山と高原地図「白馬岳」から引用
北アルプス白馬岳の北隣に、朝日岳(標高2418m)があります。
その朝日岳の「吹上のコル」から、日本海の親不知海岸(新潟県糸魚川市)につながる延長約27㌔の登山道があります。栂海新道(つがみしんどう)といいます。
3000㍍級の北アルプスと、海抜ゼロ㍍の海を結ぶ超健脚者向きの栂海新道に20年前、所属していた山岳会の4人で挑みました。
当時、チョコチョコっと書いたメモ書きと地形図が出てきました。備忘録として書いておきます。
目次
【日程】 2002年8月10日(土)~13日(火)
【メンバー】4人
【行程】
◆8月10日
0:19JR立川駅発~5:39JR白馬駅着~6:10猿倉6:35~7:40白馬尻小屋~11:30白馬岳頂上宿舎テント場(泊)
◆8月11日
5:52白馬岳頂上宿舎テント場発~6:35白馬岳山頂~7:07三国境~8:26雪倉岳避難小屋~9:10雪倉岳9:30~11:28水平道分岐~(11:36クマの糞発見)~13:10朝日小屋テント場(泊)
◆8月12日
5:43朝日小屋テント場発~6:35朝日岳~7:07吹上のコル~(ここから栂海新道)~7:24長栂山~8:25アヤメ平~9:48黒岩平~10:33黒岩山~11:00文子の池~11:49サワガニ山~12:24北俣の水場12:50
~13:40犬ヶ岳~13:50栂海山荘(避難小屋)(泊)
◆8月13日
5:10栂海山荘発~6:44菊石山~8:40白鳥山9:00~9:45シキ割~10:45坂田峠~11:40尻高山~12:25二本松峠~14:05親不知
【献立】
◇10日夜;すき焼き、アルファ米、海藻サラダ
◇11日朝;ラーメン
◇11日夜;カレーライス、アルファ米
◇12日朝;雑炊
◇12日夜;マーボ春雨、アルファ米、海藻サラダ
◇13日朝;お茶漬け
【行動記録】
■8月10日(土)
今回の縦走は、標高3000メートル級の白馬岳から海抜ゼロの親不知海岸まで一気に下るという豪快なルートだ。天気さえよければ、日本海を見下ろしながらの快適な山歩きになるだろうなあ・・・と、山行の前は軽く考えていたが、現実は、さにあらず。
朝日岳(標高2418m)から先の栂海新道は、地元の山岳会の方によって木の枝が払われるなどきちんと整備されていたものの、足元は木の根が多いうえ、アップダウンが連続する歩き甲斐のある(?)ルートだった。
JR白馬駅からタクシーに乗り込み、白馬岳登山口の猿倉に向かったが、着く手前で雨だ。じきに雨は上がったが、白馬大雪渓はガスの中。『岳人』や『山と渓谷』に出てくるきれいな風景写真を撮ろうと思っていたが、これでは何も見えない。黙々と雪渓を登る。
(資料写真)白馬大雪渓(2021年7月15日撮影)
ツアーの御一行や多くの登山者が軽アイゼンとストックで登っていたが、この程度の雪質だと登山靴だけで十分。スプーンカットされた雪渓のあちこちに、人間の頭や胴体ぐらいの岩がゴロゴロ転がっていて気味が悪かったが、このガスでは落ちてくる石も見えないから、早く通過するにかぎる。
昼前に白馬村が経営する白馬岳頂上宿舎のテント場に着いてしまい、ビールで乾杯。いや~、うまかった。
(資料写真)白馬岳頂上宿舎(2021年7月15日撮影)
午後4時、ラジオの気象通報に耳を傾け、天気図を作った。長期縦走では、この天気図を書くことが大事とのことだ。
■8月11日(日)
地形図の左下の「白馬山荘」の少し下が「白馬岳頂上宿舎」テント場。地形図の下から上(北側)に向かって赤線を歩いていく
