すい臓がんから身を守る
「すい臓がん」という病名を聞くと、「ああ、この先、長くないな」と思う人が多いと思います。残念なことに60歳代から70歳代で命を失ってしまうことが少なくないようです。
長年勤務していた新聞社のOBも、2018年1月から2019年9月末までの2年足らずの間に、8人がすい臓がんで亡くなりました。
世話になった先輩もいます。悔しいです。
在職中の職種と死因は無関係だとは思いますが、死亡時の年齢と主な職場はこうです。いずれも男性。
80歳(印刷部門→製作技術部門)
60歳(印刷部門→総務部門)
79歳(施設管理部門)
66歳(記者)
74歳(記者)
75歳(印刷部門)
70歳(記者→取締役)
73歳(印刷部門)
日本人男性の平均寿命は81歳です。
すい臓がんで早死にしないためには、どうしたらよいのか。
わが身を守るために、調べました。
すい臓の大きさ
すい臓は、小さいです。長さは15センチから18センチ、太さは2センチから5センチ。おたまじゃくしのような形をした細長い臓器です。
すい臓の位置
体の奥にあります。みぞおちの少し下で、「胃」のちょうど後ろ側、背中の側にあります。「十二指腸」がへばりついているうえ、たくさんの血管が周りを走っています。
すい臓の役割
何をしている臓器かというと、2つの仕事をしています。
1つは、食べ物を消化する「すい液」を分泌すること。「すい液」は、たんぱく質を分解する酵素や脂肪を分解する酵素、糖を分解する酵素など20種類以上の消化酵素を含む液で、人間が食べたものは「十二指腸」で、すい臓から排出された「すい液」と混じりあって消化されます。
もう1つの役割は、血糖値を調節するホルモンを分泌すること。すい臓で分泌される代表的なホルモンには、血糖値を下げる働きをするインスリン、逆に血糖値を上げる働きをするグルカゴンです。これらは直接、血管の中に入って血糖値を一定に保ちます。
すい臓がんとは?
「すい臓がん」というのは、すい臓から発生した悪性腫瘍(しゅよう)のことです。
すい臓の細胞の中にある「DNA」のうち、遺伝情報を持っている領域である「遺伝子」が、何らかの事情で傷つき、遺伝子が変化した異常細胞が次々と分裂して増殖することによって異常細胞の塊になります。これが「がん」です。
初期症状がない!
体の奥にあるためか、初期にはほとんど症状がない、というのが最大の難点。
がんが進行するにつれて、腹痛、食欲不振、吐き気、おう吐、腹部膨張感、黄だん、腰や背中の痛みなどがみられることがあります。ただし、これらはすい臓がんに特徴的な症状とは言えず、すい臓がんであっても必ずしも現れるわけではありません。
がんによる死者数(予測)
国立がん研究センターがHPで公表している「2019年のがん統計予測」をのぞいてみました。すると、
「がん罹患者数予測」では多い順に、
①大腸
②胃
③肺
④乳房(女性)
⑤前立腺
⑥すい臓
・・・となっており、6番目に多いすい臓がんの患者は、40600人。
すい臓がんの死者、年間3万人以上!
もうひとつ、「がん死亡者数予測」では、多い順に
①肺
②大腸
③胃
④すい臓
・・・4番目がすい臓です。死亡数(予測)は、35700人。
つまり、すい臓がんになる人と、亡くなる人の数がほぼ同じであり、治りにくいがんだということです。怖い病気です。
なぜ死亡率が高いの?
