘリで救助。

▽6月15日、北アルプスの大キレットで、槍ヶ岳方面から北穂高岳に向けて縦走中の男性ばかり5人パーティー(50)(50)(50)(49)(49)が疲労などで行動できなくなり、県警ヘリで救助。

▽7月14日、北アルプス燕岳で、餓鬼岳から燕岳に向けて単独で縦走中の女性(58)が、疲労と体調不良のため行動不能となり、県警ヘリで救助。

▽7月16日、北アルプス白馬岳で、男性(64)が猿倉に向けて大雪渓を下山中、疲労のため動けなくなり、遭対協夏山常駐パトロール隊員らが救助した。

▽7月19日、北アルプス槍ヶ岳の北鎌尾根を登山中の男性(29)が、疲労で動けなくなり、県警ヘリで救助。

▽7月19日、北アルプス北穂高岳で、男性(74)が山頂から下山中に疲労で動けなくなり、夏山常駐パトロール隊員が合流。夜明けとともに県警ヘリが救助。

▽7月26日、北アルプス白馬岳で、男性(68)が体調不良で動けなくなり、県警ヘリで救助。

▽7月25日、北アルプス蝶ヶ岳の山小屋に滞在中の女性(50)が、体調を崩して27日になっても回復せず、自力下山が難しくなったため、27日に県警ヘリで救助。

▽7月27日、北アルプス奥穂高岳で、下山中の男性(79)が疲労で歩けなくなり、県警山岳遭難救助隊員が救助した。

▽7月28日、北アルプス白馬岳で、女性(63)が大雪渓を下山中に歩けなくなり、遭対協隊員らが救助した。

▽8月1日、北アルプス白馬岳で、女性(60)が大雪渓白馬尻付近を下山中、体調不良で動けなくなり、警察官が搬送し、救急隊に引き渡した。

▽8月3日、北アルプス白馬乗鞍岳栂池平付近で、男性(43)が白馬大池に向けて登山中、体調を崩して動けなくなり、山小屋従業員が付き添って下山し、救急車で病院に収容した。

▽8月3日、北アルプス白馬岳の山小屋付近で、女性(53)が体調を崩して動けなくなり、県警ヘリが救助。

▽8月4日、北アルプス白馬岳で、唐松岳から縦走してきた女性(62)が疲労で動けなくなり、県警ヘリで救助。

▽8月5日、北アルプス烏帽子岳付近の山小屋で、男性(21)が体調不良で動けなくなり、遭対協隊員が救助した。

▽8月13日、北アルプス五竜岳で、男性(65)が下山中に疲労で行動不能になり、遭対協夏山常駐隊員が付き添って山小屋に収容した。

▽8月17日、北アルプス常念岳の登山道で、男性(73)が倒れているのが見つかり、県警ヘリで救助したが、死亡を確認。何らかの疾患を発症した、とみている。

▽8月17日、北アルプス白馬鑓ヶ岳で、男性(66)が猿倉登山口から白馬鑓ヶ岳に向けて登山中、道に迷って行動不能になり、県警ヘリで救助。

▽8月22日、北アルプス燕岳で、女性(52)が中房温泉登山口から燕岳の山小屋に向けて登山中、熱中症で動けなくなり、県警ヘリで救助。

▽8月31日、北アルプス唐松岳で、女性(67)が山頂に向けて登山中、疲労で動けなくなり、大町署山岳遭難救助隊員らが救助した。

▽9月29日、北アルプス涸沢から横尾に向けて下山中の男性(68)が、疲労で動けなくなり、県警山岳遭難救助隊が救助した。

▽10月9日、北アルプス涸沢の登山道で、男性(74)が倒れているのが見つかり、県警ヘリで救助したが、死亡を確認。

▽10月10日、北アルプス涸沢で、女性(54)が上高地に向けて下山中、疲労で動けなくなり、北アルプス南部地区遭対協隊員が救助した。

▽10月21日、北アルプス唐松岳で、男性(43)が単独で八方登山口に向けて下山中、疲労で動けなくなり、県警ヘリで救助。

▽10月27日、北アルプス槍ヶ岳で、男性(19)が北鎌尾根を槍ヶ岳に向けて登山中、疲れで行動不能に。翌28日、大町署山岳遭難救助隊員らによって救助され、山小屋に収容された。

 

70代が60代を抜いて最多

登山はリタイア組の生き甲斐?

