工事現場に通勤する作業員用のモノレール。
富士山の「大沢崩れ」をご存じでしょうか?
(国交省富士砂防事務所作成資料から引用)
大沢崩れの砂防工事現場を「モノレール」に乗って見学しに行く機会が2024年9月25日(水)にあり、参加しました。
大沢崩れの砂防工事現場(標高2150㍍付近)。
国土交通省富士砂防事務所(静岡県富士宮市)の理解と協力で実現したツアーでした。
ふだん立入禁止となっている工事用仮設通路を利用させていただきました。
目次
富士山の「大沢崩れ」とは?
土砂が崩れた斜面。
大沢崩れは、富士山(標高3776㍍)の山肌に刻まれている数多くの「谷」のうち、一番幅が広くて深い「谷」です。
富士山の西側斜面にあり、現在も毎日崩れて拡大し続けています。
大沢崩れは富士山頂の剣ヶ峰の直下、標高3690㍍付近をアタマにして、標高2300㍍の御中道(おちゅうどう)付近まで延長約2100㍍にわたる崩壊地。
最大幅は約500㍍、最大の深さは約150㍍もあります。
歩いたルート(一般の人の立入禁止区域)
「御庭(おにわ)」から大沢崩れまでの御中道は通行止めですので、「奥庭駐車場」から工事関係者とともに工事用道路に入りました。
富士スバルラインの「奥庭駐車場」。
工事用のヘリポート。
「滑沢(なめさわ)」を落石に注意しながら横切ります。ここは雪崩の通り道。
眼下に見えるのは本栖湖(もとすこ)。
ここは「仏石流し(ぶっせきながし)」という沢。
「仏石流し」の上部を見ると、「仏石流し」と刻まれた「岩」があります。(上の写真の左端)
「仏跡流し」と書かれた岩の前が御中道ですが、右手に少し進むと道が崩壊しています。
「一番沢」を横切ります。
「一番沢」の上の方。崩れていますネ。
「二番沢」の橋を渡ります。
ここは「前沢」。富士山には「沢」がいっぱいあるんです。
ここが「大沢休泊所」です。
大沢休泊所の前から「モノレール」に乗って、工事現場まで行きます。上の写真は、工事現場に到着したシーン。
大沢崩れの砂防工事現場。標高2150㍍付近です。
拡大する「大沢崩れ」
崩壊地の大沢崩れで、両岸の崖が次々と崩れていく原因は「地質」にあるそうです。
富士山の地質は、何度も噴火を繰り返してきた歴史から、「溶岩でできた固い層」と、溶岩以外に火口から噴出された「『スコリア』と呼ばれる黒色の岩石の層」が重なってできています。
上の写真は、大沢崩れの左岸の一部です。
雪解けや豪雨が続くと、相対的にもろい「スコリア層」が流れ出してしまいます。
すると、その上の「溶岩の層」が自分の重さに耐えられずに崩れ落ちます。
この繰り返しによって、大沢崩れの幅が広がっていくと考えられています。
断たれた「御中道」ルート
上の写真は御中道の一部ですが、途中、草木で荒れていたり道が崩落しているため通行禁止。
「御中道」というのは、 富士山中腹の5合目から6合目(標高2300㍍から2800㍍)をグルリと一周する道のことです。
江戸時代以降、富士山を信仰する富士講(ふじこう)の人たちが、修行として歩いていた約25キロのコース。
中腹を一周する「御中道めぐり」は、富士講の人たちの間では3回以上、富士山頂に立たなければ歩くことを許されなかった「聖域」だったようです。
かつては「大沢崩れ」の中も歩いていたようですが、崩落が進んで絶壁になり、1977年には転落事故が起きたそうです。
また、「御庭(おにわ)」から大沢崩れ方面への御中道は、仏石流しなど2、3の沢と交わる地点で崩落しており、危険なために山梨県が「通行止め」にしています。
現在、散策できる御中道は、富士スバルライン5合目から「御庭」までの「約2.5キロ」だけです。
大沢休泊所
写真は、大沢休泊所。「お助け小屋」と呼ばれている木造の小屋です。
山梨県有地を民間の人が借りて建てた施設です。昭和の初めまでは御中道巡りの富士講信者が宿泊に使っていましたが、現在は工事の作業員が休憩や道具の保管、緊急時の避難所に利用しているそうです。
小屋の中です。
「お助け小屋」の奥には、「三柱(さんちゅう)神社」といわれる祠(ほこら)があり、昔は富士講信者が立ち寄っていたようです。
往時をしのばせる石碑。
砂防工事の工法
工事現場を富士砂防事務所のスタッフが案内してくれました。
工事にはヘリコプターが資材の運搬や施工に活用されているとの話でした。
これは工事現場の沢では常に落石の危険があるため、作業員が滞在する時間を少なくするためだそうです。
砂防工事に使う土嚢(どのう)やコンクリート、コンクリートブロックは、現場まで5分ほどの場所に設けているヘリポートから運搬します。
土嚢の「袋」の部分は、5年もすれば分解されて炭酸ガスと水になる素材が使われているとのこと。この土嚢をいくつも並べてコンクリートの「型枠」をつくり、その中にコンクリートを流し込んでいる、という説明でした。
モノレール
「お助け小屋」の前から工事現場までは、モノレールに乗って移動します。斜面の植生保護のためです。
工事現場は、標高差で200㍍ほど下がった標高2150㍍ぐらいのところです。
4人乗りのモノレールに乗って、20分かけてユックリ登り下りします。
作業員は毎日数人が、ふもとの宿舎を暗いうちにヘッドランプを付けて出発。片道2時間ぐらいかけてモノレール利用で工事現場まで通勤しているのです。
工事現場にあるバイオトイレ。降雪で工事がない冬は、撤去されます。
工事現場の斜面に咲くフジアザミ。2メートル近く真っすぐ根を張ることから、斜面を安定させるために植えているそうです。