上高地バスターミナル。「登山計画書」を入れる箱があります。
目次
登山計画書って何?
登山者が山に登ろうとする時、その山を管轄する都道府県の知事あてに事前に提出するペーパーのことです。
「自分が好きで山に登るんだから、放っておいてちょうだい」「書くのが面倒くさい」なんて、無視する人もいますが、登山計画書の提出を義務付ける動きが自治体の間にあります。金銭的な制裁を科す自治体もあります。遭難が後を絶たず、どの山に登ったのか分からなくて捜索が難しい事例が少なくないことが背景にあります。
書く内容や形式は?
登山計画書に、決まった様式はありません。内容もガチガチに決まっていません。
ただ、最低限必要だと思われる情報は以下の通りです。
●登山者の名前、住所、性別、年齢、携帯電話番号
●山域、山名、期間、詳細な日程、エスケープルート
●装備品の内容
●緊急時の電話連絡先
●山岳保険への加入の有無
●山岳会に所属する場合は名称、連絡先
書いて出す2つの理由
遭難者や留守宅から捜索・救助要請があった時に最初に動くのは、警察です。
救助・捜索に向かう時、事前に計画書が出されていれば、救助を必要とされている人がどういう日程でどこを歩き、どんな装備を持っているかが分かります。持っている装備の内容から、生きている可能性も推測でき、どういう捜索態勢をとるか方針を決めるうえで役立ちます。
もう一つ、登山者自身が登山計画書を書くことによって、日程に無理はないか、装備に問題はないかなど、書きながら自分の頭で確認できる、ということ。
よく登山計画書のポストの横で書いている人を見かけますが、自宅で事前に冷静に考えながら書いた方がいいと思いますよ。
提出の仕方は?
これまでは3つ、方法がありました。現在も有効です。
①紙に書いた登山計画書を登山口のポストに入れる。
②紙に書いた登山計画書を、所管する山岳の警察や自治体に郵送またはファクスで送信する。
③パソコンで作成した登山計画書を、電子メールに添付して送信する。
長野県知事あてに出す場合、県のホームページの「ながの電子申請サービス」というサイトから届出ができます。
ただし問題なのは、登山口ならどこでもポストがあるというわけではありません。
それに、登山ポストから毎日回収されるとは限りません。2度経験しましたが、北アルプスの登山口で、ポストの扉にカギがなく、開けてみると入山の日付が1週間や10日も前の計画書が3、4枚ありました。住所、名前など個人情報が当然のことながら書かれていて、持ち去ることもできました。
「下山通知」も現在は、する仕組みになっていません。
なお、登山計画書の回収は、多くの場合が警察官ではなく、民間の山岳遭難対策協会の方たちがボランティアでしてくれているようです。
インターネットで提出する「コンパス」という方法
「コンパス」は、家庭のパソコンやスマホを使って、「コンパス」のサイトにアクセスし、登山計画書を作って提出するシステムです。
正式名称は、「山と自然ネットワーク・コンパス」。
公益社団法人日本山岳ガイド協会が運営するインターネットを利用した登山計画書提出システムです。
全国のどこの山に登る場合でも、インターネット利用のために届け出の登録窓口が1ヵ所ですみ、救助・捜索エリアが都府県境をまたぐ場合でも、警察や消防が情報を共有しやすくなります。
この「コンパス」には「下山通知システム」というのがあって、下山予定時刻(登山計画書に記載)になっても登山者から「下山通知」のメールがコンパスの管理者に送られてこないと、登山者本人に7時間後に督促メールが届きます。また、緊急連絡先(登山計画書に記載)にも「下山未確認」のメールが届くために、警察への相談など捜索・救助活動への取り組みを早くできます。
長野県や岐阜県、山梨県などはこの「コンパス」(=日本山岳ガイド協会)を「登山計画書の提出先と見なす団体」の1つにするなど連携しています。が、都道府県すべてというわけではありません。
提出しなかった場合はどうなるの?
長野県は「登山安全条例」を定めていて、2016年7月1日から遭難が多発する山域に入る場合に提出を義務付けました。槍・穂高連峰への登山道も当然ここに入っています。ただし、義務に違反しても罰則規定はありません。
岐阜県は2014年7月に「山岳遭難防止条例」を制定して登山届の提出を義務化し、北アルプスの冬山に届け出せずに入山した場合、「5万円以下の過料(あやまちりょう)」を科すことにしました。ただ、この過料というのは“行政上の秩序罰”に分類されるもので、“刑罰”である「罰金」や「科料(かりょう)」とは異なります。
登山計画書の提出は自分と大切な人のためですね。