北穂高岳で味わう至福のひと時

穂高連峰や丹沢を歩いて20年余り。見たこと学んだことを備忘録として書いています。

どうして?人体の不思議~筋肉痛・脚のつり(芍薬甘草湯)

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北アルプス・涸沢 (2015年10月6日撮影)

 ≪筋肉痛≫

  体力チェックのために、神奈川県・丹沢の塔ノ岳(標高1491㍍)に時々登ります。ザックの重量は10㌔、歩行ペースは“ゆっくり”で、標高差1200㍍の大倉尾根を休憩時間も含めて3時間で歩くよう心がけています。

 しかし、歩き始めの調子がよいと、途中からスピードを上げてしまい、額から汗がポタポタ。そんな時には決まって下山時に、途中のちょっとした登り返しに入るとたちまち太ももの内側のハムストリングスがつります。明らかな脱水症状です。でも、つった部位をもんだり筋を伸ばしたりスポーツ飲料のポカリスエットをタップリ飲むと、すぐに回復します。久しぶりの登山の場合は、下山翌日に太ももの前部(大腿四頭筋)が痛いこともあります。

 「筋肉痛」が生じるメカニズムや、「脚のつり」(こむら返り)に人気の漢方薬「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」について調べました。

 

筋肉痛とは?

 運動することによって生じる筋肉の痛みが「筋肉痛」です。筋肉が“収縮”を繰り返すことによって、筋肉を構成する「筋線維」やその周りの組織がダメージを受けて「炎症」を起こし、痛みとなります。

 

筋肉痛のメカニズム

 どうして筋肉が痛くなるのか、医学的には解明されていません。いろんな説があるようです。

 ひと昔前は、激しい運動をした後に乳酸が蓄積することから、乳酸は疲労物質と考えられていました。しかし、血液中の乳酸は、肝臓でグリコーゲンに再合成されて再びエネルギー源として利用されます。乳酸犯人説は消えました。

 

 最近の研究では、筋肉に脳から電気信号を送っている“神経”が関係しているのではないか、という説が広がっています。それは――

 ふつう、我々が“筋肉”と呼んでいる骨格筋は、筋線維(=筋細胞)が束になってできています。筋線維の束は「筋膜」という薄い膜で覆われていて、その中には神経が走っています。

 筋線維自体には神経はないのですが、筋線維が激しい運動によって何本か傷つきますと、炎症を起こす原因となるプロスタグランジンなどの化学物質が筋線維から産み出されるのです。この化学物質が「筋膜」に分布している神経を興奮させることによって、神経から出た電気信号が脳に伝わり、脳が「痛み」を感じるのではないか、という推論です。

 

 運動をした翌日に少し筋肉の痛みを感じ、翌々日に痛みのピークを迎えても、数日後には何もなかったようになりますが、この“痛みが遅れて発生する理由”も分かっていません。

 ちまたでは、高齢になればなるほど筋肉痛の発症も遅れる、などとまことしやかに言われてきましたが、年齢による差はない、という研究報告もあります。

 痛みの発症の遅れの理由についても、筋線維の損傷によって生まれた化学物質が神経を刺激するのに時間がかかっているのではないか、という推論は、的を射ているような気がします。

 

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  ≪脚のつり(こむら返り)≫

 登山中に突然、ふくらはぎの筋肉がけいれんを起こし、激しい痛みに襲われる。こむら返りです。

 漢方薬の芍薬甘草湯は、脚がつった時に服用すれば、短時間で効果を発揮するらしく、登山者の間でも山に携行する人が多いようです。

 登山の医療関係の机上講習会に参加しますと、必ずと言ってよいほど芍薬甘草湯についての質問が出ます。

 しかし、講師はその漢方薬の即効性を評価する人と、服用によって血液中のカリウム濃度が低下して不整脈につながることを恐れ、「登山では私は携行することをお勧めしません」と答えた著名な医師もいます。

 興味深い薬ですので調べました。

 

芍薬甘草湯について

 芍薬甘草湯は、「芍薬(しゃくやく)」と「甘草(かんぞう)」という2つの生薬から構成される漢方薬。こむら返りに効く薬として、よく知られています。

 この漢方薬の効能について、メーカーの1社、小林製薬はホームページで次のような説明をしています。

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なぜこむら返りは起こるの?

こむら返りは筋肉が過剰に収縮してしまうことで、けいれんを起こし、局所的に痛みが発生する現象です。運動神経から筋肉に収縮する命令が伝わると、筋肉組織の細胞の中にカルシウムイオンが入り、カリウムイオンが流出します。この時、中枢神経に過剰な筋肉の収縮の指令が伝えられ、あしがつってしまうのです。原因は、運動による水分やエネルギーの不足、冷えによる筋肉の緊張、加齢による筋力の衰えなどが考えられています。

なぜ芍薬甘草湯が効くの?

