北穂高岳で味わう至福のひと時

穂高連峰や丹沢を歩いて20年余り。見たこと学んだことを備忘録として書いています。

山に想う~夏の涸沢・北穂高岳~⑤登山道のすれ違いを侮るな

 

 登山道でのすれ違いは慎重に、といわれます。特に、岩場。ひとつ間違えると転落、そして「死」です。

 この夏の経験と、思い出してしまった過去の話を記録しておきます。

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前穂高岳から延びる北尾根 (北穂高小屋テラスから撮影)

 

 2019年8月10日午前8時すぎ、涸沢から北穂高岳山頂に向けて登山中、岩場の急登が続く南稜上部のクサリ場で、下山してくる男子高校生グループ数人と鉢合わせになりました。(次の写真)

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上からみたクサリ場

 

 待つ時、谷側によるな

 私の進路は、左手は岩の壁、右手は切れ落ちた斜面。狭い登山道の先には茶色の木の板が、橋のように渡してありました。(次の写真)

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岩場のすれ違い。右下に落ちたくない

 

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木の橋の部分を、上部から下の方をみると、こうなっている

 

 昨年までは、狭い登山道の、登りの左手岩肌に、6段の鉄ハシゴが「登り専用」として使われていたのですが、ことしは「この上、通行禁止」と書かれた板が張られてバツ印が付いていました。(下の写真)

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ハシゴの上の岩が崩れたのだろうか、「通行禁止」に

 

 高校生は4、5人が岩肌にくっついてくれたのですが、1人が谷側に突っ立ったまま。「まずいなあ」と思い、「岩の方に寄ってよ」と促しましたが、その生徒は自分が入るスペースがもうないと考えたのか「ここの方が安全です」と言って動かない。仕方がないと判断し、「腰を落として、絶対動かないでよ」と声を掛けて先に通過させてもらいました。

 こんな時に、私のザックの一部が体に当たりでもしたら、アウトです。緊張しました。

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 下山後、穂高岳山荘の前の支配人、宮田八郎さんの著書「穂高小屋番レスキュー日記」を読んでいると、山岳カメラマン・磯貝猛さんの遭難の話が出てきました。

 

磯貝猛・山岳カメラマンの遭難死

 磯貝さんは20年前、「丹沢を歩く」というタイトルのガイドブックを出したカメラマン。当時、私は丹沢の塔ノ岳に通いつめており、購入しました。

 その磯貝さんが亡くなった場所は、北穂高岳でした。2010年8月29日。55歳でした。

 

 磯貝さんと親交のあった宮田八郎さんは当時、遭難現場に駆けつけた1人で、著書で次のように状況を書いています。

「(涸沢方面から)南稜テント場に差しかかる手前で、右手のガラ場に数人の人影が見えました。息せき切って駆け寄ると(中略)懸命に、横たわるイソちゃんに心臓マッサージを行っていました。すぐに『……代わるわ』と声を掛けて心肺蘇生を交代しましたが、イソちゃんは既に意識はおろか自発呼吸も心肺も停止しており、胸部のポンピングもむなしい手応えしかありませんでした。」

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磯貝さんが転落した現場付近 (写真は、北穂高岳南稜と奥穂高岳への分岐点)

 

 「聞けば、昨夜、北穂高小屋に泊まったイソちゃんは、(中略)ゆっくりと下山を始めたそうです。そして南稜と奥穂への分岐点の直下、谷側の路肩がオンダテの茂みで覆われた地点で、下から登ってきた子供さんを避けようと、ほんの少し谷側によけた瞬間、左足を半歩踏み込んだその茂みの下は空中だったため、バランスを崩して頭から転落。運悪く、そこにあったとがった岩に頭部を打ちつけ、そのまま100㍍近くを転落してしまったということでした。」

「イソちゃんは、一般登山者と比べてはるかにキャリアを積んだ山人でした。そのイソちゃんが、ケアレスミスともいえるほんの些細な不注意で、あっけなくこの世を去ってしまったのです。」

「登山道ですれ違うとき、下る人は谷側によけてはいけません。下る人が山側へよけて、登る人に路肩に注意しながらすれ違ってもらうべきです。下りでバランスを失うと、致命的な結果となるのです。そんなことは、きっとイソちゃんもどこかのコースガイドに書いていたはずなのに。」

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すれ違いは冷静に判断を

 次は、私の体験。2017年10月3日午前。小雨の降る中、重さ20㌔のザックを上高地から背負い、「本谷橋」を過ぎて涸沢に向かっていると、10人以上のツアーが下りてきました。

 先頭のサブリーダー格の人が後続の人たちに、山の方に寄るよう指示したうえで、私に「登り優先ですからどうぞ」。

 気持ちはありがたいが、道幅が狭いうえ平らな岩がなくてゴツゴツしており、「いやだなあ」と思いつつも譲ってくれた以上やむを得ず、傾いてぬれている岩に「エイッ、ヤー」と右足を置きました。すると案の定、ツルッと滑って右の肩から転倒、亀のように仰向けになりました。進行方向右下の樹林に落ちずに済みましたが…。

 

 確かに、山には「登り優先」という暗黙の了解があります。が、登る側に少しでも進路に疑念がわけば、登る側である自分が岩肌(山側)に身を寄せて、下りの人に道を譲るという、クールで柔軟な対応も必要だと考えています。

 

 すれ違いをなめてはいけませんね。

 

穂高小屋番 レスキュー日記

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