ライチョウのオス (2021年7月16日、北アルプス・白馬乗鞍岳で撮影)
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ライチョウに出会った
氷河期時代からの生き残りで、絶滅の危機に瀕しているライチョウーー。その1羽に2021年7月16日(金)、登山道で出会いました。目の上の赤い肉冠(にくかん)が目立つオスです。
2万5千分の1の地形図。小蓮華山~白馬大池~白馬乗鞍岳~天狗原~栂池と続く。
遭遇したところは、白馬乗鞍岳(標高2456㍍)のケルンから、歩いて2分ほど天狗原に向かった稜線のハイマツ帯です。
登山道の右端のロープ柵の下。石の上に乗っかり、お尻をコチラに向けていました。
時刻は午後0時34分。天候は天候は曇り。“目標”まで10㍍余り。
「これはこれは。アンタに遭いたかったのよ」とばかりに、ザックのショルダーベルトからコンパクトデジカメを取り出して、撮影の準備。
モニターを見ながらズームボタンを押して、アップで撮ろうとしていると、
ライチョウ君は軽快なフットワークで岩の間をすり抜けて、ハイマツの中へ。
いない!
「あらら。どこに行っちまったんだろう」とカメラから目を離して探し、
見つけ次第、またモニターをのぞき込んでサイズを合わせるといった感じでした。
ライチョウはキジの仲間です。体はズングリムックリで、約37センチ。ニワトリより、やや小さめ。
午後0時55分まで20分間、ゆっくり観察させてもらいました。
高山のハイマツ帯で生きるライチョウ
午後0時44分撮影。
ライチョウは、普段の我々の生活ではなじみがないですよね。
100万年前、日本列島が大陸と陸続きだった氷河期に、日本に渡ってきたようです。地球温暖化で氷河期が終わった後も、本州中部の高山帯に取り残されたライチョウの子孫が、現代にいたっても生息しているわけです。
北アルプスと南アルプスの森林限界より上の、標高2400㍍以上の高山帯にだけ、生息しています。
白馬乗鞍岳のハイマツ帯。
ライチョウの無雪期のすみかは、稜線沿いの背丈の低いハイマツ。
ハイマツは、敵から身を隠す場所になり、巣をつくる場所になります。それに周りにはエサとなる高山植物が多く分布していて好都合なんですね。
≪砂浴び(すなあび)≫で体をきれいに
ライチョウは、きれい好きなんでしょうか。ハイマツの中から、横の登山道に出ようとしています。(午後0時44分撮影)
ライチョウ君が登山道に出ました。(午後0時46分撮影)
足でけった砂が、白い羽に当たります。 (午後0時46分撮影)
登山道の周囲はこんなふうです。左下にライチョウ。(午後0時50分撮影)
見ていると、乾いた砂の上で、足で砂を蹴ったり、羽で砂をまき散らしたり、はたまた片一方の羽を開いて体を砂地にこすりつけてみたり、クチバシで自分の羽や土をつついていました。
時々、砂浴びを中断して、膨らませた羽をブルブルッと震わせます。
砂浴びは、羽に寄生しているハジラミなどの寄生虫を砂とともに振り落とすための動作だそうです。一心不乱です。
足が見えました。(午後0時54分撮影)
午後0時54分まで8分間、登山道で砂浴びを楽しんで、またハイマツ帯に入っていきました。
ライチョウが去った後には、砂浴びでできたくぼ地が残っていました。
この8分間、登山者が通りがかることもありませんでした。
一生仲の良い つがい
研究者によりますと、ライチョウは冬の間、高山植物などが雪に覆われてエサをとることができないため、高木が育たない標高2000㍍前後の「森林限界」という高度まで山を下ります。そして急斜面に露出するダケカンバの冬芽などを主食にして、オスとメスが別々の集団をつくって過ごすそうです。雪に潜って、寒さをしのぐとのことです。
4月になると、繁殖のために群れを解消し、パートナーのもとに戻る習性があるそうです。
そして、オスはなわばりをつくるために、山の高い場所に移動し、自分のなわばりを持ちます。
ライチョウは、1羽のオスと1羽のメスがつがいになって繁殖する一夫一妻だそうです。つがいができると、オスはなわばりを守る行動とともに、メスを他のオスに奪われないようにメスにくっついて行動します。
6月ごろ、メスはハイマツの下の土の上につくった巣で、卵を産みます。ほぼ2日おきに卵を1個ずつ産み、6つか7つ生み終えてから一気に卵を温め始めます。卵は23日間で一斉に孵化(ふか)します。
7月に誕生したヒナは、すぐに歩くことができます。
孵化するまで、オスは見通しが効く岩の上などに立って、自分のなわばりを見張り続けます。
ふだんは地面を歩いて生活する鳥ですが、なわばりに別のオスが侵入してくると、追い出すために空中を飛んでケンカをするようです。
誕生したヒナは、7月中に母親に連れられて、巣から離れます。ヒナはその後、3ヶ月間、母親とともに行動し、母親に育てられます。
オスの親は、単独で過ごし、子育てを手伝うことはありません。私が出会ったオスは、このタイミングかもしれません。
人間を怖がらない
日本のライチョウは、人間を怖がりません。
研究者は「日本には山岳信仰が古くからあって、神の住む領域にいるライチョウは
神の鳥であって、外国のようにライチョウを捕獲して食べる習慣がないからではないか」と解説します。
まあ、ライチョウに聞いてみないと分かりませんが、日本では登山者が故意にライチョウを追いかけたり危害を加えることは、まずありませんね。
1年に3回、羽の色を替える
ライチョウの羽は、1年に3回も抜け替わります。
冬はオスもメスも、雪山と同じ、真っ白。
4月からは黒や茶の羽がはえてきて、
夏は、岩山に溶け込めるようにオスは茶褐色と白い腹に。メスは焦げ茶と薄茶のまだら模様の背中と白い腹に。
秋には、オスもメスも羽が灰色に抜け替わります。
体の色を周りの色や模様に似せることによって、イヌワシ、クマタカ、キツネといった敵に見つからないようにするようです。
ライチョウの敵
ライチョウの卵やヒナは、研究者の観察によりますと、キツネ、テン、オコジョなどに食べられ、ニホンザルがヒナを口にくわえるのも目撃されています。
ヒナは孵化して間もない時に雨が続くと、人間でいう低体温症になって死ぬケースが多いそうです。
ライチョウの日本での生息数は、推定で2000羽。国の天然記念物に1955年に指定されています。
次回は、