強風で知られる八ヶ岳「根石岳山荘」と「根石岳」間の稜線(2023年10月5日午前9時撮影)
八ヶ岳連峰の「本沢温泉」に泊まった翌日の2023年10月5日は、山を越えた先にある、もう1つの秘湯、「唐沢鉱泉(からさわこうせん)」まで長時間歩く日でした。
目次
南北に長く伸びる八ヶ岳連峰ですが、きょうはその中間地点にある夏沢峠にまず登ります。
その後、南の硫黄岳(標高2742メートル)に登頂。夏沢峠に戻ったら、今度は反対の北方向にある双耳峰の天狗岳(=東天狗岳と西天狗岳)に向かい、唐沢鉱泉に下る、という「計画」を立てていました。
標高の高い山を単独で歩くので、事前に注意したのは2つ。
1つは「低温・雨や雪・強風」の3拍子によって体温を奪われる低体温症にならないこと。
もう1つは「道迷い」でみっともない遭難をしないこと、です。
10月5日正午の天気図です。
よくなかったですね。
八ヶ岳の位置から、東に低気圧、西に高気圧という「西高東低」の冬型気圧配置でした。等圧線が縦じまで間隔が狭く、西の風が強いことが分かります。
さて、行動記録です。
【10月5日】6:18 本沢温泉を出発
夏沢峠へは、こんな道です。幸い、雨は上がっており、曇り。
硫黄岳は風とガスで途中で登頂断念
7:19 稜線に建つ「夏沢峠」(標高2429メートル)に到着。
右手からきた高齢の男女3人パーティーが、硫黄岳に向かっていました。
私も数分後、硫黄岳に向かいましたが、先ほどの3人パーティーが戻ってきました。「風が強いので止めました」ということでした。
7:57 樹林帯を抜けて、吹きさらしの硫黄岳登りの斜面にさしかかりました。ガス(=濃い霧)で視界が悪いうえ、猛烈な風です。
この状態で硫黄岳山頂まで往復していたら、宿泊先の「唐沢鉱泉」に予定時刻の午後3時には到着できない、と判断。登頂を断念しました。
8:16 夏沢峠に戻りました。
8:20 東天狗岳に向けて出発。
箕冠山(みかぶりやま)への登りは、樹林帯の中。風はなし。
9:09 箕冠山(標高2590メートル)の山頂。
箕冠山にある案内看板。ここで11分休憩。ここからが本番です。
9:23 樹林帯を抜けた途端、この風・・・
ガスで前が見えない。この先に「根石岳(ねいしだけ)山荘」があるはずだが・・・。
根石岳山荘で計画の練り直し
9:25 大きな看板が見えました。縦走路(右方向)に行かず左手に直角に下ると「根石岳山荘」。強風を避けたくて本能的に小屋に向かっていました。
9:27 ボーッとガスの中に見えたのが根石岳山荘(標高2550メートル)。箕冠山(みかぶりやま)と根石岳の鞍部に、稜線に張り付くように建っています。
23年も前の2000年夏、ここで一泊しましたが、当時の名前は「根石山荘」。いつの間にか名前が変わっていました。
「こんにちは~」と言って小屋に飛び込むと、ストーブがたかれて暖かでした。カレーライスを食べていた若い3人の小屋番さんに、「風が強いですねえ」とあいさつ代わりに声を掛けました。
リーダー格の方は「ここはいつも強いけれど、きょうはふだん以上で、危険なくらいです」という反応でした。
「どちらまで行かれるのですか」と聞かれたので、「唐沢鉱泉です。東天狗岳から西天狗岳経由で行くつもりでいたんですが、風が強いですよねえ。別ルート、ないかなあ」とつぶやきました。
すると、リーダー格はしばしパンフレットをみたあと、「どうしても行くというのであれば」という前提で、「西天狗経由はアップダウンが多いからそれより、中山峠経由が歩きやすくて一般的です。黒百合ヒュッテ前を経由して」と、助言してくれました。
そしてもう1つ、こう助言してくれました。「東天狗岳の山頂には案内表示の看板がありますが、中山峠と西天狗方面はガスが深い時は方向が分かりにくいから注意してください」と。
根石岳山荘~東天狗岳の間の稜線は「強風」
10:07 根石岳山荘を出発。結局、小屋で40分間、様子見をしましたが、一向に風は衰えません。
ここから東天狗岳まで、風のない穏やかな日でも45分前後かかります。その先も樹林帯の中山峠まで吹きさらしです。
この時点で一番心配したのは、よくニュースになる「低体温症」になってしまうことでした。強風の中を1時間以上歩くので、体温を奪われないように「防寒」をきちんとしないといけない。
雨具(上着)の下には、朝から①メッシュの長袖シャツ②汗を吸い上げる薄手のシャツ③メリノウールの長袖――を着ていましたが、根石岳山荘の軒先でもう1枚、薄いダウンを雨具の下に着ました。手袋も2枚重ねにし、帽子も飛ばされないようにあごヒモを付けました。
幸い、雨が降っていないために、衣類がぬれて体温を奪われる心配はまずない。朝食もしっかりとっているから、エネルギーは生産できます。
根石岳山荘前から根石岳(標高2603メートル)に向かう稜線ですが、突風が吹きます。