  遭難者の年齢をみますと、3129人のうち「60代」は692人(22.1%)。これに対して「70代」は少し多い698人(22.3%)で、60代を上回っています。

 「病気」「疲労」は高齢者に多いのですが、会社やお役所を定年退職したリタイア組が生き甲斐として山に向かっているのではないか、とみるのはうがち過ぎでしょうか。

 

    ◇    ◇    ◇    ◇

 「70代以上」では、こんな遭難事例もあります。

▽8月7日、北アルプス燕岳の山小屋の中で、男性(74)が階段で足を踏み外して転落。頭にケガをして県警ヘリが救助。

▽8月7日、北アルプス奥穂高岳で、女性(73)が西穂高岳から奥穂高岳に向けて縦走中、天狗の頭・天狗沢付近で道に迷って疲れ、動けなくなった。捜索中の遭対協隊員が発見し、近くの山小屋に収容した。

▽9月19日、北アルプス燕岳の山小屋で、宿泊中の男性(82)が体調不良で動けなくなり、県警ヘリで救助。

▽9月26日、北アルプス涸沢の山小屋の中で、女性(82)が段差でバランスを崩して転倒。ケガをして動けなくなったため県警ヘリで救助。

 

若い人も「疲労」でダウン

 ここ10年近く、“山ガール”と、それにつられたのか、若い層の登山者を多く見かけるようになりました。体力はあると思いますが、登山の知識が足りなかったり技術不足なのか、遭難も発生しています。

 

      ◇    ◇    ◇    ◇

▽3月11日、中央アルプス・中岳で、雪山登山中の女性(26)が疲労で動けなくなり、救助を要請。他のパーティーの支援を受けて自力下山。

▽5月12日、北アルプス前穂高岳で女性(29)が下山中、疲労のために動けなくなった。仲間3人で入山したが、別々に行動。別の1人も道に迷い、県警ヘリがそれぞれを救助。

▽6月14日、北アルプス西岳で、中房温泉から槍ヶ岳に向けて単独登山中の女性(24)が疲労で動けなくなり、県警ヘリが救助。

▽6月30日、北アルプス北穂高岳で、北穂高岳から涸沢に向けて下山中の女性(25)が、技量不足のために動けなくなり、遭対協隊員が女性の安全を確保しながら下山した。

▽8月6日、南アルプスの三峰岳から仙丈ケ岳に向けて縦走中の女性(19)が、バランスを崩して登山道から滑落、右足を骨折して県警ヘリが救助。

▽10月8日、北アルプス涸沢で、女性(24)が徳沢に向けて「パノラマコース」を下山中、バランスを崩して滑落し、負傷。県警山岳遭難救助隊が出動し、県警ヘリで救助した。

 

 こんなケースもありました。

▽10月8日、八ヶ岳・南沢で、女性(29)と男性(26)の2人が下山中に日没となり、照明器具を持っていなかったために行動不能に。茅野署員らが捜索して見つけ出し、山小屋に収容した。

 

 携帯電話で「助けてくれ~」増加中

 警察庁の統計では、救助要請のための通信手段として「携帯電話」が使われるケースが増えています。

 通信エリアが今ほどではなかった2009年は、携帯電話での救助要請は、遭難発生件数の6割弱でした。しかし、昨年には8割近くになっています。

 具体的な数字をみますと、2014年以降、1707件⇒1920件⇒1905件⇒1991件と推移し、昨年は2071件と増えました。警察が認知する「遭難発生件数」も増えています。しかし、死者・行方不明者の数はここ数年、横ばいで、増えてはいません。

 これをどうみるか――。NTTドコモやKDDIなどの尽力で電波の送受信アンテナが増え、通話エリアが拡大しました。これによって、携帯電話が多く使われるようになり、人命救助に役立っているのは確かでしょう。

 

長野県警山岳遭難救助隊長の話

 櫛引知弘隊長は、「山岳通信」でこう話しています。

「遭難する人は60代以上のかたが全体の半数を占めていますが、若い人に遭難が起きていないわけではない。技術が未熟だったり、道具の使い方を知らなかったり、体調管理ができていなかったりと、さまざまなことが遭難の原因になっています」