「憲法記念日」の5月3日、新聞各紙が朝刊で、憲法について直前に行った世論調査の結果を載せました。
この手の調査は、質問項目の順番や言い回し、選択肢の数によって回答が微妙に変わります。
新聞社にはそれぞれ編集方針があって読者層も違い、回答の「誘導」もあるんですが、それでも丁寧に質問と回答をみていくと、回答者の心の底がある程度読めてきます。
以下、「読売新聞」「朝日新聞」「毎日新聞」3社と共同通信社による世論調査の結果を整理して、世の中の空気をさぐってみました。
【各社の調査方法】
読売:有権者3000人を無作為に選び、郵送。有効回答2055人。
朝日:有権者3000人を無作為に選び、郵送。有効回答1967人。
共同:有権者3000人を無作為に選び、郵送。有効回答1959人。
毎日:携帯電話のSMSと固定電話の音声通話で実施。有効回答1045人。
目次
- 新聞各社の憲法への姿勢が出た「見出し」
- 憲法を改正すべきか否か?(以下の数字は%)
- 憲法第9条の改正についてどう考える
- 「専守防衛」という日本の防衛政策について
- 「台湾有事」への対応
- ロシアのウクライナ侵略で思ったこと
- いま取り組むべき政治課題は何でしょう?
- 支持政党はどこですか?
- まとめ:一番多い有権者のタイプ
新聞各社の憲法への姿勢が出た「見出し」
各紙の見出しを抜き出しました。
「朝日」は3本見出し―ー
「変える方がよい」37%
9条、13年以降2番目の高さ
本社世論調査
日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを反映して、国民が「敵基地攻撃能力の保有」に賛同しつつある❝危うさ❞を、「朝日」らしく指摘したかったのでしょうかね。
「読売」も3本見出し――
憲法改正「賛成」61%
露侵略・コロナ影響
本社世論調査
改憲の旗振り役をしている新聞社らしい見出しです。憲法改正論議を急げ、ということでしょうかね。
「共同」の配信記事(「東京新聞」の例)
共同通信社は、全国のブロック紙(「中日」「道新」「西日本」など)、県紙、NHKの「56加盟社」で組織されている報道機関です。
加盟社に配信した記事の見出しは――
改憲機運は「高まらず」71%
共同に加盟している新聞社は大半が改憲に慎重な論調のために、こんな見出しを付けて配信したと推察します。
憲法を改正すべきか否か?(以下の数字は%)
【質問】(朝日)
いまの日本の憲法は、全体として、よい憲法だと思いますか。そうは思いませんか。
【回答】
▼よい憲法 52
▼そうは思わない 38
【質問】(朝日)
いまの憲法を変える必要があると思いますか。変える必要はないと思いますか。
【回答】
▼変える必要がある 52
▼変える必要はない 37
【質問】(朝日)
国会での憲法改正の議論を、急ぐ必要があると思いますか。急ぐ必要はないと思いますか。
【回答】
▼急ぐ必要がある 36
▼急ぐ必要はない 55
【質問】(読売)
あなたは、今の憲法を、改正する方がよいと思いますか、改正しない方がよいと思いますか。
【回答】
▼改正する方がよい 61
▼改正しない方がよい 33
▼答えない 5
【質問】(共同)
あなたは憲法を改正する必要があると思いますか、改正する必要はないと思いますか。
【回答】
▼改正する必要がある 24
▼どちらかといえば改正する必要がある 48
▼どちらかといえば改正する必要はない 19
▼改正する必要はない 8
▼無回答 1
【質問】(共同)
(上の質問で、「改正する必要がある」「どちらかといえば改正する必要がある」と答えた人に聞く)
あなたが、そう思う最も大きな理由は何ですか。(回答者1403人)
【回答】
▼憲法の条文や内容が時代に合わなくなっているから 59
▼新たな権利や義務、規定を盛り込む必要があるから 25
▼改正は国民のためになると思うから 7
▼米国に押し付けられた憲法だから 3
▼制定以来、一度も改正されていないから 3
▼その他 1
▼無回答 0
【質問】(共同)
(同様に上の質問で、「改正する必要はない」「どちらかといえば改正する必要はない」と答えた人に聞く)
あなたが、そう思う最も大きな理由は何ですか。(回答者531人)
【回答】
▼戦争放棄を掲げ平和が保たれているから 43
▼今の憲法で不都合はないから 25
▼他に優先すべき重要な政策課題があるから 12
▼改正すれば基本的人権が制約される恐れがあるから 11
▼改正は国民のためにならないと思うから 4
▼その他 2
▼無回答 2
【質問】(共同)
岸田文雄首相は自身の自民党総裁任期である来年9月までの憲法改正に意欲を示しています。あなたは、国民の間で改憲の機運は高まっていると思いますか、高まっていないと思いますか。
【回答】
▼高まっている 4
▼どちらかといえば高まっている 24
▼どちらかといえば高まっていない 48
▼高まっていない 22
▼無回答 1
【質問】(毎日)
憲法改正についてお尋ねします。岸田首相の在任中に憲法改正を行うことに賛成ですか。
【回答】
▼賛成 35
▼反対 47
▼わからない 17
憲法第9条の改正についてどう考える
【質問】(朝日)
以下は、憲法第9条の条文です。
≪第1項≫ 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
≪第2項≫ 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
憲法第9条を変える方がよいと思いますか。変えない方がよいと思いますか。
【回答】
▼変える方がよい 37
