谷川岳山頂(オキの耳) (2000年7月2日撮影)
猫のように???
「岩稜地帯の下りは猫のように歩いてくださいね」。
山歩きを始めてしばらくすると、北アルプスの岩稜地帯を歩いてみたくなりました。そこで入ったのが、神奈川県内の登山学校。指導をしてくれた大学山岳部OBの先生から、口癖のようにいわれたのがその言葉。
猫のようにって……?
猫はネズミや蛇を襲う時、「抜き足」「差し足」「忍び足」というふうに歩くようです。そして、いざ襲いかかる時は、後ろ足を“抜く”感覚でサッと脚を持ち上げる。
一方、前に出す足は、そのままドサッと地面に置くのではなく、“差す”ようにつま先からソッと置く感じ。
もし着地した瞬間に獲物から逆襲があれば、反射的に脚を引き抜くことができるぐらい、重心を体の軸に残した状態で歩く生き物のようです。
“猫のように”というのは、下りでドスンドスンと騒々しく靴音を立てて歩くのではなく、脚をゆっくり下ろして静かに歩け、というわけです。
そうしないと岩を靴で蹴落としたり、自分自身も膝を痛めることになるからです。
20年以上も昔の話になりますが、登山学校の生徒数人で、谷川岳山頂でビバーク訓練を一晩した翌日、天神尾根の岩場を下っていた時のことです。
すれ違った中年女性2人が「あら、猫のような歩き方。忍者の集団みたいね」「ほんとね」と話していました。これを集団の最後部で耳にした先生は、あとで私たちに「あのように言われてボクはうれしい。みなさんに教え甲斐がありました」と喜んでいたことを覚えています。
忍者のような登山者――。かくありたいものです。