北穂高岳山頂からみた大キレット 向こうに見えるのは槍ヶ岳 (2019・8・10撮影)
その男性を見かけたのは、2019年8月9日午前7時過ぎのこと。
上高地から横尾方面に向かう途中の明神館を過ぎたあたりでした。私が重さ20㌔もある古い60㍑ザックを背負って昔ながらのオールレザーの重登山靴をはいてチンタラ歩いていると、すーっと追い抜き、さっそうと歩いて行きました。(次の写真)
目次
「スーツ姿」で上高地から横尾に向かう男に抜かれた!
ギョッとしたのは、その出で立ち。紺のスーツに茶色の革靴。手にはビジネスバッグ…。ここは東京のオフィス街ではない。クマもサルもいる山の中だよ!
“この先にある山小屋の徳澤園か横尾山荘に「営業」に行くんだろうなあ”なんて勝手に想像し、私の頭からこの男性はすぐに消えました。
右側の男性。こんな出で立ちです……
ところが、午前8時30分、穂高連峰方面と槍ヶ岳方面の分岐となる「横尾」で私がザックを降ろして水分を補給していますと、視界の端っこにスーツ姿の男が入り、横尾大橋の前でチャラチャラした女性とカメラに収まっているではないですか。
そのうち男性はビデオカメラに向かって「これから槍ヶ岳に向かいます。頑張ります」とこぶしを振り上げ、同行者と槍ヶ岳方面に向かったのです。
「どこかの民放テレビ局がタレントを使ってくだらないバラエティ番組でも作っているんだろう」と思い、これも記憶からすぐ消えました。
翌8月10日早朝、涸沢のテント場を出発した私は午前9時30分に北穂高岳の山頂を踏んだ後、直下の北穂高小屋のテラスに陣取り、いつものように「大キレット」をコーヒーをすすりながら眺めていました。至福のひと時です。
ホットコーヒー1杯500円です
「スーツ姿」が大キレットを縦走して北穂高小屋に上ってきた!
「大キレット」は、槍ヶ岳から南岳を経て、北穂高岳に至るまでの急峻な岩稜帯ですよね。尾根の両側は断崖絶壁で、長野県が定めた「山のグレーディング」でも難易度が一番高いルートです。
私は、槍ヶ岳方面から大キレットを縦走して北穂高小屋テラスまでくる登山者の姿を、畏敬のまなざしでデジカメで撮影していたのですが、またギョッとしました。
「まさか」。
カメラから目を離して肉眼で見ると、あの男性がいたのです。目の前に。
あの人・・・。
例の男性じゃないか……
男性は、紺のスリーピーススーツにネクタイを締め、茶色の革靴。手にはビジネスバッグ。斜め上方をみている。
先に進んだ同行者が小屋のテラス直下からのビデオ撮影準備を整えるのを待っている感じ。
おもむろに、小屋までの最後の30㍍を登り始め、午前11時にテラスに着きました。
ビデオカメラを回す同行者の1人(左)と、例の男性。
「オーダースーツSADA」の社長
男性に「いやー、びっくりした。いやー、驚いた。そんな格好で…」と声を掛けますと、
「ネタづくりにやってます。(ザックを背負うこともなく)身軽ですから。(みて)笑っていただければ……」。
「どちらの方?」と店の名前や所在地を聞きますと、男性は「オーダースーツSADA」の社長で、本店は東京・神田。全国に53店舗展開しているという話。
長野県警山岳遭難救助隊の人がこの姿を見れば、目をむくでしょう。が、男性の周りには登山経験が豊かそうな撮影スタッフや会社の部下が総勢5、6人いて、ビデオを回さない岩稜の縦走中は登山靴にはき替えていた気配。巧みに演出している感じでした。
目的は自社オーダースーツのPR
下山後ネットで検索したら、男性の名前は佐田展隆さん。当時44歳。高校の時はサッカー部、一橋大学時代はノルディック複合の選手。趣味は登山で、剣岳にも何回か登っているらしい。
これまでも自社のビジ
ネススーツを着て富士山や剣岳に登ったり、東京マラソンに参加した様子を写した動画を10本近く、「YouTube」で公開していました。
このところ、職場での服装がカジュアル化し、スーツ離れが進んでいることを背景に、自分のところでつくるオーダースーツには「耐久性」もあり、体も動かしやすいと宣伝するために、社長自らが文字通り身を挺して取り組んでいるようです。
今回の件で、「オーダースーツSADA」というお店があることは分かりました。
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