「健康寿命」という言葉をよく聞くようになりました。
少子高齢化が進む中で、医療費を少しでも減らそうとするお役所の発想から使われることが多いのですが、健康寿命を延ばすこと自体は、悪い話ではありません。
できるだけ楽をして健康である期間を延ばすには、どうしたらいいんでしょう。
健康寿命って何?
「健康上の問題で日常生活が制限されることなく、生活できる期間」というのが、
厚生労働省の定義です。
世界の194ヵ国が加盟するWHO(世界保健機関)が提唱した指標です。
人の助けを借りずに自分で起き上がったり、服を脱いだり着たり、食事も歩くことも風呂に入ることも、自分一人でできる“期間”のことです。
この「健康寿命」と、昔から聞き慣れている「平均寿命」との開きが、
「健康ではない、不健康な期間」を指します。
この「健康ではない、不健康な期間」は、2016年時点で、
男性はおよそ9年、女性はおよそ12年でした。
これからも医療技術の進展で「平均寿命」が延びるにつれて、
「健康ではない、不健康な期間」が長くなるのではないかと思うと、ゾッとします。
平均寿命の延び以上に、健康寿命を延ばして、ある日突然、そんなに苦しむことなくピンピンコロリといきたいところですが・・・。
なんで「健康寿命」の心配をするの?
お役人の立場からすると、生まれてくる子供が少なくなる傾向の中で、高齢者が増え続けると医療費はかかるし介護の給付金も伸びる一方だから、健康寿命を延ばしたいと考えます。
我々庶民も、年をとって寝たきりになったり認知症になって介護を受ける期間を短くしたい。家族も介護はたいへんでしょう。暗い、悲しい事件もよく耳にします。
健康寿命は男72歳、女75歳!
日本人の健康寿命はいくつでしょう。
厚生労働省が2018年3月9日に開いた「21世紀における第二次国民健康づくり運動」推進委員会に出した基礎資料を見ますと、
日本人の「健康寿命」は2016年に、男性72.14歳、女性74.79歳でした。
72歳なんて、あとちょっとじゃないですか。とてもショックな数字です。
一方、「平均寿命」はどうでしょう。
厚生労働省の「平成30年(2018年)簡易生命表」という統計資料によりますと、
男性81.25歳、女性87.32歳でした。
平均寿命は延び続けています。
介護が必要な生活が10年前後もある!
平均寿命から健康寿命を単純に引き算しますと、
男性は、81.25-72.14=9.11
女性は、87.32-74.79=12.53
男性は9年間ほど、女性は12年から13年間ほど、
介護が必要な生活を送るという計算になります。
長いような気がします。
できるだけ、“避けられない寿命”と“健康寿命”の差を縮めたいものです。
そのためには、健康寿命を延ばすことです。
では、どうするか・・・。
新年です・・・節目の時期に何をするか
昔から「老化は脚からくる」と言われています。
年をとって、まず衰えるのが、脚の筋肉です。人間の体の筋肉は、40歳を過ぎると少しずつ量が減ってきます。
70代になると筋力の低下が加速する、と医師は言います。
ふつう“筋肉”と呼んでいる「骨格筋」は、筋線維(きんせんい)という細胞の束からできていて、両端が腱(けん)を介して骨につながっており、骨を動かすことによって体が動きます。
その肝心の筋肉が細くなり、それに比例して筋力も低下するわけです。
脚の筋肉の中でも、最も衰えやすいのが、太ももの前面にある
「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」です。
だから、太ももの前面の筋肉を鍛えましょう。
太ももを鍛えよう
加齢によって最も衰えやすいのが太ももの「大腿四頭筋」です。太ももの筋肉を鍛えなければいけません。
唐突ですが、
この「大腿四頭筋」の筋力は、登山者にとっても一番大事な筋肉です。
運動生理学の第一人者、鹿屋体育大学の山本正嘉教授の解説によりますと、
登山の場合、
登りの時には、脚を持ち上げるために、太ももの前の部分の、大腿四頭筋が縮むことで力を発揮します。
これをスポーツ生理学では「短縮性の筋収縮」と表現します。
逆に、下りの時には、後ろ脚に体重を乗せて体を支えながら前脚をそっと出して、静かに着地する。このため後ろ脚の太ももの大腿四頭筋が、引き伸ばされながらも収縮して力を発揮します。
これが「伸張性の筋収縮」です。
この下りの時には、太ももの筋肉の疲労が加速し、急激に筋力が低下します。だからこそ、ふだんから大腿四頭筋を鍛えておかなければいけません。
山本教授は、太ももを鍛えるには「なるべく山に行くこと」、そして下界でのトレーニングでは、「階段下りを取り入れた歩行または走行」という二重の対策を提唱しています。
おすすめの階段下り
東京都健康長寿医療センター研究所の大渕修一研究部長は、著書「健康寿命の延ばし方」の中で、「階段下り運動」を提唱しています。
階段を「降りる」というトレーニングについて、大渕さんは「このトレーニングは、少しのトレーニングでも筋肉を強くする効果が高いと考えられています。筋肉が強くなるためにはある種の刺激を必要とします」と指摘。
高層ビルに勤めている人に対しては、「下りはできるだけ階段を使って下りることによって、汗をかくことなく、トレーニングできます」「高いビルの最上階までエレベーターを拝借して上がって、帰りは階段を下って帰ってくると、素晴らしいトレーニングになります。もし途中で無理であれば、そこからエレベーターに乗って帰ってくることもできるわけです」と提案しています。
歩くだけでもいい、という研究もある
認知症になると、自立した生活ができません。認知症予防について、
「よく歩くと認知症になりにくい」という研究成果があります。
東京都健康長寿医療センター研究所の報告です。
歩行は認知症予防につながる!
これまでの医学界の研究で、
日ごろよく歩く人は、あまり歩かない人に比べて認知機能テストの成績が良いことが分かってます。しかし、なぜ、「歩行」が認知機能に影響しているのか・・・。
「脳」は、たくさんの「神経細胞」がネットワークを組んでいて、細胞から細胞へと電気信号に乗った情報が伝えられます。
しかし、アルツハイマー型認知症患者では、脳の中で「記憶」をつかさどる海馬や大脳皮質という部位で、正常者に比べて著しい血流の低下がみられます。
エネルギーをつくるのに必要な酸素とブドウ糖が、血流に乗って脳の隅々の細胞まで届いていないわけです。
また、神経細胞から隣の神経細胞へと、バトンリレーのように次々と分泌される物質を「アセチルコリン」と呼びますが、
アルツハイマー型の認知症患者が亡くなった後に、脳を解剖して調べた研究から、脳内のアセチルコリンの活性が低いことも分かっています。
そこで東京都健康長寿医療センター研究所では、ラットを使って実験した結果、
脳の神経細胞を刺激すると、海馬や大脳皮質の神経細胞からのアセチルコリン放出が増え、周辺の血管も広がって血液の流れがよくなることを「発見」しました。
実験は、ラットをトレッドミルというランニングマシーンの上を歩かせ、海馬と大脳皮質の血流と血圧を同時に測定するもの。
その結果、血圧があまり上がらない程度の無理のない歩行をすると、アセチルコリンが増え、血流もよくなりました。
老齢のラットも若いラットも、同様の結果が得られた、ということです。
無理せずゆっくり歩くこと
「登山」は健康寿命を引き延ばすのに好都合です。が、登山をしない人でも、
家の近所を歩くだけでも効果はあるようです。