白馬鑓温泉小屋の露天風呂。下はテント場。(2023年7月21日午後撮影)
興味深い山小屋です。
北アルプスの標高2100㍍の山中に2023年7月15日に現れましたが、9月30日には営業を終えて取り壊す、というんです。
白馬鑓温泉小屋(はくばやりおんせんごや)、通称・鑓温泉(やりおんせん)です。
営業期間はわずか2ヶ月半。その「鑓温泉」に焦点を当てました。
目次
「秘湯」中の「秘湯」
山小屋の営業期間が、1年のうちわずか2ヶ月半。それでもプレハブ小屋を建てるというのは、そこに他では得難い魅力的な露天風呂があるからなんですね。
山奥など、交通の便が悪くて人の行き来が少ない場所に隠れるように存在する温泉地のことを「秘湯」といっていますが、ここ白馬鑓温泉小屋は、登山者だけが行くことができる秘湯。「秘湯中の秘湯」だと思いますね。
最寄りの猿倉登山口からでも、4時間以上登山するのですから。
白馬鑓ヶ岳(標高2903㍍)から下山してくると、見えてくる白馬鑓温泉小屋の屋根。
魅力
下から見た建物。
白馬鑓温泉小屋のある位置は、白馬三山(しろうまさんざん)の1つ、白馬鑓ヶ岳の中腹。標高2100㍍です。
この山小屋の魅力は、源泉かけ流しの露天風呂にはいることができること。
白馬三山を縦走した後、露天風呂の湯につかり、山の絶景や流れゆく雲をボーッとみている時の気分は最高です。
登山ルート
「山と高原地図」北アルプス総図(昭文社・2001年発行から引用
白馬岳(しろうまだけ)登山のメインコースは、30代前後が主役だった昭和40年前後は、白馬大雪渓(はくばだいせっけい)から白馬岳にまず登り、白馬鑓ヶ岳にまわって鑓温泉で汗を流して猿倉に下山する、というのが定番だったそうです。
でも最近は、鑓温泉の露天風呂に入るのを目的に、猿倉から登ってくるケースも多いらしい。
経営は、白馬山荘グループ
山小屋「白馬鑓温泉小屋」を経営しているのは、日本最初の山小屋である白馬山荘をメインに、後立山連峰に「五竜山荘」「白馬大池山荘」など7軒の山小屋を経営する株式会社「白馬館」。通称・白馬山荘グループです。
温泉の歴史
調べて見ましたら、鑓温泉の存在は、江戸時代にはふもとの住民には知られていたのではないか、とみられています。
「マッチ」が使われる以前の江戸時代には、かまどの「火だね」として「硫黄」が必需品だったようで、北アルプス山麓の信州側の家々は、その硫黄を白馬岳の富山県側にある「朱殿坊」と呼ばれた地点から採取していました。
その搬出ルートはいま登山道となっている「鑓温泉経由」しか考えられないというわけです。ただ、鑓温泉のある場所は当時の松本藩の藩林であって、勝手に入ると罰せられるため、村人は黙っていたのではないか、というわけです。
明治維新になって村人は入山できるようになり、1876年(明治9年)に、鑓温泉の湯を「竹筒」をつなぐことによって里までひく工事を始めました。ところが、11月に飯場が雪崩に襲われ、21人が死亡。作業は取りやめになりました。
その後、時が経過して1928年(昭和3年、「白馬館」が白馬鑓温泉小屋を新築し、山小屋経営が始まりました。
【参考:菊地俊朗著「白馬岳の百年」(2005年発行、山と渓谷社)
山小屋の建設・解体
白馬鑓温泉小屋は、急な斜面にへばりつくように建てられています。
冬には降雪が多く、春先にかけて雪崩が多発するところです。豪雪で建物が押しつぶされたり雪崩で流されるのを避けるため、シーズン終了後に解体し、また雪が解けてシーズンが始まる前に立てるのですね。毎年、同じことの繰り返しです。
2023年の営業は7月15日から始まっていて、9月30日までの営業だそうです。以後、温泉地は無人に――。
採算は合うの?という疑問
