大型で非常に強い台風19号が10月12日、関東地方に接近し、記録的な大雨や暴風になりそうです。
こうした台風が近づいてくると、「頭が痛い」とか「古傷が痛む」と体調不良を訴える人がいます。
「気象病」です。
気圧の急激な低下で「自律神経」が乱れるらしく、女性に多いようです。
どうしてそうしたことが起こるのか、メカニズムを調べました。
翌日の多摩川
佐藤純医師の研究
参考になるのは、愛知医科大学・学際的痛みセンター客員教授で、元名古屋大学・動物実験支援センター教授の佐藤純医師の研究です。
佐藤医師は、気象が原因の「気象病」のなかでも、特に痛みや、うつや不安といった心の病にまつわる病気を「天気痛」と名付け、愛知医大痛みセンター内に「気象病外来・天気痛外来」を立ち上げています。
気象病の症状
佐藤医師は著書「天気痛を治せば頭痛、めまい、ストレスがなくなる!」の中で、天気痛(気象病)の主な症状を書いています。引用しますとーー
▽頭痛
特に多い訴えは、頭痛とりわけ片頭痛。「天気が下り坂になると、こめかみあたりを中心に頭がズキズキする」という訴え。拡張した脳の血管が神経を刺激し、痛みとなって現れるもの。女性が圧倒的に多い。
▽首痛
首に痛みを感じる人は、「過去にスポーツで首を痛めた」という事例が少なくない。
▽めまい
耳の奥にある「内耳」という部分に原因がある。
▽耳鳴り
耳の中でキーン、ツーンという音がする。気圧の低下が関係している。
▽古傷がウズウズする。
ーーなど。
引き金は、低気圧による《自律神経》の乱れ
気圧の急激な変化によって、「天気痛」という体調不良に陥る原因は、
「自律神経の調整がうまくいかないことにある」というのが、佐藤医師の考えです。
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自律神経って?
自律神経って何だ?
この分野の研究の第一人者、小林弘幸・順天堂大学医学部教授の話です。
小林弘幸教授の解説
小林教授は著書で次のように言いますーー
「自律神経」というのは、人間が生きていくうえで大切な「体温を37度に保つ」とか、「眠っている間も呼吸を続ける」とか、「心臓の拍動を止めない」といった活動をコントロールしている神経。
その司令塔は、脳の真ん中の「視床下部(ししょうかぶ)」という部分にあるのです。
自律神経そのものは、体内で「交感神経」と「副交感神経」という2つの
ネットワークに分かれて存在しています。
この両者がバランスを取り合って健康的なリズムをつくっているのです。
「交感神経」は、背骨の中を通る脊髄(せきずい)という、脳から伸びてきた神経の束から、心臓、胃、腸といった各臓器にさらに伸びた神経のこと。
「副交感神経」は、脳の視床下部から、心臓、肝臓など各臓器に伸びる神経です。
「交感神経」のネットワークが体を支配すると、体はアクティブな状態になります。
「副交感神経」が支配すると、体はリラックスした状態になります。
人間は、睡眠中は「副交感神経」が優位ですが、朝になると「交感神経」が優位になり始め、やがて目を覚ます。午前中は「交感神経」が上がり続け、私たちは活動的になります。午後になると、「副交感神経」が上がり始め、夕方にはリラックス状態になります。
よく誤解されるのは、「両者はシーソーのような関係であって、どちらかの機能が高ければ一方は低くなります」という解説。しかし、それは間違った説明です。
理想は、両方とも高く維持されている状態です。「交感神経」も「副交感神経」も、よく働くのがよいのです。
「交感神経」は高いレベルで活動しているけれど「副交感神経」が低い状態が続いていると、人は病気になりやすいのです。
そういう人は絶えずイライラし、血圧や血糖値も高く、生活習慣病にかかりやすい傾向にあります。
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気圧の変化は《内耳》で感じる
「気象病は、耳の鼓膜の奥にある内耳が大きく関係しています」――。
佐藤医師の研究グループは2019年1月29日、「気圧の変化を感じる場所が、内耳にあった」とする研究論文を医学の専門誌に載せました。
それによりますと、研究グループはマウスを使った実験で、マウスの「内耳」の「前庭(ぜんてい)器官」に気圧の変化を感じる場所があることを、世界で初めて突き止めました。
「前庭器官」は従来、体のバランスを保つための器官と考えられていたわけですが、それに加えて気圧の変化を感じ取る機能もあることが確かめられた、というわけです。
気象病(天気痛)のメカニズム
佐藤医師は、研究論文にこう書いています。
「今回の研究成果から、私たち人間においても、天気の崩れによって、前庭器官が気圧の微妙な変化を感じ取り、《脳》にその情報が伝わり、結果として古傷や持病の痛みを呼び覚ましたり、めまいや気分の落ち込みといった不調を起こすものと考えられます。今後も研究を続け、どのようなメカニズムで前庭器官が気圧の変化を感じ取るのかを明らかにしていきます。このメカニズムを明らかにすることで、気象病や天気痛の有効な治療法の確立につなげていきます」
佐藤医師は、天気痛(気象病)は内耳が敏感な体質の人がなりやすいのではないか、と考えています。
気象病にどう対処する?
気圧の変化は、「自律神経」にどんな影響を及ぼすのでしょう。
佐藤医師のコメント
佐藤医師はこれまでの実験結果から、
「気圧が下がる(=天気が悪くなる)と、人間の体はこの変化をストレスと感じ、それに抵抗しようと「交感神経」が優位になります。交感神経が活発になればなるほど、頭が重くなったり、片頭痛の予兆を感じたりするようになるのです」と言います。
そして、こう続けます。
「気圧の変化というストレスに負けて自律神経が乱れてしまうと起こるのが、天気痛です。ですから自律神経を整えることが大事です。
自律神経を整えるためになすべきこととして、次のことを著書(前出)で例示しています。
①朝、昼、晩と正しいリズムで食事をとること
②ウォーキングや軽めのランニング、水泳などを日常生活に取り入れる。
③入浴の時にシャワーで済ませず、お湯につかること
ーーなど。
小林教授の助言
小林・順天堂大学教授は、こういいます。
「自律神経はとてもデリケートで乱れやすいため、急激な気圧と天気の変化は、自律神経の敵」
「低気圧で交感神経が高まった時に、副交感神経の働きが悪いと、交感神経の過活動によって生じる痛みを抑えることはできません。しかし、両者が高いレベルで働いていれば、痛みの程度も軽くなります」
「自律神経をコントロールするポイントは、ひと言でいうと《ゆっくり》です。ゆっくり、を意識し、ゆっくり呼吸し、ゆっくり動き、ゆっくり生きる。そうすると、下がり気味の副交感神経の活動レベルが上がり、自律神経のバランスが整い始めるのです」
「低気圧女子の処方せん」(小林弘幸監修・小越久美著)では、
処方箋として、
①ジーッと座り続けるのではなく、30分から1時間に1回は、体を動かす。交感神経の暴走を食い止めるためです。
②4秒吸って8秒吐く、など深呼吸すると、全身の緊張が緩みます。副交感神経が高まります。
③鏡を見て、にっこりする。リラックスでき、副交感神経を刺激できます。
ーーなど興味深いテクニックを紹介しています。