緑のロープは植生保護のため立入禁止を示すものであって、登山者がつかまるためのものではありませんが、体が吹っ飛ばされそうになるため、ついつい手が伸びてしまいました。
雲の中を歩いているので、メガネに露が付いて曇ります。足元もぼけて見えます。何度も立ち止まって、強風の中でメガネふきをポケットから取り出して露をふき、また歩き出すという繰り返しでした。
10:16 根石岳山頂(標高2603メートル)。ここまできて、やっと一息つけました。
地形図のコピーをポケットから取り出し、「現在地」とこれから進む地形を時々、チェックします。東天狗岳まで、もうひと踏ん張り。
ぼんやりと標識が見えてきました。
10:31 「白砂新道」です。本沢温泉から直接、東天狗岳を目指す場合は、ここに出てきます。
さらに進むと、ガスの中に、金属の橋がぼんやり見えてきました。橋を渡って、少し登ると東天狗岳の山頂のはずです。が、ガスで先が見えない。
鎖がボーッと見えます。でも、ふつうに歩いて登れます。
東天狗岳はガスが濃い時「道迷い」に注意
10:57 東天狗岳(標高2640メートル)の山頂に着きました。ホッとしました。コンパクトデジカメでタイマーをセットして証拠写真の撮影を試みますが、情けないことにうまく行かない。
11:06 たまたま男女2人が登って来たので、男性にシャッターを押してもらいました。
根石岳山荘を強風下に出てから、ここ東天狗岳までの間、だれにも会うことはありませんでしたから、ヒトをみるとホッとしますね。
このお2人、「中山峠」から登って来て、これから「白砂新道」を通って本沢温泉でテント泊だとか。
ちょっとした問題が起きたのは、このあとです。
方向を示す山頂の標識を見て、「西天狗岳」ではなくて「中山峠」方向に進み始めたつもりですが、足元しか見えないせいか、「西天狗岳」方面の登山道に入っていたのです。
これも、たまたま前から登ってきた男女に「中山峠からですか」と確認する意味で声を掛けたところ、「いいえ西天狗岳ですよ」。
「あれ?まずいじゃん」というわけで、バックしてまだ山頂にとどまっていた中山峠からきた男性に「中山峠」へのルートを教えてもらいました。
東天狗岳の山頂がガスに包まれていなければ、西天狗岳の姿がくっきりと見えるし、遠くまで見渡せるので、方向を誤るなんてことはあり得ない話ですが、この時はガスで足元しか見えませんでした。
みっともない話ですが、周囲が見えなくなる、というのは怖いことです。
図の右上が「東天狗岳」。これから左の「中山峠」に向かって下っていきます。
11:18 東天狗岳を出発。
風はビュービュー吹いています。
紅葉は始まっていますが、よく見えない。
ボーッと標識が見えてきました。
12:33 中山峠(標高2406メートル)に着きました。時間がかかりました。
中山峠から木道を10分も歩けば「黒百合平」。
12:50 山小屋「黒百合ヒュッテ」(標高2400メートル)。昔、2、3回泊まりましたが、増築していました。
「黒百合ヒュッテ」から西の唐沢鉱泉・渋の湯に向かう登山道です。
緩やかな下りですが歩きにくい道です。水が流れていない涸れた沢に、大きな岩がゴロゴロ転がっているのです。
ただ、岩のアタマの部分は大勢の登山者が踏みつけて渡り歩くため、コケははがれています。しかし、気は許せません。ちょっとわき見すると、ツルンです。
14:01 唐沢鉱泉・渋の湯分岐(標高2187メートル)。この分岐から先の「唐沢鉱泉」方面の傾斜は、さらに緩やかになります。
唐沢鉱泉へのルートは、分かりにくかったです。ガイドブックには40分で唐沢鉱泉に着くように書かれていますが、とんでもない記載だと思いました。
岩がゴロゴロしたところが登山道になっているのですが、周りも岩がいっぱい。進むルートが判然とせず、立ち止まることしばしば。
ポツンポツンと木の枝に縛り付けてあるピンクのリボンが頼りですが、これを探すのも容易ではありません。
足元は、といいますと、登山者が極端に少ないため、岩のアタマの部分にはコケがしっかり生えていますので、靴を載せるのは危険。岩と岩の間に靴を置くわけですが、岩も傾いており、滑ります。2回、仰向けにひっくり返りました。背中のザックがクッションになって、けがはしませんが。
それに木の根が登山道をはっています。根っこに靴を置くと、途端にツルン。
ただ、使い始めて日が浅いスマホに、事前に登山用地図アプリで地形図をダウンロードしておいたために、GPSによってルートを外れていないかチェックできたことは安心材料でした。
15:27 唐沢鉱泉(標高1868メートル)に、やっと着きました。
午前6時18分に秘湯「本沢温泉」を出て、次の秘湯「唐沢鉱泉」に着くまで、9時間ちょっと。休憩時間を多くとり、ゆっくり慎重に歩いたせいもあって、汗をかかずに登山できました。