芍薬甘草湯は、2種類の生薬「シャクヤク」と「カンゾウ」によって構成されています。この2種類の生薬の相互的な働きで筋肉組織細胞のイオンバランスを正常化。過剰な神経伝達を遮断することで過剰な筋肉の収縮を抑え、あしのつりを改善します。

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 メーカー各社のHPで「よくある質問」をみますと、次の記載がありました。

 

小林製薬

(質問)高齢者の方も服用できますか?

(答え)高齢者の方も服用していただけます。しかしながら、高齢者の方は、一般的に体の生理機能が低下していらっしゃると考えられますので、薬の作用が強く出るおそれがあります。高齢者の方は一度医師、薬剤師または登録販売者にご相談のうえ、服用されることをお勧めします。

(質問)症状のない間でも予防的に服用し続ける医薬品ですか?

(答え)症状のある時のみ、服用することをお勧めいたします。

 

ツムラ

(質問)甘草が含まれていると副作用が起こると聞きましたが、飲まない方が良いですか。

(答え)甘草の副作用であるむくみなどに対するご注意必要ですが、どなたにでも出る症状ではありません。また、急に起こる症状ではありませんので、まずはご服用いただいて、万が一むくみや手足のだるさなどの違和感が出るようなら、服用を止めて主治医にご相談ください。

 

クラシエ

(質問)こむら返りが起こったときの「芍薬甘草湯」は、長期的にのんでも大丈夫でしょうか?

(答え)「芍薬甘草湯」は、こむら返りなどの症状が起こったときに服用し、痛みが治まったら服用を中止してください。

 

漢方薬にも副作用がある

 漢方薬は材料が自然界のものだから副作用はない、と信じ込んでいる人もいるようですが、副作用はあります。メーカーもはっきり認めています。

 数ある漢方薬の副作用の中で最も多いと見られているのが、「甘草」による「偽(ぎ)アルドステロン症」です。

 

 

重篤副作用疾患別対応マニュアル   厚生労働省(2006年11月)

 厚労省が公表した「重篤副作用疾患別対応マニュアル」に掲載されている『偽アルドステロン症』をみてみます。

以下のように記されています。(一部抜粋)

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偽アルドステロン症は、血中のアルドステロンが増えていないのに、アルドステロン症の症状を示す病態です

アルドステロンは副腎から分泌され、体内に塩分と水をため込み、カリウムの排せつを促して血圧を上げるホルモンです。このホルモンが過剰に分泌された結果、高血圧、むくみ、カリウム喪失などを起こす病気がアルドステロン症と呼ばれています。

・主な症状として、「手足の力が抜けたり弱くなったりする」「血圧が上がる」などが知られています。これに次いで、「筋肉痛」「体のだるさ」「手足のしびれ」「こむら返り」「まひ」「頭痛」「顔や手足のむくみ」「のどの渇き」などあります。

主な原因は、甘草あるいはその主成分であるグリチルリチンを含む医薬品の服用です。甘草やグリチルリチンは、漢方薬、かぜ薬、胃腸薬、肝臓の病気医薬品などに含まれています。

 

 このほか、副作用の始まる時期が、使用開始後10日以内に発症した事例から数年以上の使用後に発症したものまであって、一定の傾向が見られないこと。性別では、女性が男性の2倍の割合で発症していること。全体の80%が50~80歳代で、小柄の人や高齢者に生じやすいことなどが記載されています。

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 識者のコメントを2件、載せます。

三浦裕医師(日本登山医学会認定 国際山岳医 、名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療所 開設者)のブログでのコメント

「甘草に含まれるグリチルリチン酸が、副腎皮質ホルモンのコルチゾールをコルチゾンに変換する酵素を阻害し、増加したコルチゾールが、尿細管の鉱質コルチコイド受容体に作用して、ナトリウムの再吸収を促進させ、カリウム排せつを増加させるため、血液中のカリウム濃度が非常に低い状態である低カリウム血症を生じやすい。登山者や山岳診療所の医師の中には、薬効があったという人は多い。しかし、低カリウム血症を生じるメカニズムから考えると、こむら返りの予防や治療に芍薬甘草湯を処方する気にはならない」

 

もう1人、同じく

国際山岳医の大城和恵医師のコメント

 大城医師は2016年8月10日付の「デジタル毎日」で次のようにコメントしています。

「最近、中高年の女性の間ではやっている漢方薬・芍薬甘草湯。脚がつったら飲みなさい、と周囲に分け与えている人もいますが、登山中に脚がつるのは、脱水、つまり塩分と水分が不足しているからです。一時的に症状を抑えるために薬を飲んでも、根本的な塩分と水分の不足を解決しなければ、ひどい熱中症に発展し、“疲労”遭難につながります。(中略)登山中は体重や天候、登山のスピードなどで異なりますが、一般的な目安として30分おきに200mlを飲んでください。以前、講演の際に、そんなに飲めないのではないですか?と質問を受けました。いえいえ、飲めます。だって、私も友人たちも必ずやっているからです」

 

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 登山での脚のつりも、薬に頼ろうとするのではなく、原因である脱水対策をきちんとすることが大切。塩分と水をしっかりとる!