北穂高岳で味わう至福のひと時

穂高連峰や丹沢を歩いて20年余り。見たこと学んだことを備忘録として書いています。

危険な場所の歩き方~②はしご・クサリ場……不帰ノ嶮スリップ体験

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北アルプス・涸沢テント場の夏の空

 雨の不帰Ⅱ峰北峰でスリップ!

とっさにつかんだ草で助かる

  不帰ノ嶮(かえらずのけん)は、北アルプスの白馬3山(白馬岳・杓子岳・鑓ヶ岳)から唐松岳への縦走路の途中にあります。帰らず、という縁起でもない名前が語っていますが、急峻な岩峰が続く難しいルートです。

 3つの峰から構成されていて、白馬岳方面から順に、Ⅰ峰、Ⅱ峰北峰、Ⅱ峰南峰、Ⅲ峰という名前が付けられています。核心部は、Ⅰ峰からⅡ峰北峰への登りです。

 

 いまでも思い出すと、手のひらに汗がにじんできます。よく止まったな、と。不帰ノ嶮の核心部を登山中、転倒して少し滑落した時のことです。当時、小雨が降って周囲はガスに包まれ、視界は10㍍ぐらいでした。教訓は、雨降りでガスが濃い時は、岩稜歩きはお止めなさい、ということです。

 

 2004年8月中旬のことです。単独で白馬3山から不帰キレット、不帰ノ嶮を経て、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳までテント泊で縦走しました。トラブルが起きたのは、不帰ノ嶮の「Ⅰ峰の頭」を過ぎてクサリ場が連続する難所を「Ⅱ峰北峰」に向けて登っている最中でした。晴れていれば高度感があって、脚がすくむと思われますが、ガスで足元が全く見えないために、恐怖感は消えていました。長時間の歩行から慣れが生じ、緊張感が薄れていたのだと思います。

 

 ひさしのように突き出した岩の下にクサリがあり、それが左上に向かって伸び、ガスの中に消えていました。そこを登ろうとしたところ、突然、数㍍先のガスの中に青色と赤色の動くザックカバーが眼に入りました。男女がクサリに沿って岩をつかみながら下りてくるのが分かりました。ルートを譲りながら下を見ましたが真っ白。足元から先がどうなっているのか分かりません。

 さあこれから登るぞ、と左上方にトラバース気味に数㍍進みました。左手で岩の出っ張りをつかむと同時に、足元を見ることもなく不注意に左脚を出した時です。あるはずの岩に靴が当たらず、「アレッ」と思った瞬間、体が宙を舞いました。

 「しまった!」と思うと同時に体は反転して仰向けの状態になり、ザックを背にズルズルと体が下がり始めたのが分かりました。

 「こりゃ、あかんわ。もうダメか」と思ったことを覚えています。しかし、右手に触れたものを本能的につかんだらしく、必死で握ったせいか、運よくストップしました。われに返ると、頭は下向き、右手には草……。必死で頭を上の方にしようと背中を回転させ、どうにか立ち上がることができました。あとはもう恐怖感から、とにかくこの岩場を上に抜けようと無我夢中。荒い呼吸のまま休むことなく直登すること10数分。青地のプレートが眼に入りました。「ここは不帰二峰の北峰」と黄色のペンキで書かれていました。「地獄で仏」というたとえは的確ではありませんが、救いの女神に遭ったような、「助かった~」という何ともいえない瞬間でした。

 当時、撮影したそのプレートの写真をみますと、あの板は、岩のすき間に打ち込まれたハーケンに、カラビナでぶら下げられていた鉄板でした。今は別の標識が立てられているようです。

 ガスで視界がきかない時、登山者は臆病にならないといけませんね。反省しています。そうしないと、取り返しのつかないことになります。不帰ノ嶮では、いまも事故が絶えません。

 

 

 金属製はしごの登り方

横棒を握る

  はしごを登る時の姿勢は、岩登りと同じです。上体の姿勢をなるべく「垂直」に保つことです。はしごにしがみつかないこと。

 手の置き方に注意していただきたいのですが、足を乗せる横棒(ステップ)を握ることです。万一、足を滑らせてもぶら下がることができると思います。

 この横棒ではなく、両サイドの支柱を握って登る人をしばしば見かけますが、支柱を握った場合、雨などで手が滑った場合、地上まで落下する危険性が増すと考えます。

 

 

 

クサリ場

基本はぶら下がるな!頼るな!

  登山ルートで、岩盤が露出している場所を「岩場」といいます。この岩場には、登り下りが難しいところに、山小屋の方や地元山岳団体の方がクサリやはしごを設けてくれています。クサリを垂らしてある場所を「クサリ場」と言っています。

 このクサリ場に登山者として差しかかった場合にすることは、どのように足を置きながらこの岩場を通過するか、眺めることです。大筋決まったら登り始めるわけですが、クサリ場の登りは、一般登山道の登りと考え方は同じで、同一の重力線上に頭、腰、脚が重なるように岩に向かって立ち、脚で岩を登る、ということです。

 クサリは、バランスをとるための“補助”と考え、片手を添えるだけにして、もう一方の手で岩をつかむとよいと考えます。

 クサリ場に差しかかると、むやみにクサリにぶら下がり、クサリに体重をかけて一気に腕力で登ろうとする人をよく見かけます。しかし、危険だと考えます。ぶら下がってしまうと、体全体が振られてしまい、バランスを崩すことがあるからです。

 斜面が急なクサリ場で下りる場合は、後ろ向きで下ります。その時も基本は体を斜面に対して垂直に保つことです。クサリはあくまで転落しかけた時につかまるための補助的道具。下る時に大事なのは、足場を探すことであり、そのためには上体を岩にへばりつかせるのではなく、上体を岩から離すことです。

 手袋は基本的には外したほうがよいと思います。岩の感触が分かるからです。寒い時は止むを得ませんが。

 

一枚岩は例外

 大きな一枚の岩にクサリが垂れ下がっている場所もあります。手がかりや足がかりのない「一枚岩」では、クサリに頼るしかありません。クサリが外れることがないように、引っ張って安全性をチェックした上で、両手でしっかりクサリをつかみ、両脚を肩幅ぐらいに開いてクサリをまたぎ、岩に靴底をしっかり付けて登り下りすることになります。

 クサリに振られないように注意が必要です。