北穂高岳で味わう至福のひと時

穂高連峰を中心とした登山で見たものや思ったことを備忘録として書いています。登山による体の故障についても調べています。

山に想う~夏の涸沢・北穂高岳~③涸沢にクマが出る!

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登山道脇の木に登るツキノワグマ (2019年8月11日午前6時22分撮影)

 

 

 北アルプス・穂高連峰に抱かれた涸沢(からさわ)カール。大昔に氷河に削り取られてできたこの地形の“底”、標高2300㍍地点にあるのが、涸沢テント場です。

 2019年8月11日朝、テントをたたんでザックに詰め込み、上高地(標高1500㍍)まで下山する準備を終えましたが、去るにあたって見ておかなければ後悔する“イベント”があります。モルゲンロートです。

 

モルゲンロートに染まる穂高連峰

 

 モルゲンロートは、「朝焼け」という意味のドイツ語。太陽の光で山肌が赤く照らされ、山がとてもきれいに見える自然現象です。

 

 この日は午前5時5分、東の空から昇り始めた太陽が、涸沢カールの西側の、北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳、前穂高岳と続く標高3000㍍の稜線を照らし始めました。

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 穂高連峰と涸沢テント場 (午前5時5分撮影)

 

 太陽のオレンジ色の光は、始めのうちは細い帯のように稜線に沿って横に広がりますが、刻々と帯が下に伸びて幅が広くなり、やがて山肌を燃えるような鮮やかな色に染めました。胸がジーンと熱くなる瞬間です。

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 涸沢のモルゲンロート (午前5時9分撮影)

 

 華やかなショーは、わずか10分程度で終わりました。

 太陽が高く昇って、涸沢カールを見下ろす涸沢小屋まで光が当たるころになると、太陽光線の中で波長の短い青色が人間の目に飛び込んでくるんですね。それで山肌を照らしていた「オレンジ色」は見えなくなって、今度は空の「青」が強烈に目に飛び込んできます。これもきれいな景色です。

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これも素晴らしい景色。テント場の上側が涸沢小屋 (午前5時59分撮影)

 

 さて、穂高よ、さらば、というわけで午前6時にテント場を出発しました。とがったり出っ張った岩を選びながらトントンと調子よく登山道を下っていきますと、20分後、登山者の“渋滞”にぶつかってしまいました。

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登山道で、なんとも異様な光景 (午前6時20分撮影)

 

 「なんか、あったんですか?」と近づいていきますと、女性が「クマが登山道にいるんですよ」。

 先をのぞき込もうと前に出ようとした途端、「アッ、茂みに入った」と女性。それまで様子をみていた登山者たちが動き出しました。

 「木に登ってるよ」という声で、歩きながらですが、昔の職業病で条件反射的にシャッターを押してしまいました。10㍍ほど先に黒い物体。撮影はクマを刺激することがありますから、望ましくない行為なんですが……。

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木に登って、葉を食べているふうにみえるツキノワグマ (午前6時22分撮影)

 

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(画像をあとで見たら)こちらを顔を向けている…… (午前6時22分撮影)

 

 実は、先ほどまでいた涸沢テント場近くにある長野県警「涸沢相談所」の入口ドアに、クマとの遭遇に注意を促すポスターは張ってありました。

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【涸沢カール内において、熊の目撃がありました!】と書いてある

 

 上高地に下山後、環境省の上高地ビジターセンターに立ち寄り、涸沢でのクマ目撃を伝えました。しかし、応対した女性は「涸沢ですか。このところ毎日のように目撃がありますよ」と落ち着いており、地図上で位置と時刻を聞いただけでオワリ!

 そういえば、2年ほど前でしたか、このビジターセンターの掲示板に「上高地でクマ目撃」の張り紙があったため、「上高地に、クマが出るんですか?」とボーッとして聞いたところ、「出ますよ、ここはクマの生息地ですから」と男性職員に言われたことがありました。まあ、そりゃそうだ、と己を恥じたことを思い出しました。

 ここはクマの生活の場なんです。

 

“先住民”はクマ。驚くことはない!

  森林が県土の78%を占める長野県。「ツキノワグマは自然の多様性を構成する不可欠な要素であり、県民共通の財産です」と長野県は考え、ツキノワグマと人との「共存」に向けていろいろな背策を講じているようです。

 

県内にクマは4000頭

 長野県が2017年3月に定めた「ツキノワグマ保護管理計画」の中に、ツキノワグマの生息数が載っていました。目撃情報や痕跡、被害状況、捕獲状況からはじき出した推定の数字です。

 それによりますと、2015年時点の推定生息数は、県内全域で「3940頭」。このうち、穂高連峰のある「北アルプス南部」は「900頭」となっています。

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7月末から連続して涸沢でクマ、の張り紙 (上高地バスターミナル前のインフォーメーションセンター掲示板)

 

小池伸介教授の解説

 ツキノワグマの生態を研究している小池伸介・東京農工大大学院准教授の著書「わたしのクマ研究」(さ・え・ら書房)には、以下のような記載がありました。

  ◇     ◇     ◇

・ツキノワグマは、ドングリのなる「ブナ科」の広葉樹の森に住んでいる。

・見通しの悪い森の中で生活していて、警戒心が強い。

・山の木々が芽吹き始める5月に長い冬眠から覚めて活動を開始する。

・木に登って、芽吹いた直後の、タンパクが潤沢な葉を食べる。

・6月から8月にかけては、石をひっくり返して、その下につくられたアリの巣の中の、アリを食べる(厳密には、「なめる」)。

・実りの秋を迎えると、一日中、食べ物をさがして動き回る。冬眠中は「飲まず・食わず」で過ごすため、ドングリをタップリ食べて脂肪として蓄えておく必要があるためだ。

・11月になると冬眠を始める。

・冬眠の場所は、太い木の根元の空間、ガケの途中の穴など、いろいろな空間を選ぶ。

・【最近の傾向】クマは森の中でひっそりと暮らす動物ではなく、人が住むすぐ裏山にも暮らす“身近な動物”になってきた。背景には、山奥の集落から人が消えつつあり、人の住む平地に下りてきている。

 

対策

 ツキノワグマに襲われないようにするにはどうしたらよいか――。

 

長野県のホームページには、こんなふうに書かれています。

 「クマは本来、木の実や草の実などが主食の温厚で臆病な動物で、通常は人間に気がつけば自ら逃げたり身を隠したりするため、出遭うこと自体めったにありません。」

 「しかし、クマがエサ探しに夢中になっていたり、沢沿いで水音がうるさかったり、雨や風が強かったりして人の気配がわかりずらいような場合だと、バッタリ出遭ってしまい、人身事故につながってしまうことがあります。」

 

 出遭った場合に、やってはいけないことは……

・大声で叫んだり、石などを投げつけたりしてはいけません。攻撃されたと思ったクマが反撃に出る可能性があります。

・死んだふりは効きません。死骸はクマの主な動物性のタンパク源です。

・木に登る?効果は疑問です。ツキノワグマは木登りが得意です。

・背中を見せて逃げるのは禁物です。逃げるものを追いかけるのは、クマの本能です。

 

 では、どうしたらよいの?

ゆっくり後ずさりして離れましょう」というのが、長野県の助言です。

 

 

 

わたしのクマ研究

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