北穂高岳で味わう至福のひと時

標高3000㍍の北アルプスに登っていたころの写真記録、国内外の旅行、反戦平和への思いなどを備忘録として載せています。

ホワイトアウトの雪山で「空間識失調」の寸前に!

お題「これまで生きてきて「死ぬかと思った」瞬間はありますか?身体的なものでも精神的なものでも」

 

ホワイトアウト」って?

 北アルプス涸沢(からさわ)のテント場

 

 

目次

 

 

 

 雪山で、危なかった話です。

 「ホワイトアウト」って言うんですが、吹雪や濃い霧で周りが真っ白になって、視界がゼロかそれに近くなる状態のことです。

 

 そんな時、どんなふうになるかというと、数㍍先にいる人間が、ボーッとかすかに見えるだけになってしまいます。雪の上の自分の足元も、わずかにみえるだけになってしまう。そして足元の雪面と、前方の山や上空との「境い目」がはっきりしなくなってしまいます。

 真っ白い空間をフワフワ歩いているような気分になってしまうんですね

 

 

 

私の体験

 もう16年も前の話です。2007年5月2日標高3000㍍の北アルプス北穂高岳でのことです。

 

 朝の8時30分ごろ、雪が降り続いている中で、北アルプス涸沢(標高2300㍍)のテント場にいた人がポツリポツリと北穂高岳に向かい始めたんです。

 私も「せっかく穂高まで来たんだから登らずに帰るのはもったいない」と考え、実力がないにもかかわらず、北穂高岳に登り始めました。

 

 

 でも、視界は効かない。とにかく前を登っている人を見失わないように・・・。

 目を離したら、再びとらえるのが難しくなりますからね。

 

 

 降り続く雪の中で、先行者にどんどん遅れて、あせるばかり。やがて見失いました。

 

 足元と目の前、そして空は境界がなく、白一色。真っ白い空中をもがきながら歩いているような、妙な気分になってゾッとしました。

 

 そして、このまま白一色の中をフワフワと登り続けていくと、気付かないうちに3000㍍の稜線を越えて滝谷に転落してしまうんじゃないか、という恐怖心までわいてきました。「空間識失調(くうかんしきしっちょう)」の一歩手前の状態になりかけたのではないかと、いま思います。

 

 でも、運がよかったのですね。だれかが山頂の山小屋「北穂高小屋」の鐘をガンガン鳴らしてくれたんです。それで進むべき方向が分かり、助かりました。

 

 

 山頂に立つ「北穂高岳」と書かれた標柱がボーッと見え、すぐ下に建つ北穂高小屋(上の写真)にたたどり着きました。ホッとしました。

 

 

 自撮りの写真

 

 

 

 

「空間識失調」って?

 『雪山でのホワイトアウト』から話がちょっとそれますが、吹雪や雲の中では、「空間識失調(くうかんしきしっちょう)」という状態に人間が陥ることがあります。

 

 

 人間には、空間において自分自身の位置や姿勢、方向といったものを無意識のうちに認識する「空間識(くうかんしき)」という能力があるそうなんですね。

 ところが雪や雲に包囲されて、自分がおのれの目で見た情報と、耳の三半規管が感知した情報との間に、受け止め方のずれが生じてしまうと、「空間識」を維持できなくなる。これが「空間識失調」という状態らしいのです。

 

 

 

 空間識失調が原因で、ヘリコプターが墜落することがしばしばあります。

 直近では2018年8月に、群馬県防災ヘリが山中に墜落して乗員9人が死亡した事故がそうです。雲の中を飛行した結果、機長が機体の姿勢を錯覚する空間識失調に陥り、正常に操縦できなくなったのです。(2020年2月公表の運輸案委員会調査報告書)。

 

 

 

 

足元見えず下山できなかった

 話を戻します。

 当初の予定では、北穂高岳に登頂したら、休憩してからまた涸沢テント場の自分のテントまで下山するつもりでいました。

 

 ところが、快晴の夏の北穂高岳とは違って、山頂に立った時の足元と、空の境目が分からないのです。目の前が真っ白なんです。雪のない時期の下山ルートはもとより、登山者の踏み跡が風雪で消えて、どこに脚をだせばいいのか、分からないのです。

 最初の一歩を踏み出す位置を誤れば、がけ下に真っ逆さまです。

 

 

 それでもテントに戻りたいのでしばらく立ちすくみ、エイヤーで下りるか、やめるか迷いました。

 

 結局、ビビッて、山頂の山小屋に泊まることにしました。余計な出費になりましたが、まだ死ぬわけにはいかないものね。今思い出しても、冷や汗が出ます。

 

 雪山を甘く見てはいけない。

 

 

 

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