9月8日から9日にかけて首都圏を襲った台風15号の影響で、千葉県内で65歳の男性と93歳の女性、さらに82歳の女性が「熱中症」の疑いで亡くなった、と県が発表しました。
「熱中症」といっても、登山で汗をかいて脱水状態から熱中症になったのではありません。家の中にいて、熱中症になったのです。停電でクーラーを使えず、部屋の中が暑くなったためです。
台風15号のもたらした暴風で、千葉県内では送電用の鉄塔が2基、倒壊したほか、県内のあちこちで電柱が傾いて電線が垂れ下がり、大規模な停電になりました。
台風は停電だけではなく、「断水」をもたらしました。断水は水道管が壊れたわけではなく、水道局の停電で送水ポンプが停止したためです。
命を守る「水」を手に入れにくくなっている今回の事態。14日も深刻な状況が続いています。
家の中で熱中症による死者
「熱中症」は、炎天下できつい運動をした時に起こる、とは決まっていません。
高齢者の場合、のどの渇きや暑さに対する感覚が鈍くなり、体温調節機能が低下しているために体の中に熱がこもることで起こります。
熱中症の疑いで死者が3人出ました。
▼10日午後3時ごろ、停電中の千葉県南房総市で、93歳の女性が自宅の布団で意識不明になっていることに家人が気付き、119番通報。搬送先の病院で死亡確認。室内の温度が上がり、熱中症と見られる。
▼10日午後5時すぎ、停電中の千葉県市原市で、65歳の男性が自宅の廊下で倒れているのを帰宅した家人が見つけて119番。搬送先で死亡を確認。家人は救急隊員に「クーラーが使えないので暑かった」と話しており、熱中症と見られる。
▼11日朝、停電中の千葉県君津市の特別養護老人ホームで、入所中の82歳の女性が発熱などの症状で病院に救急搬送され、脱水などの診断を受けて入院していたが、12日、熱中症の疑いで死亡した。この特別養護老人ホームは台風の影響で停電しており、エアコンが使えない状態だった。
NHKニュース、千葉日報などから引用。
熱中症は、暑い環境のもとで生じる健康上の障害の総称です。
原因は脱水
人の体は、不思議なことに、体液、つまり水分と塩分など電解質を一定に保つシステムを備えています。ところが、このバランスは気温が高かったり激しい運動をした時に崩れます。
人間は口から取り入れた栄養素と酸素から、エネルギーをつくり出して生きていますが、その時に「熱」も発生します。
また、暑い場所にいたり、激しく運動をすると体温が上がります。
体温が上がると、自律神経の働きで手足の末梢血管が拡張します。すると、皮膚の下の血管の血液量が増え、外の空気に触れて体温が下がります。
また、体温が上がると「汗」をかきますから、その汗が皮膚から蒸発する時に、体表から熱を奪うことによって体温が下がります。
しかし、長時間、暑い環境にいたり、激しい運動をすると、自律神経の働きが不調になって体温調整ができなくなり、熱が体内にこもって体温が上昇したままになってしまいます。
そうした時に、一時的に脳に届く血液が不足して酸欠状態になり、意識を失う状態が熱失神と呼ばれる熱中症です。
また、汗をかく時には、水分だけではなく、水に溶けているナトリウム(塩分)やカリウムなど電解質も失います。このため筋肉のけいれんが起こります。これが熱けいれんです。
さらに、汗をかいて体内の水分が大量に失われ、脱水状態になると、頭痛や全身にだるさを感じます。これが熱疲労と呼ばれるタイプの熱中症。
体温が上がって意識障害を起こすのは、熱射病。ひと昔前までは、炎天下での運動で起こる障害を"日射病”と言っていましたが、それは「熱射病」の1つです。
熱射病が怖いのは、急性腎障害を起こすとがあることです。脱水状態になって体内の水分の量が減ると、血液の量も減り、「腎臓」への血流が下がります。「腎臓」の役割は、血液をろ過して尿を作ることですが、血流が減ると、排出すべき体内の老廃物を体外に出せなくなって、急性腎障害になることもあります。重症だと、多臓器不全を伴って死亡することもあります。
