秘湯・唐沢鉱泉の源泉池
八ヶ岳連峰の秘湯めぐりの2ヵ所目は、知名度は高くありませんが、山小屋の唐沢鉱泉(からさわこうせん)です。
2023年10月5日午後、東天狗岳(標高2640メートル)から中山峠経由で下山してチェックインしました。
目次
唐沢鉱泉の魅力
外観はペンション風の「唐沢鉱泉」。
唐沢鉱泉は、八ヶ岳連峰・天狗岳の中腹、標高1870メートルに建つ山小屋です。
この宿に泊まった理由は3つ。
①登山をした後で、熱くした「鉱泉」(=源泉温度が25℃未満)に入ることができる。
②「秘湯」という魅惑的な響きがある宿だということ。
③JR茅野駅まで車で送ってもらえること。
――というところです。
1泊2食付きの個室で1万7750円(税込み)もしましたが、20キロ離れた茅野駅までタクシーで行けば5000円かかりますから、そんなもんかも。
私は利用したことはありませんが、ここ唐沢鉱泉は西天狗岳(標高2646メートル)へのルートの、登山口にもなっているんですね。西天狗岳の先の東天狗岳まで往復する日帰り登山者のために、無料駐車場もあります。下山後に、唐沢鉱泉で外来入浴サービスも利用できます。
唐沢鉱泉の由来
唐沢鉱泉の「湯」がいつどのようにして見つかり、どう使われてきたのか分かりません。資料がありません。
宿の廊下に展示されている「浴室」の写真に、「武田信玄により開かれた秘湯」と書かれているだけです。
地元紙「信濃毎日新聞」の記事によると、唐沢鉱泉のおかみさんが夫と創業したのは「1970年」とのこと。
加盟している「日本秘湯を守る会」のホームページには次のように書かれています。
「(唐沢鉱泉の営業を)始めたころは、道も電気も電話もお客様さえ、なかった。亡き主人が山道をジョレン(土鍬)で掘るように今の道を切り開いた。」
「豪傑な狩人で、造園、石庭造りの異才だった故人が巨石を組んで造った『湯殿』は、湯船は総古代杉造り、洗い場はヒバの床木でゆったりとたくましい。」
浴室
浴室の天井には窓があって光が差し込み、そのうえ植物もあってぬくもりを感じました。
唐沢鉱泉は露天風呂はなく、男女別の「内湯」のみ。風呂場には大きな浴槽(写真向こう側)と小さな浴槽(手前)が1つずつ。その間に「溜め桶(ためおけ)」があり、鉱泉が2つの浴槽に注がれます。
源泉から溜め桶に引き込まれている水の温度は、約10℃ですのでヒンヤリします。大きな浴槽は熱めに、小さな浴槽はぬるめにされていました。
浴槽と床は木が使われていて落ち着きますが、興味深かったのは、浴槽のわきに配置された大きな岩。この岩に、ニシキウツギ(二色空木)という紅白の花が初夏に咲く木が絡みついていたことです。
ニシキウツギは暑さ・寒さに強い木だそうです。
ほかにも、コケむす岩のすき間で、シダ類が元気に育っていました。
浴室には「打たせ湯」もあり、高さが3メートルある岩の上から、鉱泉がドドドと音を立てて落ちてきていましたが、あまりにも冷たいため、打たれるのを控えました。
源泉
唐沢鉱泉のお湯について、浴室の張り紙にこう書かれていました。
●源泉名: 唐沢鉱泉源泉
(注:「冷鉱泉」というのは、温度が25℃未満で療養効果のある物質を含むわき水のこと。「温泉」は法律上は25℃以上のことをいいます。)
●温泉の温度:10.9℃(調査時の気温18℃)
●温泉の成分(一部だけ抜粋します): 水1キログラム中に、「遊離二酸化炭素」1001ミリグラム
(注: 水1キログラムの中に「遊離二酸化炭素」が1000ミリグラム(=1グラム)以上含まれているものを【二酸化炭素泉】といい、ここはその1つ。日本では数少ない泉質です。)
●温泉分析年月日: 令和1年7月22日
●消毒方法: 衛生管理のため、塩素系薬剤を使用しています。
庭園のような「源泉池」
東天狗岳(標高2640メートル)から下山を始め、標高1870メートルの唐沢鉱泉の敷地に入った途端、美しい「池」が目に入りました。
コバルトブルーの水をたたえた庭園のようでした。唐沢鉱泉の「源泉」です。コンコンと鉱泉が地中から湧き出ている池。池の底は鉱泉水の成分が沈殿して白い「湯の花」となっており、緑のコケと調和して神秘的な景観を創り出していました。
「コケ」の種類はウカミカマゴケ。緑色のコケの一部が水中に沈んでいるため、太陽の光で水がコバルトブルーに見えるようです。
「池」の近くにある、宿が引き込んでいる鉱泉の源。ここからも鉱泉の一部が池に流れ込んでいるように見えました。
食事
夕食です。
川魚の甘露煮、合鴨のスモーク、地元信州の野菜、山菜、きのこ・・・。
これは翌日の朝食。ほかにホットコーヒーも出ました。
宿の裏山がヒカリゴケの群生地
唐沢鉱泉の売りの1つが、ヒカリゴケです。
鉱泉のすぐ裏の原生林の中に自生しています。
「光苔群生地」と書かれた看板がありました。
ここをチラッと見たあと宿に戻り、おかみさんに「看板の周りがみんなヒカリゴケなんですか?」とピント外れでトンチンカンな質問をしてしまいました。
「いえいえ、木の根っこの穴の中をのぞくと、角度によって見えるんですよ」と優しく教えてくれました。
斜面に点在する木の根の空洞や岩陰をのぞき込み、暗がりに向かってデジカメのストロボをたくと、緑色の光を見ることができる・・・それがヒカリゴケだというわけです。
あらためて見に行きました。
これは穴です。
ピンボケですが、緑がヒカリゴケ。
光が当たったヒカリゴケ。アップにしますと・・・・。
こうなります。
ヒカリゴケは、自分の力で光を出しているのではありません。ヒカリゴケは光合成をおこなう葉緑体を含む細胞がレンズのような形をしており、光を集めています。
外から光を当てると、細胞の奥の葉緑体に集まった「光が反射」するために、エメラルドグリーンに光って見えるということのようです。
宝物をみつけた、という気分です。