▼変えない方がよい 55
(参考メモ)歴代政府は、憲法第9条は自衛権まで否定するものではないという見解を示し、自衛隊については「日本を防衛するための必要最小限度の実力組織であり、憲法に違反するものではない」と説明しています。
【質問】(読売)
憲法第9条の条文には第1項と第2項があります。それぞれ改正する必要があると思うかどうかをお答えください。
◇「戦争を放棄すること」を定めた第1項について
【回答】
▼改正する必要がある 21
▼改正する必要がない 75
▼答えない 4
◇「戦力を持たないこと」などを定めた第2項について
【回答】
▼改正する必要がある 51
▼改正する必要がない 44
▼答えない 5
【質問】(共同)
あなたは「戦争放棄」や「戦力の不保持」を定めた憲法第9条を改正する必要があると思いますか、改正する必要はないと思いますか。
【回答】
▼改正する必要がある 53
▼改正する必要はない 45
【質問】(共同)
(上の質問で、「憲法第9条を改正する必要がある」と答えた人に聞く)
あなたが9条を改正する必要があると思う理由は何ですか。(回答者1033人)
【回答】
▼北朝鮮の核・ミサイルや中国の軍備拡張、ロシアのウクライナ侵攻など日本や世界の安全保障環境が変化しているため 75
▼自衛隊が海外でより積極的に活動できるようにするため 4
▼米国との同盟関係を強化するため 2
▼その他 1
▼無回答 0
【質問】(共同)
(同様に上の質問で、「憲法第9条を改正する必要はない」と答えた人に聞く)
あなたが9条を改正する必要がないと思う理由は何ですか。(回答者880人)
【回答】
▼改正すれば憲法の平和主義が崩れる恐れがあるから 47
▼改正すれば他国の戦争に巻き込まれる恐れがあるから 30
▼今の憲法でも日米同盟は強化可能だと思うから 4
▼軍事大国化すると海外が懸念するから 2
▼その他 1
▼無回答 1
【質問】(毎日)
憲法第9条を改正して自衛隊の存在を明記することについて賛成ですか。
【回答】
▼賛成 55
▼反対 31
▼わからない 13
「専守防衛」という日本の防衛政策について
【質問】(朝日)
日本の防衛政策は、「専守防衛」の方針をとっています。専守防衛とは、相手から攻撃を受けた時に初めて反撃し、その反撃の方法や装備は「自衛のための必要最小限度に限る」とという立場のことです。日本が専守防衛の立場を今後も維持すべきだと思いますか。見直すべきだと思いますか。
【回答】
▼今後も維持するべきだ 59
▼見直すべきだ 36
【質問】(朝日)
相手の領域内のミサイル発射拠点などを直接攻撃する「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有に賛成ですか。反対ですか。
【回答】
▼賛成 52
▼反対 40
「台湾有事」への対応
【質問】(朝日)
台湾をめぐって中国とアメリカの間で武力衝突が起きて、日本が巻き込まれる不安を、どの程度感じますか。
【回答】
▼大いに感じる 28
▼ある程度感じる 52
▼あまり感じない6
▼全く感じない 2
【質問】(朝日)
台湾をめぐって中国とアメリカの間で武力衝突が起きた場合、自衛隊はどう対応すべきだと思いますか。
【回答】
▼アメリカ軍とともに武力を行使する 11
▼アメリカ軍の後方支援にとどめる 56
▼アメリカ軍とともに活動するべきではない 27
ロシアのウクライナ侵略で思ったこと
【質問】(朝日)
昨年2月、ロシアがウクライナに侵攻しました。この侵攻を受けて、日本は防衛力を強化するべきだと思うようになりましたか。とくに変わりませんか。
【回答】
▼強化するべきだと思うようになった 57
▼とくに変わらない 39
【質問】(読売)
ロシアによるウクライナ侵略は、あなたの憲法改正に関する意識にどのような影響を与えましたか。
【回答】
▼憲法を改正するべきだという意識が高まった 40
▼今の憲法を守るべきだという意識が高まった 21
▼変わらない 32
▼答えない 7
いま取り組むべき政治課題は何でしょう?
【質問】(朝日)
次の政治課題の中で、あなたが政治に最も優先的に取り組んで欲しいものはどれですか。
【回答】
▼年金・医療・介護 31
▼物価高 20
▼景気・雇用 19
▼少子化 12
▼外交・安全保障 11
▼原発・エネルギー 4
▼憲法 1
支持政党はどこですか?
【質問】(朝日)
いま、どの政党を支持していますか。
【回答】
▼自民 34
▼立憲 8
▼維新 8
▼公明 5
▼共産 2
▼国民 1
▼れいわ 1
▼社民 1
▼NHK党 1
▼参政党 1
▼支持する政党はない 37
▼答えない・分からない 1
【質問】(共同)
あなたは、どの政党を支持しますか。
【回答】
▼自民党 29
▼日本維新の会 7
▼立憲民主党 6
▼公明党 4
▼共産党 2
▼国民民主党 2
▼れいわ新選組 1
▼社民党 1
▼政治家女子48党 1
▼参政党 1
▼支持する政党はない 44
▼無回答 2
まとめ:一番多い有権者のタイプ
「ロシアのプーチンによるウクライナ侵略や北朝鮮の相次ぐミサイル発射実験、想定される台湾有事に直面して、日本はボーッとしているのではなくそれなりに自衛力を強化しなければと思うようになった。憲法に関しては、現に存在する自衛隊について何らかの表現で書き込むべきだが、戦争放棄を定めた第9条第1項は変えない方がいい。全体として憲法改正を急ぐべきだというムードが国民の間に高まっているとは思えない。政界では与党にも野党にも不満で、支持する気にもならない。」
こんなところでしょうかね。