北穂高岳で味わう至福のひと時

穂高連峰を中心とした登山でみたこと、感じたこと、考えたことを備忘録として書いています。

体力~暑さに負けない体力づくり

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北穂高岳山頂から見た常念岳からの日の出  ~5月~

 夏の暑い盛りに登山をすると、大量の汗をかいて脱水状態になりやすい。水分と電解質の補給が不十分だと、体温の調節機能が働かなくなって体温が上昇し、「熱中症」になる場合もあります。

 「暑熱順化(しょねつじゅんか)」という言葉があります。体を暑さに対して適応させる、という意味です。これができると、体温が低くても汗をかくことができ、体温は、もうそれよりも上がらないため、熱中症の予防にもつながります。

 どうすれば、そうした“暑さに強い体”になれるのか――。

 

運動直後の1杯の牛乳

 この問い掛けに対し、1つの答えを出しているのが、能勢博・信州大学特任教授(元・同大大学院医学系研究科教授)。登山が趣味で、常念岳の肩にある信州大学医学部山岳部常念診療所の元所長。

 能勢教授は、

①暑熱順化には血液量を増やすことが重要になる

②血液量を増やすには、ややきつい運動をすることと、運動直後に牛乳を飲むこと――

 と説いています。

 

実験

  能勢教授の研究チームは、「運動直後に糖質・タンパク質を摂取すると、血液量が増えて、体温調節機能が改善する」という仮説を立てて実証実験をしました。

 実験に加わったのは大学生18人で、「糖質・タンパク質を含む補助食品」をとるグループと、とらないグループに分け、自転車をやや強くこぐ実験を1日30分ずつ、5日間行いました。

 その結果、「糖質・タンパク質」を毎回、運動の直後に摂取したグループは、とらないグループに比べて「(血液中の)血漿量」と「血漿の中のアルブミンというタンパク質の量」が著しく増えました。また、体温の上昇速度も発汗速度も、ともに摂取したグループが顕著に増加し、より暑さに強い体になりました。

 次に、研究チームは「熱中症で亡くなるのは高齢者に多い」という傾向から、その原因を調べるために元気な高齢者と大学生9人ずつに、暑い中で自転車運動をしてもらい、体温に対する汗をかくスピードと、皮膚血管の開きやすさを調べました。

 その結果、高齢者は若年者に比べ、体温の上がり方が著しく低く、体温調節機能が低下していることが分かりました。

 そこで今度は、60代後半の14人を対象に8週間、大学生と同じ実験をした結果、大学生の時と同様、運動直後の糖質・タンパク質補助食品の摂取は、アルブミン量・血漿量を増加させ、体温調節機能を改善しました。そして、「ややきつい運動直後の牛乳摂取は、高齢者の、暑さに強い体づくりに有効」と結論付けました。

 

 カギはアルブミン

  能勢教授の著書「もう山でバテない!『インターバル速歩』の威力」(山と渓谷社発行)には、こう書かれています。

 「ややきつい運動の後、30分から1時間は筋肉、肝臓でのタンパク質合成が亢進(こうしん)しています。このタイミングでタンパク合成の材料であるタンパク質を多く含む食品(乳製品)を摂取すると、筋肉では筋線維合成、肝臓ではアルブミン合成が亢進します

 「肝臓で合成されたアルブミンは、血液中に放出されますが、アルブミンは高分子のため血管外には出ていきません。その結果、血管外から水分を引き込んで血漿量を増加させ、体温調整能(皮膚血管の開きやすさ、汗のかきやすさ)が50%程度改善することが明らかになっています」

 

補足すると……

 カギを握るのは、アルブミンというタンパク質です。

 アルブミンは血管の中を流れる血液の中の「血漿」という部分に溶け込んでいます。血管の壁をはさんで、内側と外側では濃度が違う液体が存在しているわけですが、アルブミンは分子が大きいために血管壁を通り抜けて血管外にいくことはありません。このため血管の外から水が中へ移動してきます。これを現象面で見ると、まるでアルブミンが水を引き付けているように見えます。

 ここからが「牛乳」の出番です。牛乳や乳製品には、アルブミンと糖質が含まれています。牛乳を飲むことによって、血液(血漿)中のアルブミンの濃度が高まると、血管内に水分が引き込まれ、血液の量が増える、というわけです

 「汗」のもととなるのは血液です。体の中の熱を逃がしてくれるのが汗。“汗をかきやすい体”になるということは、“暑さに負けない体”になる、熱中症予防にもなる、というわけです。

 

インターバル速歩

 能勢教授は、「インターバル速歩」という歩き方を、熱中症対策で提唱しています。高齢者でも手軽に取り組める“ややきつい運動”というのがこれです。

 インターバル速歩のポイントは、「早歩き」と「ゆっくり歩き」を繰り返すことです。

①まず、早歩きを3分間行う。歩いていて、息が上がってくるぐらいのペース。いつも  より大またで、しっかり腕を振って歩く。

②次に、ゆっくり歩きを3分間行う。早歩きで上がった息を整えるようにリラックスして歩くことがポイント。

③早歩きとゆっくり歩きを合わせた6分間を「1セット」とし、これを1日5セット以上、週に4日以上行う。これは1つの目安であり、3分がきついようであれば2分でも構わないし、セット数もできる範囲で行えばよい。

④大切なのは、早歩きの目安は「ややきつい」と自分なりに感じる速さであること。

 

 能勢教授は著書で、「トレーニングの効果は2ヶ月目から現れます」「体力アップは、山で役立ちます」などと記しています。