北穂高岳で味わう至福のひと時

穂高連峰や丹沢を歩いて20年余り。見たこと学んだことを備忘録として書いています。

どうして?人体の不思議~山登りと頭痛

 

 これはよく起こることです。重いザックを背負って、上高地から横尾経由で、北アルプス・涸沢のテント場まで6時間歩く時のことです。

 テントを張る場所を確保し、ザックを下ろしてホッとしていると、軽い頭痛があることに気付くのです。

 それでもナトリウム(塩分)が入っているスポーツドリンク「ポカリスエット」をゴクゴク飲んでテントで仮眠をとると、目覚めた時には頭はスッキリしています。

 

 体が「脱水症状」を訴えたのだと思われます。登山道を歩いている時もしばしば立ち止まって水分を補給してきたのですが、十分ではなかったようです。

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涸沢カールに昇るお月さん (2019年8月10日午後7時撮影)

 

 「頭痛」の起こるメカニズム

 ひと口に「頭痛」といっても、原因はいろいろです。

 脳出血、脳腫瘍、片頭痛など深刻なケースがありますが、山で生じる場合はほとんどが、体内で一定に保たれていなければいけない「電解質」や「水分」のバランスが崩れたため、と考えて間違いないです。

 

 原因は脱水

 登山が趣味の医師が口をそろえて言うのは、体の脱水状態が進むと、「立ちくらみ」や「脚のつり」に続いて、「頭痛」もしてきますよ、ということ。

 

 脱水症状から頭痛が生じるメカニズムは、はっきりとは解明されていません。

 

 ただ、脱水によって体の血液の量が減ってくると、体のあちこちに酸素や栄養素が行き届かなくなります。すると、一番酸素を欲しがる「脳」が酸欠状態になってしまうから頭痛が生じるのではないか、と考えられます。

 

 また、脱水状態になると体温が上がって37度を超えます。そうなると「自律神経」の司令部にあたる脳の「視床下部」というところが、体温を37度に保とうと活動を始めます。

 具体的には、皮膚の表面から熱を発散させるために、皮膚の血管を拡張させて血流を増やそうとします。すると、脳の血管も膨らんで周辺を走行する神経を圧迫してしまうために頭痛が発生する、ということも考えられます。

 

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  前穂高岳(左)を照らす涸沢カールの夕日 (2019年8月10日午後5時)

 

 鎮痛薬を飲んでも良いのか

 頭がズキンズキンすると、つい携行している「バファリンA」を飲みたくなります。ただ、治療になるだろうか?

 

 販売しているライオン(株)のHPをみると、「バファリンA」は成人用の解熱鎮痛薬。痛みを鎮め、熱を下げる薬です。「バファリンAの鎮痛部分のアスピリン(アセチルサリチル酸)は、痛みや熱のもとになるプロスタグランジンの生産を抑制します」と書かれています。

 

 つまり対症療法の薬であって、熱や痛みの原因そのものを治す薬ではありません。

 

 頭痛のなおし方

 頭痛の原因が脱水だと自分で判断できれば、治し方は容易です。

 体内から汗や呼吸で減ってしまったのは、ナトリウム(塩分)などの電解質と水ですから、これを補充すればいいわけです。「スポーツドリンク」です。

 

 飲む量

 鹿屋体育大学の山本正嘉教授が著書「登山の運動生理学とトレーニング学」(東京新聞)で、登山中の脱水量の目安となる計算式を公表していますので、そこから補給すべき水分量も推定できます。この計算式は多くの医師や山岳ガイドが採り入れて登山者に紹介しています。

 

計算式は

登山中の脱水量(㍉リットル)=体重(㌔)×行動時間(時間)×「5」(㍉リットル)

 

例えば、体重が60㌔の人が6時間の登山をした場合、

60㌔×6時間×5=1800㍉リットル

の脱水量となります。1升ビン1本にあたります。

 

 ただ、この計算式は、「暑くない時期に軽装で、整備された登山道を標準的なペースで歩いていることを想定」したもので、ザックの重さも含めていません。計算式の中の「5」(㍉リットル)という数字は、調査したときに協力してくれた学生や一般登山者の「1時間・体重1㌔あたりの平均脱水量」ということですので、運動が激しい場合や汗かきの人、気温が高い日の場合は、数字を「6」や「7」にして計算する必要があります。

 脱水量かそれ以上を、水と電解質で補給する必要があります。

 

 補給するスポーツドリンクの濃さ

 水と電解質の補給にはスポーツドリンクがよくすすめられますが、医師や薬剤師が気にするのがスポーツドリンクに含まれる成分です。

 特に、「糖質(炭水化物)」の濃度です。例えば、ポカリスエット(500㍉リットル)の場合、100㍉リットルあたり炭水化物6.2㌘。他のメーカーのスポーツドリンクも似たり寄ったりです。

 これだと濃度が濃いために、カロリーも高く、飲んだ時に胃に残る時間が長くなって小腸に移動する時間が遅くなり、小腸で吸収されるまでに時間がかかりすぎる、というわけです。

 メーカーが糖質(炭水化物)の量を多くして濃度を濃くする一番の理由は、一般の清涼飲料水と同じように味をよくして飲みやすくするためです。

 

 このため登山では、スポーツドリンクは半分に薄めて飲むように、と指導する医師や山岳ガイドが少なくありません。

 私も「ポカリスエット」の粉末を愛用していますが、メーカーお勧めの量を2倍に薄めて飲んでいます。

 

 水中毒に注意

  “水分”が足りない、というと、水だけを飲もうとする人が少なくありません。しかし、それでは「水(みず)中毒」になる心配があります。

 水中毒は、水分をあまりに多く飲むことによって生じる中毒症状のことです。血液の中のナトリウム(塩分)の濃度が薄くなる状態です。血液検査をすると、低ナトリウム血症という状態になっています。悪化すると、吐き気や呼吸困難に襲われ、死にいたることもあります。

 

登山の運動生理学とトレーニング学

登山の運動生理学とトレーニング学

 

 

 

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