生ビールとモツ煮(北アルプス・涸沢の涸沢小屋テラスで2022年8月撮影)
この夏は猛烈な暑さが続きましたね。
「熱中症アラート」なんていう警報がお役所から毎日のように出されました。
「こまめな水分補給を」といわれますが、微量のカルシウムとナトリウム、それにマグネシウム、カリウムを含んでいる水道水を飲み続けりゃいいんですかね。
「飲み物」のことを調べて、まとめてみました。
目次
- 「汗」が体温を調節してくれている
- 「脱水症」と「熱中症」の違い
- 熱中症にならないための飲み物は何がいい?
- 麦茶・・・・・水分補給にどうでしょう?
- その麦茶・・・・・「熱中症対策」に最適でしょうか?
- 「お茶」はお勧めできない!そのわけはカフェイン!
- 「伊藤園」は「お茶は水分補給に有効!」と主張
- 牛乳・・・・・どうなの?
- コーヒー・・・・・どうかしら?
- ビール・・・・・これは論外!
- ポカリスエット(=スポーツドリンク)・・・これはどう?
- 塩分が多い「OS-1(オーエスワン)」・・・は高齢者は避けたい!
- ≪参考資料≫
「汗」が体温を調節してくれている
太陽がジリジリと照り付けるなか、10分も歩けば額や腕から汗が噴き出てきます。この汗、「体温が上がってきているよ」というサインなんですね。
人間には脳や臓器の温度を37度前後に保つ機能が備わっていて、体の中が熱くなってくると、汗をかいて汗が皮膚から蒸発するときに体の表面の熱を奪って体を冷やすようにできているんですね。
「脱水症」と「熱中症」の違い
たくさん汗をかいたときに、何もしないでいると起こるのが「脱水症」です。
「脱水症」とか「脱水症状」というのは、汗をかいて「体液」が少なくなっている状態のことをいいます。
「体液」というのは、体のなかを流れる液体・・・具体的には、血液、リンパ液、それに細胞の中と外にある液体のことを、ひとくくりにして「体液」と呼んでいます。
その体液の中に、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムといった電気を通す「電解質」という物質が含まれています。
「脱水症」になって、水や電解質が減っていくと、血管の中を流れる血液量が減るので血圧が下がり、全身の細胞に酸素と栄養素を届けにくくなります。
すると、めまいや立ちくらみ、脚の筋肉のつり、それに頭痛や吐き気もしてきます。意識障害を起こす人もいるようです。
その「脱水症状」が長く続くと、「熱中症」につながるのですね。
「熱中症」は、体内の水分(=体液)が大量に失われ、それ以上汗がでなくなることによって、体温を調節する機能が狂ってしまい、体内に熱がこもって体温が上昇した状態のことを言います。
そうなると、大事な臓器が40度以上の高熱にさらされて障害を起こし、命が危うくなります。
熱中症にならないための飲み物は何がいい?
「汗」の成分は何でしょう?
99%が「水」ですが、ほかに水に溶けると電気を帯びる電解質という物質も含んでいます。
ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムといった物質ですが、水に溶けて「イオン」という電気を通す状態になっているんです。
物質はイオンになると、体の細胞膜を簡単に通過できるので、体に吸収されやすくなります。
イオンのなかでも食塩という形で口に入るナトリウムは、細胞の浸透圧を調整したり、神経細胞による情報伝達を行ううえでたいへん大切で、カルシウムも筋肉の収縮と言った作用に欠かせない電解質です。
麦茶・・・・・水分補給にどうでしょう?
「夏には麦茶!」というイメージがありますね。のどの渇きを潤すポピュラーな飲み物です。
麦茶には「茶」という文字が入っていますが、お茶の葉っぱは含まれていないんですね。
麦茶の原料は「大麦」だそうです。
済生会横浜市東部病院患者支援センター長で、熱中症に詳しい谷口英喜医師はこう言っています。
「麦茶はふだん、水分補給をする飲み物としてお勧めです。塩分やミネラルも少しだけ含まれており、汗をかきやすい夏場の水分補給にも適しています。麦茶の良い点は、カフェインや糖分が含まれておらず、ノンカロリーであること。年齢を問わず、だれでも飲める飲み物です。」
日常生活のなかでの水分補給は、水や麦茶が適しているようですね。
その麦茶・・・・・「熱中症対策」に最適でしょうか?