余計な心配かもしれません。白馬館としては、「鑓温泉の露天風呂」を白馬岳登山を柱とする「白馬」の観光の目玉に位置付けており、切り捨てることは考えていないのではないかしら、と推察します。
露天風呂
これが露天風呂。
コンクリートの浴槽が1つ。広さは10畳から12畳ぐらいかな。
ほかに、周りを板塀で囲った小ぶりの「女性専用風呂」がありました。
脱衣所。「露天風」呂の横にあります。左奥が入り口。棚に脱いだものを置くだけで、カギはない。
「露天風呂」は男女混浴ですが、真っ暗になる夜8時から9時までの1時間は「女性専用」になり、その時間帯は「女性専用風呂」が男性用になるとのこと。24時間入れます。
「露天風呂」のうしろと脇は、食堂の建物と脱衣所と、木が1本生えているだけ。
「露天風呂」の下は、テント場。
浴槽から立ち上がれば、見えてしまいますし、浴槽のふちを歩けば全身アップです。
「食堂」の建物の通路から下をのぞけば、こんなふうに露天風呂は丸見え。通る人はみんな、自然にのぞきますよね。
要するに、ワイルドなんです。
あいにくの天気でしたが、晴れていれば風呂から素晴らしい景色を目にすることができるでしょうね。
水着の女性3人
混浴とはいっても、昼間には女性は水着を着ても入りづらいかもしれませんね。
チェックインしてだいぶ時間が経った午後3時ごろでしたかね。外にあるトイレで用を足して小屋に戻る途中、露天風呂の脱衣所(上の写真の左端)から、水着姿の女性3人が相次いで出てきたんです。1人は30前後、あとの3人はチラッと見ただけで不明。
真っ昼間に大胆だなあ、と思いつつ、眼を露天風呂に移すと、おじさん4人が生まれたままの姿で湯につかっていました。
女性3人連れが湯に短時間でも入ったのか、脱衣所まで行って引き返したのか、知る由もありませんが、3人はこのあと、「女性専用」の内湯に入った行った気配でした。
源泉
お湯は、小屋のすぐ裏にある巨大な岩の割れ目から噴き出していました。
お湯は、パイプを通じて「露天風呂」「女性専用風呂」「足湯」に導かれ、浴槽からあふれたお湯は川になって山の斜面を下り、轟音とともに流れていきます。
お風呂の湯の温度は43.1℃だそうですが、湯が送り込まれるパイプから離れた場所は適温でした。
泉質・湯量
脱衣所に掲示されている「温泉分析書」(長野県薬剤師会作成)には次のように記されています。
●調査年月日:2013年9月10日
●泉温:43.1℃
●湧出量:未測定、自然湧出
●水素イオン濃度:pH6.7
また、大町保健所による認定は、
●温泉の泉質:硫黄泉
●消毒方法:衛生管理のため、塩素系薬剤を使用
などとなっています。
【硫黄泉】というのは、「硫黄」(硫化水素イオンと遊離硫化水素の合計)が、温泉水1㎏中に2mg以上含んでいる温泉のことをいいます。
白馬鑓温泉小屋の露天風呂の場合、「硫黄」が6.7mgとたくさん含まれており、それがほかの成分の「メタケイ酸」と「遊離二酸化炭素」と混じり合うことによって、温泉の色がエメラルドグリーンになるのではないかと考えられます。
エメラルドグリーンに見えました。
足湯
足湯は無料です。露天風呂の下のテント場にありました。
小屋の食事
「食堂」。
「夕食」はハヤシライス。お替りできました。
「朝食」です。
宿泊料金は、1泊2食付きで1万6000円でした。
寝る場所
2段式の相部屋です。個室はありません。
1区画4人部屋。男4人、アタマを交互にして寝ました。廊下の反対側は女性3人でした。
トイレ
トイレは外にしかありません。
テント場
テントは1張り2000円。山小屋で食事はできませんので、自炊。
「露天風呂」の入浴料は、テント泊は日帰りや通過の人と同様、大人1人1500円となっていました。