北穂高岳で味わう至福のひと時

標高3000㍍の北アルプスに登っていたころの写真記録、国内外の旅行、反戦平和への思いなどを備忘録として載せています。

からだの豆知識⑩「老衰」が死因の第3位ですが、老衰ってなんですか?

バラ (「アイスバーグ」という人気の品種)

 

 

 時代は変わり、新聞を家で定期購読している人がずいぶん減りました。が、元業界人の私は、第2社会面の「訃報欄(ふほうらん)」という亡くなった人の欄に必ず目を通します。年のせいでもありますが・・・。

 関心があるのは、死因と年齢です。

 

 先日、京セラの創業者でJAL名誉顧問の稲盛和夫さんが90歳で亡くなりました。死因は「老衰(ろうすい)」で、納得しました。

 

 ところが、この秋に亡くなった私の元勤務先の大先輩は「81歳」でしたが「老衰」とのこと。がく然としました。

 「老衰」というのは90歳ぐらいから上の人でしょう、という印象があるのですが、平均寿命を過ぎたら「老衰」もあり、ですか・・・。

 「老衰」は病気ではありません。では、なんでしょう。

 

 

 

目次

 

 

 

 

 

死因の順位は?

 日本人の平均寿命は、男性81.47年、女性87.57年です。(厚生労働省発表の「2021年簡易生命表」)

 

 

 亡くなった人を死因別に見ますと、第1位は悪性新生物(腫瘍)。一般的にいう「がん」です。第2位は心疾患。そして第3位が「老衰」なんですね。

 

厚生労働省発表の円グラフ)

 

 

 主な死因別の死亡率の年次推移を見ると、「悪性新生物(腫瘍)」は一貫して上昇しており、昭和56年以降死因順位第1位であり、2021年の全死亡者に占める割合は「16.5%」となっています。「心疾患(高血圧性を除く)」は、昭和60年に脳血管疾患にかわって第2位となり、2021年は全死亡者に占める割合は「14.9%」です。

 

 「老衰」は2018年(平成30年)に脳血管疾患にかわって死因の「第3位」になって、2021年は全死亡者に占める割合が「10.6%」でした。10人に1人の割合です。

  (厚生労働省発表の「2021年人口動態統計月報年計(概数)」から引用)

 

 

 

 

私の元の勤務先の例

 卑近な例を引用しますが、OBは毎年、100人前後亡くなっています。

 ことしは1月からこれまでに、「老衰」で亡くなったのは計12人。内訳は、90歳台が7人、80歳台が4人、79歳が1人です。

 79歳で老衰、と聞いた時は、目玉が飛び出るほどの驚きでしたよ。

 

 

 

 

死因を決めるのはお医者さん

「死亡診断書」の中身

(「死亡診断書」の一部。写真左下の部分に、「死亡の原因」を記入する欄があります)

 

 

 

 医師は、人間の臨終をみとった時に、死亡診断書を書いて遺族に渡します。遺族はこれをもらわないと、自治体から火葬の許可が出ません。

 

 この死亡診断書が日本の「死因統計」の元の資料になります。

 

 「死亡の原因」欄には、「(ア)直接死因」と「(イ)(ア)の原因」など踏み込んだ原因を書く欄があります。

 でも、老衰で亡くなった場合、「(ア)直接原因」の欄に「老衰」とだけ記載して、背景になった原因欄には何も書かれていないケースがほとんどだと聞きます。

 

 

 

 

 

「老衰」の定義はない!

 では、老衰って何ですか、という話になります。

 

 シロウト考えでは、「老衰」のイメージは、「食べられなくて飲むこともできないという状態が長い間続いて、徐々に痩せて行って眠っていることが多く、静かに息をひきとっていく」というぐらいですね。

 

 「老衰」の医学上の定義を調べようとしたのですが、定義なんぞ、ない、ということです。

 

 

 ただ、『令和4年度 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル』(厚生労働省医政局)には、次のように書いてありました。

 

 

 『死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。

 

 さらに、但し書きで、

 『ただし、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入することになります。』としています。

 

 そして一例として、「(ア)直接死因」は「誤嚥性肺炎」ですが、その「原因」が「老衰」の場合を挙げています。(上の図)

 

 

 思うに・・厚生労働省としては、「老衰」などというのは死亡した時の❝状態❞であって病名ではないから、死因を老衰などと書かないで、病気の名前をきちんと調べるように、と、医師に促しているように読み取れます。

 

 しかしながら、実際の医療現場では、死因に「老衰」という記載が増えているという傾向なんですね。

 

 

 

 

 

 

「老衰」も「心不全」「呼吸不全」と同じように丸い言い方

 「老衰」以外にも、あいまいな死因をしばしば見聞きします。「心不全」「呼吸不全」「多臓器不全」・・・などなど。

 

 「心不全」は病気の名前ではありません。心臓が何らかの原因で働きが悪くなって、酸素を含んだ血液を全身に送り出せなくなった状態ですね。「呼吸不全」も同じように病名ではありません。❝状態❞です。

 

 「死因」を公表しないケースもあります。

 私の別の大先輩は、老人ホームで「前立腺がん」のために90を過ぎて亡くなったのですが、誇り高き人でして、ご家族は企業年金を受け取っていた元の勤務先に死亡を伝えた時、OB会にも現役の諸君にも、死亡場所と死因を公表しないようにお願いしていました。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 自宅ではなく、老人ホームなど介護施設で亡くなる人が昔に比べて増えていると聞きます。

 亡くなる場所が介護施設なら、遺族も世間一般も「老衰」という死因を納得するのかもしれませんね。

 「老衰」という言葉には、徐々に体力が弱まって自然に亡くなったという響きがあります。つらい気持ちでいる遺族にも受け入れられやすいのでしょうか。

 介護施設の担当医も、ギリギリ真の死因を詰めないで「老衰」と書きたくなるでしょう。

 そんなところが「老衰」という死因が増えている社会的・心理的要因ではないかと、勝手に妄想しています。

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