午前4時30分、起床。テントの中でシュラフをさっさと片付け、ガスでお湯をつくり、目覚まし用のコーヒーが出来上がり。朝食は塩ラーメン。昨夜残しておいた、刻んだネギを具にいただく。食べ終わったらテントの撤収。風が強く、どこかのテントのフライが飛ばされていた。
(資料写真)白馬岳の山頂(2021年7月16日撮影)
午前6時前に出発。白馬岳(標高2932m)の山頂でも風が強く、ガスのために展望が効かない。三国境(みくにざかい)に向かって下っていく。
(資料写真)三国境。新潟・長野・富山3県の境のピーク。白馬大池方面に行かずに「雪倉岳」方面に進む(2021年7月16日撮影)
三国境から雪倉岳方面にガレ場を進む。ハクサンコザクラ、ミヤマキンバイ、コマクサといった高山植物に癒やされる。
雪倉岳の避難小屋の前で、ちょっと休憩。
図の上が、雪倉岳の避難小屋
雪倉岳の避難小屋(雑誌「PEAKS」ホームページから引用)
雪倉岳(標高2611m)の山頂に立った時も、周りはガスに包まれていた。
午前11時28分、水平道分岐に到着。ここは朝日岳に登る道と、山腹に延びる「水平道」の分岐だが、我々は水平道を選んで「朝日小屋」方面に進む。
朝日小屋に着くと、とりあえず冷えた缶ビールで乾杯した。
朝日小屋のテント場(朝日小屋ホームページから引用)
朝日小屋のテント場はとてもきれいに整備されていて、小石を拾う程度でOK。ラジオを聞いて天気図を作った後は、お楽しみの夕食。今宵はカレーライス。生肉が腐っていないか心配したが、問題なし。タマネギもジャガイモも人参も入った豪華なカレー。テントの中ではなく、お隣の木道をイス代わりにさせてもらった。午後7時には、もう眠ってしまった。
■8月12日(月)
「朝日小屋テント場」は、上の図の真ん中のやや左。朝日岳のピークを踏んだ後、いよいよ栂海新道に入る
午前2時ごろから朝日小屋テント場はガサゴソ音がし始め、うるさい。懐中電灯の明かりがこちらのテントにも向けられ、午前3時には歩き出したパーティーもいる。午前5時に外に出ると、周りのテントはほとんどなくなっていた。単独行の1人と、アベックパーティーが撤収作業に入っているだけだ。悪天候が予想されるために急いでいるんだろう。
午前6時少し前に我々も出発。朝日岳(標高2418m)をゆっくり登る。朝日岳山頂からは急な下りとなり、やがて栂海新道への分岐点、「吹上のコル」(標高2222m)に到着した。
「吹上のコル」は、上の図の下の部分
「吹上のコル」は栂海新道と五輪尾根の分岐になっている。蓮華温泉に向かうパーティーはここで五輪尾根に入っていく。大きな岩に矢印で「日本海」と大きく書かれていた。
「吹上のコル」から栂海新道に入ってしばらく北に進むと、右手に照葉の池。その先に「アヤメ平」の標識があった。このあたり池塘が点在し、ピンクや紫の高山植物がお花畑を作っていた。
黒岩平から中俣新道に分岐する黒岩山でしばし休憩。この分岐を左手に進み、ほんの数分で「サワガニ山」(標高1612m)。このあたりもミズバショウのお化けのような葉が生い茂っている。山道は草木が伐採されていて歩きやすい。
図の上部が「北俣の水場」
小さなアップダウンを繰り返すうちに「北俣の水場」に着いた。登山道から3分ほど下ったところが水場だ。
沢に下って水を汲んだ後の登り返しがイヤなので、「水汲み当番はじゃんけんで」ということになり、4人でじゃんけんをした結果、私ともう1人が負け。とぼとぼと水場についたが、役得で水をゴクゴク飲んだ。冷たく、おいしかった。転んでもただでは起きない、という感じですな。