ペットボトルの「麦茶」の成分表。ナトリウムの量はわずか。
前出の谷口英喜医師は、「麦茶」について熱中症との関係でこう言います。
「例えば、激しい運動のあとや暑い場所で長時間すごしたとき、水だけではなく塩分の補給も必要です。しかし、麦茶には塩分はそれほど多くは含まれていないため、大量の汗をかいた場合の水分補給には向いていません。こういったしーんではスポーツドリンクの方が適しています。」
「お茶」はお勧めできない!そのわけはカフェイン!
「めざせ!お茶博士 こどもお茶小辞典」という静岡県が発行した冊子があります。
それをみますとお茶にはいろいろな成分が含まれていて、一番多いのがカテキン類、次いでアミノ酸類とカフェインです。
この成分から期待される健康面での効果は、抗酸化作用、高血圧予防、肥満予防、殺菌作用、目覚まし効果などもりだくさんあるといいます。緑色の「緑茶」にはビタミンCも含まれています。
ところがネット上には「お茶は熱中症対策としてはお勧めできません」という書き込みであるれています。
その一つ、「サントリー天然水ウォーターサーバー」のHPは次のように書いています。
「熱中症の予防に適さない飲み物は、アルコール・コーヒー・ジュース・お茶・牛乳などです。これらの飲み物は、飲み過ぎると反対に脱水症状が起きる恐れがあります。」
前出の谷口英喜医師も、お茶と水分補給の関係について、こう指摘します。
「お茶に含まれるカフェインは、適量をとれば頭をすっきりさせ、眠気を覚ます効果があります。仕事に集中したいい時や頭をクリアーにして、もうひと頑張りしたい時に、非常に役立つ成分です。しかし、カフェインには利尿作用があり、取りすぎるとかえって水分不足になるおそれがあります。」
「でも、おちゃでも水分補給になるといった研究報告もあるため、飲む量に気を付けて摂取するのがよいでしょう。」
「伊藤園」は「お茶は水分補給に有効!」と主張
お茶で知られる「伊藤園」は黙っていません。
2023年10月23日付で「軽い脱水の時に飲むお茶が、カフェインによっておしっこを促すことはないことを確認した」というニュースリリースを出しました。
奈良女子大学の協力を得て、伊藤園の研究チームが「健常な成人男女」を対象に試験をした結果、「軽い脱水状態の時の水分補給のための飲み物として、緑茶が水と同程度に体液量を回復させることが示唆された」としています。
牛乳・・・・・どうなの?
では、「牛乳」は熱中症対策に適していますでしょうか・・・。
自分に照らしてはっきりいえることは、大量に飲むと消化不良を起こして下痢になる、ということですが。
そんななかで、牛乳は飲み方によっては、熱中症になりにくい暑さに強い体をつくることができる、という医師がいます。
元信州大学医学分教授で、登山が趣味の能勢博(のせひろし)医師です。
能勢医師は、「ややきついと思える運動を15分から30分程度するたびに、運動のあと30分以内にコップ1、2杯の牛乳を飲み続けると、血液の中の血漿(けっしょう)という血球(赤血球・白血球・血小板)以外の液体の量が増えます。この血漿量の増加によって、皮膚表面の毛細血管の血流量が増え、汗腺は血液を材料にして汗をつくります。体の熱を汗にして外に逃がす体温調節機能が向上するので、暑さに強い体になります」と説明します。」
また、牛乳摂取と血漿量の増加の関係については、こう説明します。
「血液の中には『アルブミン』というタンパク質が含まれており、これは主に肝臓でつくられます。ややきつい運動をすると、運動終了後の30分間、肝臓は減ってしまった血液を増やそうとして大急ぎでアルブミンの合成を始めます。そのタイミングで材料となるアミノ酸を多く含む牛乳を飲むと、アルブミンがたくさんつくられます。血中のアルブミン濃度が上昇すると、浸透圧の影響で血管の外から血管内に水分が引き込まれ、血漿量が増えるというわけです。
コーヒー・・・・・どうかしら?
毎朝、コーヒーを自宅で3杯飲んでいます。トイレの回数が多くなりますが・・・。
コーヒーの豆は、コーヒーノキという植物から採った「種」のことらしいですが、コーヒー豆からつくったコーヒーは、カフェインを多く含んでいるそうです。
カフェインが多い飲み物は、食品安全委員会という国の機関の調査では、「玉露」という緑茶の中の高級茶が断トツで多く、次いで「コーヒー」、続いて「紅茶」、緑茶の中の「煎茶」、「ウーロン茶」の順です。
カフェインは、とりすぎるとめまい、心拍数の増加、興奮、不安、吐き気などをもたらすことがあるようです。
カフェインには利尿作用があるため、熱中症対策としての水分補給には向いていないかもしれませんね。
ビール・・・・・これは論外!
