北穂高岳で味わう至福のひと時

標高3000㍍の北アルプスに登っていたころの写真記録、国内外の旅行、反戦平和への思いなどを備忘録として載せています。

富士山の「雁の穴」という北富士演習場内にある秘密の洞窟探検記

 「崩れ穴」と呼ばれる天井が崩れた溶岩トンネル。広い「雁の穴」の中の一部分です。(2024年6月1日撮影)

 

 

 

 富士山の洞窟探検ツアーのスタッフとして2024年6月1日午後、山梨県自衛隊北富士演習場の中にある「雁の穴(がんのあな)」という溶岩でできたトンネルに入ってきました。

 「雁の穴」は1500年前の割れ目噴火のときにできた溶岩の通り道。1932年(昭和7年)に国の天然記念物に指定されています。

 

 午前中の「船津胎内樹型」と「吉田胎内樹型」に続く3ヵ所目の探検でした。

 

 

 

地理院地図(電子国土Web)から引用。

 

目次

 

 

 

【雁の穴】のこと

 雁の穴(がんのあな)があるのは、山梨県富士吉田市陸上自衛隊の北富士演習場の北西部分の樹林の中です。

 

 そこは地元の人たちが昔から自主的にルールを決めてキノコなどの山菜を採っている「入会地」。そのために部外者が立ち入るには、「富士吉田市外二ケ村恩賜県有財産保護組合」に立ち入りの申請をして、「入山鑑札」という許可証をもらう必要があるんです。

 事前に手数料として、入山者1人につき500円を支払いました。

 

 

 「雁の穴」に向かう前に、吉田口登山道わきの「中ノ茶屋」でランチ。写真は「吉田のうどん」。500円でした。

 

 

 北富士演習場の敷地に入ります。

 

 

 以前、来たことのあるスタッフの先導で、20分後、「雁の穴」の案内板を見つけました。

 

 「雁の穴」というのは、「崩れ穴」「流れ穴」という2つの溶岩でできたトンネルと、16個の縦穴の「溶岩樹型」の総称です。

 

 林道わきの木にくくりつけられた鉄板。

 

 ゾロゾロと歩きますが、目的地の「雁の穴」にはなかなか到達できません。

 

 割れた案内板を発見! 近そうな予感。

 

 ありましたね。案内板。半年前に、富士吉田市教委が建て替えたらしいです。

 

 案内板の後ろの右上方に、【小高い丘】があります。「本丸」とか「棍棒山(こんぼうやま)」という名がついています。


 【小高い丘】はホルニト(Hornito)という円錐形の丘で、高さは5㍍ほど。
 溶岩が斜面を流れ下るときに溶岩トンネルというのができるんですが、溶岩トンネルの天井部分が一部破れ溶岩が噴き出し、積み重なってできた塚のことをホルニトというそうです。

 

 「本穴」と呼ばれる【小高い丘】が長い間、「噴火口」と見られてきました。

 しかし、最近の調査で【小高い丘】はホルニトという溶岩の塊であって、【小高い丘】の下を通る溶岩トンネルの天井が破れて溶岩が二次的に噴き出してできた丘、と判断されています。

 

 

 上2枚は、案内板に書かれている図です。富士山山頂は図の下側です。

 

 上の図の「火口」と書かれているところがマグマの噴火口で、割れ目からあふれ出た赤いマグマが溶岩となって北に向かって流れ始め、図で「崩れ穴」「本穴」「流れ穴」の順に流れ出て行ったことが確認できます。

 

 【小高い丘】のそばに建っている記念碑で、「天然記念物 雁の穴」と読めます。

 

 「流れ穴」と呼ばれる穴や溝は「溶岩トンネル」です。

 流れ穴は【小高い丘】から北に150㍍ほど続いていました。

 

 「溶岩トンネル」というのは、流れ出した溶岩の外側の表面だけが早く冷えて固まり、ドロドロした内部の溶岩がそのまま通り抜けることによって、トンネルの形になった空洞です。

 天井の残っている部分と、天井が崩れてなくなっている部分とがありました。

 

 

 「崩れ穴」を探して歩く途中、縦穴をいくつか見ました。

 この「縦穴」は、立っていた樹木が流れてきた溶岩に包囲され、燃え尽きてできた「溶岩樹型」と呼ばれる穴です。

 深い穴は10㍍近いそうですから、落ちたらたいへん。少人数で、かつ軽装備で立ち入るところではないですね。

 

 

 

コウモリが住む「崩れ穴」のこと

 上の写真は、「崩れ穴」という名前が付いている場所です。

 

 「崩れ穴」溶岩トンネルです。長さが57㍍ほどある横穴の溶岩洞穴で、その真ん中あたりで天井が崩落したそうです。

 両端に洞穴が残っており、穴の入り口はくぼ地になっています。

 

 「崩れ穴」という名は、日本洞窟学会という団体が付けたんでしょうかね。

 

 

 「崩れ穴」の図です。【断面図】の真ん中部分が天井崩落部分でしょうね。


 私たちはその崩落部分にいるわけですね。

 

 これは「南側」の穴の入り口。広くて数メートル先まで立って入れました。

 

 中は暗い。天井に何か・・・。懐中電灯を向けると、・・・


 ぶら下がっていますねえ。枯れ葉のようにも見えますが、キクガシラコウモリという種類のコウモリだそうです。夜、活発に行動するらしいですが・・・。

 

 

 こちらは反対の北側の洞穴。入り口は人1人がやっと入れるくらいでした。

 

 ほんの数メートル入って、右手の穴の奥に向かってカメラのフラッシュをたくと、溶岩の壁は赤色。鉄分ですね。

 

 出口まで戻ってくると、右上の低いに、へばりついているコウモリが見えました。

 フラッシュをたくと、10頭近くぶら下がっていた気配です。体長は数センチぐらいでした。

 

 

 

割れ目噴火の火口は「雁の穴」の100㍍上だった

 「雁の穴」それ自体は噴火口ではありません。

 「雁の穴」の南方100㍍の地点(=標高約1000㍍)から南の富士山頂方向に延びる一直線の溝があります。

 この南北に延びる割れ目の幅は5~10㍍、深さ2~10㍍、長さ約500㍍

 その割れ目近くの噴出物や炭化した木の年代が【5世紀ごろ】のものであることから、この割れ目が約1500年前の噴火口だろうということが2016年の山梨県富士山科学研究所の掘削調査で確認されました。

 

 「雁の穴」は、斜面を流れてきた溶岩流の通過点と考えられるようです。

 

 

 

【参考資料】

▼研究紹介「富士山北麓の噴火の痕跡を探る」(吉本充宏、山梨県富士山科学研究所、ニューズレター2017年6月)

▼「富士山北麓雁の穴火口地域のトレンチ調査(速報)」(日本火山学会2016年度秋季大会)

▼「ジラゴンノ露頭と雁ノ穴火口」(千葉達朗著「地質と調査」2014年第2号)

 

 

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