地形図を見ると、「北俣の水場」からは、今宵の❝宿❞の栂海山荘まで近いとみて、元気よく出発した。ところが、ここからが長い。犬ヶ岳(標高1593m)の頂上かな、と思えば、さらにその先に稜線が見えるといったことの繰り返し。雨もひどくなり、視界も悪い。いやになったところでやっと犬ヶ岳山頂に着いた。山頂から少し下ったところに栂海(つがみ)山荘があった。
栂海山荘(「栂海岳友会」ホームページから引用)
栂海山荘は無人小屋で、「さわがに山岳会」の持ち物。栂海新道を切り拓いたのもこの会であり、登山道を整備する時に必要な小屋でもある。そのために1階部分は「さわがに山岳会」の専用となり、2階を一般の登山者が使うことになる。
清潔で快適。ただ、水はない。トイレは小屋のそばにあるが、露天。我々が小屋に入ると、すでに数パーティーが入り込んでいた。片隅に陣取って、乾杯した。
■8月13日(火)
図の下が「栂海山荘」。ここから北(図の上)に向かう
さあ、「白馬~親不知」縦走隊の予定も、あとは栂海新道を一気に下山して親不知で乾杯するだけだ。とは言っても、きょうが4日間の日程の中で一番長い行程だ。きょうはいつもより早い4時起き・5時出発とした。
白馬岳や朝日岳のテント場でもそうだったが、他の登山者の出発は早い。この栂海山荘という避難小屋もそうだ。我々が出発した午前5時10分に残っていたのは2組だけで、早い人はヘッデンを使って早々に出発している。
曇りで視界が悪い中、犬ヶ岳から足元の悪い道を急下降する。木の枝につかまりながらだ。
栂海新道は、起伏が多い。親不知までの間に、「菊石山」「白鳥山」「尻高山」と3つの山があるが、この長い登山道の途中にわざわざ「山」と名を付けるのは、明らかにそびえ立つ山だからなんでしょうね。単なるピークでは「山」と名をつけてもらえない。厳しいルートだ。
菊石山(標高1210m)を越えて、白鳥山(標高1287m)の1つ手前のピークに向かうが、岩や木の根につかまりながらの急登だ。
白鳥山(標高1287m)に午前8時40分に着いた。
白鳥小屋(「栂海岳友会」ホームページから引用)
白鳥山の山頂に、「白鳥小屋」という名の避難小屋があった。
白鳥山(上の図の下部)で小休止し、きょう唯一の水場である「シキ割の水場」に向かって下降していく。
「シキ割の水場」(標高950m)はチョボチョボと水が出ている。この栂海新道では貴重な水だ。ここから林道と交差する「坂田峠」(標高610m)までは等高線をブチブチと急下降していく。このあたりでは青空が広がって、容赦なく夏の日差しが照り付けるようになった。
坂田峠(上の図の右下部分)から尻高山(標高677m)までは、なだらかなピークを2つ越える。
尻高山(上の図の右下)からはなだらかな道を入道山(標高445m)まで進み、416mのピークからは一気に親不知に下降する。
面白いことに、登山道の終点は海岸沿いの国道8号線に直接下りてた。しかも国道を挟んだ向かい側は、親不知観光ホテル。クタクタになってホテルに飛び込んで、水をノドに流し込み、ついでにビールで打ち上げをした。
(「山と高原地図」から引用)
JR親不知駅までは4~5キロあるため、タクシーを呼んで駅まで行き、東京方面に戻った。
最後にひとこと。夏の栂海新道は暑いです。長丁場です。汗をかきます。体内から水分やナトリウムが減って、脚がつるという脱水症状を経験する登山者が少なくないそうです。ナトリウムを含むスポーツドリンクを飲んで水分補給することをお忘れなく。
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