北穂高岳で味わう至福のひと時

標高3000㍍の北アルプスに登っていたころの写真記録、国内外の旅行、反戦平和への思いなどを備忘録として載せています。

民放ローカル局は南海トラフ地震におびえています

 

目次

 

 

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 静岡市日本平送信所 (2008年9月13日撮影)

 

 

2009年8月の「静岡地震」を思い出した

 福島県震度6の揺れを観測した2021年2月13日深夜の地震――。10年前の恐怖が蘇った、と話す高齢の女性がテレビに映っていましたが、そうでしょうねえ。私もささやかな地震体験を思い出しました。

 

 これは、静岡市内に住んでいた時、民放ローカル局で見聞きしたホントの話です。

 

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 静岡、と言えば、≪東海地震≫を連想しますよね。

 

 

 2009年8月11日午前5時7分静岡県沖の駿河湾震源とするマグニチュード6.5の地震が発生しました。震源の深さは23キロ。県内の最大震度6弱

 

 

わがアパートの実情

 「来たか」と思いました。ガバッと反射的に起きて、テーブルの上に置いてあった眼鏡をかけ、テーブルに両手をついて体を安定させました。・・・でも、東海地震ではありませんでした。

 

 静岡県庁に近いわがアパートは、震度5。トースターやコーヒーメーカーがテーブルから吹っ飛び、本棚から本やCDがバサッと倒れ、洗面台からは整髪料などが落っこちました。

 

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取材体制

 自転車で15分ほど突っ走って、テレビ局に到着。社員や関連会社スタッフも続々と駆け込んできました。

 

 マスクをして席に着いた女性アナもいました。「風邪、ひいたの?」なんて聞くと、「お化粧する時間がなくて・・・」。また、嫌われるようなことを口走ってしまい、

後悔することしきり。

 

 

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 報道フロアーでは、テキパキと作業が進んでいたようでした。

ホワイトボードには被災状況や取材体制が書き込まれます。

 

 

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 取材体制をみますと、市内の静岡ヘリポートに常駐する道ヘリも飛んで東名高速道路の崩落現場を空から取材しているし、通信衛星経由で映像など情報を伝送するSNG中継車も出動している。

 

 街中には、FPU(Field Pickup Unit)という無線伝送装置を搭載した中継車も出ている。ENG(Electric News Gathering)という肩に担ぐタイプのカメラも3班動いている。

 

 静岡県東部の伊豆地方には、系列の東京キー局の中継車が入り、県西部の浜松市には名古屋の系列局の中継車が入る手はずになっている。

 

 地方テレビ局各社は、全国どこでも社員が100数十人ぐらいで、記者は10数人から20数人程度。系列の応援は涙が出るほどありがたいことなんです。

 

 

 

静岡地震東海地震と無関係というが・・・

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   (気象庁HPから引用)

 

 

 静岡地震は、震源東海地震の予想震源域」の中で発生しました。ですから関連があるのかないのか、非常に気になりましたが、「結びつくものはない」というのが専門家の話でした。

 

 

 

恐怖から押し入れに頭を突っ込んで寝る

 でも、県民は、専門家の話を信じません。私も・・・。

 「震度5弱」でビビッて以降、アパートの部屋の中で一番安全なところはどこか、見回しますと、押し入れの中では・・・。というわけで、夜は頭を押し入れに突っ込む形で布団を敷くようにしました。ギシッと揺れの第一撃がきたら、体を押し込めるだろうと思ったからです。臆病ですので。

 

 

 

静岡第一テレビの被害

 静岡の民放4局の1つ、日本テレビ系の静岡第一テレビはこの2008年9月の地震で、大切な基幹系システムを納めた「サーバーラック」というものがゆがむという被害を受けました。それでサーバー用免震システムの導入に踏み切りました。

 今後の対応として、サーバーやネットワーク機器を本社社屋のいちばん安全な場所に移設することも、この時決めています。

 

 

 

 

2011年の≪3.11≫後

 

 その後、日本を襲ったのが「3.11 東日本大震災」。

 静岡市は震度4。職場の壁の額縁が、左右にいつまでも揺れていたことを覚えています。

 

 

 

南海トラフ地震の被害想定

 

 2012年8月29日政府南海トラフ地震対策検討作業班南海トラフ地震で想定される被害」を発表しました。

 

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 (上の図は気象庁HPから引用。赤線で囲まれた領域南海トラフ地震想定震源

 

 

 

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  (気象庁のHPから引用)

 

 

 

 南海トラフは、2009年8月の静岡地震震源地となった駿河湾を起点に、九州の宮崎県にかけての範囲で、

海側のプレート(フィリピン海プレート)が日本列島が乗っている陸側のプレート(ユーラシアプレート)の下に、1年に数センチ沈み込んでいる「溝」のことです。

 

 日本列島が乗っている陸側のプレートが、引きずり込みに堪えられなくなって跳ね上がることによって、「震度7」の巨大地震が発生する可能性があるのです。

 これが南海トラフ地震です。強い揺れと大津波の襲来が想定されています。

 

 

 

 駿河トラフというのは、南海トラフの一部です。駿河湾から遠州灘沖にかけての細長い海底のくぼ地です。

 「駿河トラフ」で東海地震が発生すると考えられています。それだけに2009年の静岡地震はヒヤリでした。

 

 

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  (図は、産業技術総合研究所HPからの引用)

 

 

 

 政府の南海トラフ地震の被害想定ですが、

冬の深夜に発生する最悪の場合の死者数は、

静岡県では

建物倒壊で1万3000人津波で9万5000人ほか。

 

 これはまずい、ということで老朽化している局舎の建て替えの検討に着手するテレビ局が相次ぎました。

 