すい臓がんの場合に亡くなる人の割合が多いのは、すい臓自体が胃の後ろにあるため、人間ドックでの画像検査でも発見しにくいことがあります。早期発見が難しいということ。
「なにか体がおかしいなあ」というような初期症状がなかなか出てこないことも理由の1つ。
さらに、すい臓の周りには肝臓、胃、大腸などがあって、早くそれらに「転移」してしまい、切除が広い範囲に及ぶため、手術には非常に高い技術が求められます。
肉眼的に、がんを全部切り取ったと判断しても、目に見えないがんが手術範囲の外側にまで広がっている可能性もあり、再発することが多いです。
原因はわからない
気になるのは、どうして「すい臓」ががんになるの?ということ。
国立がん研究センター中央病院の医師らが執筆した「最先端治療 胆道がん・膵臓がん」によりますと、
「原因はあきらかではありません」。
しかし、「危険因子は徐々に明らかになっています」といいます。
『危険因子』というのは、病気の直接の原因ではないけれど、病気になりやすくする要素のこと。
特定の病気になった人の集団を解析したデータから、確率の高い要素を引っ張り出したものです。
すい臓がんの早期発見が難しいだけに、「危険因子」をすこしでも遠ざけることが大切なようです。
危険因子
「膵がん診療ガイドライン2016の解説」(日本膵臓学会ガイドライン改訂委員会編)によりますと、
「すい臓がんの危険因子」は次のように書かれています。
▽家族にすい臓がんの人がいる
▽遺伝性膵がん(=すい臓がん)症候群
▽糖尿病(糖尿病でない人に比べて、リスクは約2倍。糖尿病の発症や急な悪化は、すい臓がんの可能性が疑われる)
▽肥満(若い時に肥満であった人はリスクが高まる)
▽慢性すい炎(慢性すい炎と診断されて2年以上たった人は、すい臓がんのリスクが一般の人に比べて約12倍に高まる)
▽遺伝性すい炎(家系に2人以上のすい炎患者がおり、少なくとも1人はアルコールなどが原因ではなく、かつ、兄弟姉妹が患者の場合は、発症が40歳以下という条件を満たした場合、「遺伝性すい炎」とされ、リスクは一般の人の約60~87倍に高まる)
▽すい管内乳頭粘液性腫瘍、すいのう胞
▽喫煙(喫煙者がすい臓がんになるリスクは、喫煙しない人の約1.68倍。喫煙本数が1日40本以上の男性は、すい臓がんによる死亡率が約3.3倍に高まる)
▽大量の飲酒
こうした内容から、すい臓がんにならないためには、遺伝はどうしようもないとしても、飲酒や喫煙、肥満といった生活習慣の見直しによって、危険因子を少しでも避けることが大切なようです。
予防策
「すい臓がんの予防策」、といった特定の臓器を念頭に置いた策はないようです。
ただ、「国立がン研究センターがん対策情報センター」が、日本人を対象にした研究をもとに、科学的根拠に基づいた「日本人のためのがん予防法」を冊子にまとめており、パソコンからもダウンロードできますので、これを要約して載せます。
『科学的根拠に基づくがん予防』
日本人のがんの予防にとって重要な生活習慣は、次の5つ。
①禁煙する
②節酒する(“酒を飲むな”ではない)
③食生活を見直す
④体を動かす
⑤適正な体重を維持する
(解説)
①たばこは吸わない。他人のたばこの煙を避ける。日本人を対象とした研究の結果から、たばこは肺がんをはじめ、食道がん、すい臓がん、胃がん、大腸がん、ぼうこうがん、乳がんなど多くのがんに関連することが示されました。受動喫煙でも、肺がんや乳がんのリスクは高くなります。
②多量の飲酒でがんのリスクが高くなることが、日本人男性を対象とした研究で分かりました。特に、飲酒は食道がん、大腸がんと強い関連があり、女性では乳がんのリスクが高くなることが示されています。
③食生活に関しては、これまでの研究から、「塩分の取りすぎ」「野菜や果物をとらない」「熱すぎる飲み物や食べ物をとる」ことが、がんの原因になるということが明らかになっています。これらに気を付けることによって、日本人に多い胃がん、食道がん、食道炎のリスクが低くなります。
④国立がん研究センターの研究報告によると、男女とも身体活動量が高い人ほど、何らかのがんになるリスクが低下していました。特に、高齢者や、休日などのスポーツや運動をする機会が多い人では、よりはっきりとリスクの低下がみられました。がんの部位別では、男性では、結腸がん、肝がん、すい臓がん、女性では胃がんにおいて身体活動量が高い人ほど、リスクが低下していました。
⑤肥満度の指標である「BMI値」は、男性は21~27、女性は21~25の範囲の場合、がんでの死亡リスクが低いことがこれまでの研究で示されました。
この5つの生活習慣を実践することで、がんになるリスクはほぼ半減します、ということです。