「筋肉痛」は登山につきものですが、ありがたいことに、北アルプスでテントに2泊して下山したのに、私の場合、脚に痛みが出ません。
「アミノバイタル」
2019年9月27日、長野県の上高地に入り、穂高連峰のちょっと早い紅葉をみて29日に上高地に戻りました。歩いた距離と標高差、ザックの重さは次の通りでした。
[27日] 上高地(標高1500㍍)~横尾(標高1600㍍)経由~涸沢テント場(標高2300㍍)
標高差=800m、歩行時間=6時間、ザックの重さ=20㌔
[28日] 涸沢(標高2300㍍)~白出のコル(標高3000㍍) ~涸沢(標高2300㍍)
標高差=700㍍の登り下り、ザック=10㌔程度
[29日] 涸沢(標高2300㍍)~横尾経由~上高地(標高1500㍍)
標高差800㍍下り、歩行時間=5時間、ザックの重さ=19㌔程度
この間に、サプリメントの中で比較的値段の安い「アミノバイタル」(味の素)を、朝食時、行動中、夕食時の1日3回飲みました。
年に数回、日帰りで標高差1200㍍の丹沢の山を登り下りしますが、サプリを飲まないと、下山翌日か翌々日に、ふくらはぎに痛みが出ます。
でも、今回、3000㍍級の北アルプス登山で筋肉痛がなかったのは、サプリのおかげなのか、それともゆっくり登り下りしたためでしょうか――。
アミノ酸サプリが注目されるわけ
マラソンや登山で激しい運動をすると、ふつう脚の筋肉が痛みます。「筋肉痛」のメカニズムは解明されていませんが、運動で傷ついた筋線維という筋肉の線維を修復するときに炎症が起き、これによって脳が痛みを認識する、という説が有力のようです。
各食品メーカーによりますと、運動前後にアミノ酸サプリを飲むと、
筋肉の損傷や筋肉痛を軽くすることが期待できるということのようです。
ではなぜ、そうしたことが期待できるのでしょうか。
アミノ酸サプリの成分は何でしょう。
その前に、人体の構成をちょっと見ておきます。
ヒトの体の構成
人間の体は、アミノ酸でできています。
人間の体は、体内の60%が「水分」。残りが「脂質」「タンパク質」「糖質(炭水化物)」などです。
このうちタンパク質は、筋肉や内臓や、血液の中で酸素を運ぶ役割のあるヘモグロビンなどのもとになります。
タンパク質は「アミノ酸」という分子が、じゅずのようにつながってできています。
登山など体力を酷使する運動では、エネルギー源としてまず、体内に貯蔵されている「糖質(炭水化物)」が使われ、ある程度運動がきつくなってくると「脂質」が燃やされてエネルギーになります。
それでも間に合わないと、筋肉中のタンパク質を分解して、アミノ酸を消費し、エネルギーにしてしまいます。それで筋肉に損傷が起き、筋肉が減っていきます。これが「筋肉痛」の原因の1つです。
アミノ酸の補給が大切
筋肉痛にならないためには、運動中も、タンパク質を構成するアミノ酸を補充しなければいけません。
そのアミノ酸ですが、たくさん種類がある中で人体をつくっているのは20種類です。
そのうち特に、運動している時にエネルギー源になる重要なのが、
バリン、ロイシン、イソロイシンという3種類のアミノ酸です。
この3種は、枝分かれするような分子構造をしているために
[BCAA](Branched Chain Amino Acid;分岐鎖アミノ酸)
と呼ばれています。
BCAAは体内でつくることができないため、体外から補給することになります。
BCAAは動物性タンパク質に多く含まれていて、特に、牛肉、マグロの赤身、鶏の卵などに豊富ですが、登山中に食べるのは難しいです。
そこで、アミノ酸サプリの出番です。
食品各社は競って、BCAAを成分とするサプリをつくっていますね。
アミノ酸サプリの効果
BCAAを含むサプリを運動前や運動中にとるとどうなるか?
大塚製薬のホームページによりますと、大学陸上競技部の合宿で、男子長距離選手の協力で、BCAA含有飲料とそうでないものを飲んでもらって検証した結果、
「BCAA飲料を摂取することで、筋損傷が軽減できる」と結論付けています。
そして「筋肉痛」については、合宿前に比べて、BCAA摂取グループ、対象飲料摂取グループとも、筋肉痛にはなったものの、BCAAの継続的摂取により筋肉痛の度合いを抑えられることがわかった、としています。
もう1つの検証例をみます。
味の素のアミノ酸サプリ、「アミノバイタル」プロを使って、運動に伴う筋肉痛、筋損傷に対するアミノ酸摂取の効果を検証した事例があります。
野坂和則・横浜市立大学大学院准教授(当時)が日本体育学会(2002年)で発表した事例で、
「アミノバイタル・プロ」摂取により、筋損傷・筋肉痛が軽減されることが確認された。しかし、その作用機序は不明である」という結論が示されました。
登山での効果は?
アミノ酸サプリメントの「登山」の時の疲労に及ぼす効果はどうでしょうか。
山本正嘉・鹿屋体育大学教授の実験
山本教授は著書「登山の運動生理学とトレーニング学」(東京新聞)のなかで、アミノ酸サプリメントの効果についてこう書いています。
「炭水化物を補給していても、何時間もの運動をすれば、タンパク質の分解は避けられない。このような時にアミノ酸を補給すると、ダメージを緩和できる可能性がある。」
「すべての研究が一致した結果を示しているわけではないが、筋や内臓の分解、筋肉痛、疲労感などが抑制できるという研究がある」と指摘する一方で、こう書いています。
「アミノ酸を飲んでも、魔法のように身体が楽になることはない。また、しっかりトレーニングをしていない人や、行動中に十分なエネルギーを補給していない人が、アミノ酸だけをたくさん飲んでも効果はない。サプリメントの意味は[補助]である。上記の基本を守った上で利用することにより、初めて登山の助けになると考えるべきだろう。」