 

 

ヘリコプターが武器ですよ

 社屋建て替えの検討に着手する同時に、いま南海トラフ地震が起きたらどうするか、という「頭の体操」が各テレビ局で始まりました。

 

 

 まずは、武器としてのヘリコプターについて。

 「テレビ報道の肝は『映像での速報』であり、目の前で起きていることを映像や音声で記録して直ちに人々に伝えることですよ」と、社内で認識を共有しました。

 

 そして、報道ヘリに乗り込むカメラマンには、

①大地震が発生したら、とにかく空に上がれ

②報道デスクから指示を受けるのは、空に上がってからでもよい

 

という大胆な大方針を出しました。「映像」を重視したためです。

 

 

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 静岡ヘリポートにある報道ヘリの1機。

 

 

 

ヘリポートに走れ! 操縦士とカメラマンに指示

 静岡ヘリポート静岡市郊外にある市の施設で、夜間は離発着できません。ただ、それは原則であって緊急時は別です。(強引に飛ぶでしょう)

 日中は地方テレビ局は操縦士と整備士だけが詰め、カメラマンは空撮の仕事がある時だけ、それぞれの局から車でヘリポートに向かいます。(NHKだけは日中もカメラマンが常駐でした)

 

 問題は、夜間に大地震が発生した場合の対応。電話が通じにくくなるかもしれない。それにヘリポートとその周辺は、大雨の時に河川に一気に水が流れ込まないように雨水をとどめておく「遊水池」なんです。ですから地震の時は液状化し、車は多分通れません。そこで、

 

ヘリポート近くのホテルなどに泊まりする操縦士、整備士には自転車でヘリポートに向かってちょうだい

カメラマンヘリポート近くに住む人を担当に決め、デスクと連絡が取れなくてもとりあえず飛ぶように――

など、指示をしました。

 

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 静岡ヘリポート。高床式の構造で、下は大雨の時に調整池になる。右は格納庫。

 

 

 

スタジオが壊れた時の対応を検討

 大きな揺れで局舎にトラブルが発生して、スタジオで制作した番組を日本平の送信所に送れなくなったらどうしようか。

 

 本社のスタジオがぶっつぶれたり、

 本社屋上のアンテナが傾いてマイクロ波での無線回線が使えなくなったり、

 予備のNTT光ファイバー回線も使えなくなった時のことです。

 

 SNG中継車を活用しよう、ということになりました。

 

 

SNG中継車を活用しよう!

SNG(Satellite News Gathering)通信衛星というスカパーJSAT(株)が打ち上げた人工衛星を使って情報を伝送するシステムです。

 このSNGを搭載した車が≪SNG中継車で、災害や事件・事故現場で取材した映像や音声を電気信号にして、空に浮かぶ人工衛星経由で、スタジオのある本社に生中継する装置です。

 

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 池上通信機㈱が日本テレビ系列18局に納入したSNG中継車(同社HPから引用)

 

 

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 東海テレビSNG中継車(コスミックエンジニアリングHPより)

 

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通信衛星(スカパーJSATのHPから引用)

 

 

 

考案した奇策?

 考え出したのが以下の手順です。

日本平送信所の合同局舎の中の「自社の送信機」に、マスターバックアップ装置という緊急用の機器を運び込んでセットする。

 (注)日本平送信所静岡県内のNHKと民放テレビ局が共同で建設して2005年から運用を始めている鉄塔。鉄塔に各局がアンテナを取り付け、この日本平送信所を起点に県内各地に建設してある「中継局」に電波を飛ばしています。

 

SNG中継車日本平送信所の敷地に乗り入れる。

SNG中継車のアンテナを通信衛星に向け、系列の東京キー局から飛んでくる番組を通信衛星経由で受信する。

④キー局からの番組は、SNG中継車日本平送信所内のマスターバックアップ装置を経て、鉄塔のアンテナから電波に乗って飛び、家庭のアンテナにたどり着く。

 

 

 素晴らしいアイデアだと思います。

 実際に試してみませんでしたが、局内でいろいろ雑音がありました。いわく、

・大地震の時、日本平送信所に通じる道路は崩壊しないか?

・中継スタッフは確保できるか?

・ローカルテレビ局なのに、地元の情報ではなく東京の番組を流す意味があるのか?

・収入源のスポットCMを流す方法はないのか?

・災害時にCMは二の次でしょ?

 

そんな中、技術担当の若いスタッフは一生懸命でした。

 

 

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  静岡市日本平送信所 (大成建設のHPから引用)

 

 

 

耐震局舎の建設で生き残り図る

 いま、静岡は建設ラッシュです。南海トラフ地震が発生しても電波を出し続けられるように、ということのようです。

 

 

NHK静岡放送

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 NHKの局舎(NTTファシリティーズHPより)

 

2013年10月、静岡ガス㈱から土地を取得。4105㎡。

2016年2月着工。

2017年9月完成。

2018年3月から運用を開始

免震構造の鉄筋4階建て。電源設備は上階に設置。

建設費28億円、放送設備20億円、用地取得費9億円

 

 

 

テレビ静岡

フジ系列。

2014年7月着工。

2017年10月から新社屋で業務開始

防災を念頭に置いた設計の社屋。

5階建ての建物全体に免震構造を採用。

電源室は津波による浸水を想定して従来の1階から4階に設置。

 

 

静岡第一テレビ

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 静岡第一テレビ (山下PMCのHPから引用)

 

 日テレ系列。

2019年3月着工。

2020年5月完成。

2022年3月から全面的に稼働予定

鉄骨3階建て。

 

 

 局舎が老朽化していた3局はいま、一息ついているようですね。