北アルプス穂高連峰の登山口、標高2300メートルの涸沢(からさわ)につきますと、山小屋のテラスで生ビールを飲む登山者が多いんですね。ここまで来たという達成感もあって、おいしいですから。
ところが、ビールには利尿作用があって、飲んだ量以上に水分が尿として体の外に出て行ってしまうんですね。
たびたび登場しますが、谷口英喜医師は「味の素」のHPで、アルコールによる利尿作用について、概略、次のように指摘しています。
「アルコールの中でも特にビールは利尿作用が強く、『1リットル』のビールを飲むことで、『1.1リットル』の水を失うといわれています。」
「肝臓内でアルコールは酵素によって分解され、頭痛の原因になるアセトアルデヒドになります。さらに肝臓内で酢酸に分解されます。さらに二酸化炭素と水になり、尿や汗、呼気などになって排出されます。その分解過程で必要となる酵素の働きに、水が必要となるのです。」
お酒を飲むと脱水状態になりやすいので、ビールは熱中症対策としての水分補給にはふさわしくないようです。
ポカリスエット(=スポーツドリンク)・・・これはどう?
登山するとき、できるだけ汗をかかないようにとゆっくり登るのですが、汗は出てきますね。
脱水症状にならないようにと、登山の旅に用意するのは大塚製薬(㈱)のスポーツドリンク「ポカリスエット」です。
それもペットボトルではなくて、軽い「1袋74グラム」の「1リトル用粉末」です。1袋74グラムという重さの粉末を、1リットルの水に溶かして飲みます。
1袋当たりの栄養成分は、74グラムのうち大部分の73グラムを「炭水化物(=糖質)」が占めています。
ほかは「食塩相当量(=ナトリウム)」、カリウム、カルシウム。マグネシウム。生まれるエネルギーは288キロカロリー。
大塚製薬・ポカリスエット公式サイトには「糖質濃度」が記載されており、「ポカリスエット(ペットボトル)には『5.7%』の糖質が含まれています」と書かれています。
この『5.7%』という糖質濃度については、「飲んだ時の口当たりをよくするため糖質を多くしているのでは」という声から利用者からあり、「胃に長くとどまって小腸での吸収に時間がかかるから、2倍に薄めて飲んでください」と、医師から直接聞いたことがあります。
そうした声を背景に、公式サイトでは「少し甘いのではと思われる方もいますが、糖質濃度は運動時のエネルギーとしてだけでなく、腸から体の中へ速やかに水分を吸収させるのに必要な❝甘さ❞です」と説いています。
どうなんでしょうかねえ。
塩分が多い「OS-1(オーエスワン)」・・・は高齢者は避けたい!
最近、よく耳にする名前です。「オーエスワン」という飲み物。ドラッグストアの店頭に並んでいますね。
ただ、注意しなければいけないのは、オーエスワンは日常生活で、ある時たまたま汗をたっぷりかいたというだけで飲むシロモノではありません。
激しく汗をかいた時、あるいは風邪をひいて下痢や嘔吐、微熱といった脱水症状が現れたときに、水やナトリウムなど電解質を補充するための「食品」です。
ポカリスエットなどスポーツドリンクと「オーエスワン」の違いは、オーエスワンは塩分(=ナトリウム)の濃度が高いということ。毎日の水分補給には適していません。糖質(=ブド)の割合もポカリスエットより低くしています。
「オーエスワン」は水や塩分を小腸で素早く吸収し、血管に早く送り込めるように濃度が調整されているようです。
塩分量が多いですから、心臓や腎臓に疾患のある人や、私を含めて高血圧症の人は、できれば避けたいと思いますね。
≪参考資料≫
●三菱ケミカル・クリンスイ㈱のHP「クリンスイの読み物」シリーズ
●静岡県お茶振興課発行「めざせ!お茶博士 こどもお茶小辞典」(2020年3月31日 第3版)
●味の素・栄養ケア食品サイト「飲酒と脱水について」(谷口英喜医師監修)
●能勢博著「ウォーキングの科学」(講談社、2019年10月発行)