高齢者は注意
特に熱中症に注意しなければいけないのが高齢者です。高齢者は、
①加齢によって全身の感覚が衰えてきているため暑さを感じにくかったり、のどの渇きも感じず、おのずと水分不足になる。
②年をとるとともに筋肉が衰え、水分を蓄える量が減るために熱中症になりやすい。
③トイレにいく回数を減らすため、水分摂取を減らしがちになる。
ーーなどの理由から要注意です。
熱中症を防ぐには、こまめに水分と塩分(ナトリウム)を補給し、脱水状態にならないことが大切です。
「水」」の役割
水にスポットを当てます。
水が体の中で果たしている役割は何でしょう――。
第一に、「血液」の一部となって、体のすみずみまで酸素や栄養素を届けます。そして、体温が37度より上がらないようにするため、「汗」となって皮膚表面から蒸発する時に、皮膚から熱を奪って体温を下げます。
また、体内の老廃物を排出する時に、「尿」となって老廃物と一緒に体外に出ます。
水は1日どれぐらい飲めばよいのか
人が生きていくうえで必要な1日の水分摂取量はどのくらいだろうか?
この問いに対する研究は日本では乏しく、科学的根拠に基づく研究報告はありません。
このため厚生労働省は、外国での研究データを伝えるという格好で、ホームページの「健康のため水を飲もう推進運動」というサイトで地味に参考情報を載せています。
それによりますと、1日に排せつする水分量は、概算で「2.5リットル」としています。
内訳は、「尿と便」で1.6リットル、「呼吸や汗」で0.9リットル。
一方、出て行く水分を補うために摂取する1日の水分量は、”きちんと食事をした場合”は、
「食べ物に含まれる水分」1.0リットル。
「体内で糖質など栄養素がエネルギーになる時に産生される代謝水」0.3リットル。
従って、残り1.2リットルは、水を意識して飲めば、1日の水分の出入りが2.5リットルずつでつり合う、としています。
このデータをおそらく参考にして、全国の自治体は、災害時のために備えるべき水の量の目安を定め、住民に協力を求めています。
自治体が住民に要請している水の備蓄量は、どこもほぼ同じです。
1人1日3リットル、3日分
例えば、東京都水道局はホームページで、次のように水のくみ置きを要請しています。
①1人1日3リットル、3日分
人間に必要な水の量は、1人1日3リットルです。この量を目安に、3日分程度のくみ置きをしてください。
②常温で3日間
塩素の消毒効果は、直射日光を避けて常温で保存すれば、3日程度持続します。保存期間が過ぎたら、掃除や洗濯などのお使いください。
③フタのできる容器に口元まで
清潔でフタのできる容器に、できるだけ空気に触れないよう、口元までいっぱいに水道水を入れてください。浄水器を通したり、沸かしたりすると、消毒用の塩素が除去されてしまいます。
フィンランド北部のサーリセルカ (いずれも2017年11月下旬撮影)
大規模災害発生時は1週間分
首相官邸ホームページではこのほか、次のようなことが書かれています。
▼大規模災害発生時には、1週間分の備蓄が望ましいとされています。
▼飲料水とは別に、トイレを流したりするための生活用水も必要です。日ごろから、水道水を入れたポリタンクを用意する、お風呂の水をいつも張っておくなどの備えをしておきましょう。
「1週間分の備蓄」の根拠は分かりませんが、
現在進行中の千葉県での「停電・断水」問題をみても、
首都直下型地震への備えとしては「1週間分の備蓄」は最低限必要だと思います。
ポリタンクを新たに買わなくても、ふだんの生活で身近にあるカラのペットボトルを捨てずに、何本かに水道の水を入れておいて、洗い物に使う習慣をつけておくのもよいと思います。
水は命を守ります。どんな時でもこまめに水分・塩分を補給することが大事です。