新型コロナウイルスの感染拡大が世界で止まりません。日本でも重症患者が増えています。こんな時に冬山に出かけて遭難でもしたら、「医療従事者に迷惑をかけるな」と、ば声を浴びるでしょうね。
その“遭難”ですが、
遭難して、警察などに捜索・救助してもらったら
いくら払わなければならないのでしょう。
そもそも遭難というのはどんな形で発生しているんでしょう。調べてみました。
目次
長野県警へり(2008年5月4日、北アルプス涸沢の県警ヘリポートで撮影)
警察や消防の救助隊に助けられて、病院にヘリコプターで運び込まれた時、治療費とは別に、救助隊員にお金を払わなければなりません。
いくら払うのでしょう・・・。
捜索・救助に払うお金はいくらでしょう
その金額を教えてくれるのは・・・
jRO(ジロー)のメルマガ「月刊ジローくん」2020年11月号に、支払い実績例が載りましたので引用します。
このデータをみれば、遭難した人がいくらどういう名目で救助隊員に支払っているかがわかります。
◆jRO(ジロー)というのは、民間の会員制の互助組織です。
年会費2000円のほかに、会員が遭難した場合にかかった捜索や救助の実費を、
550万円を限度に、会員全員で負担(補てん)するシステムです。
遺体の搬送費も対象です。ただし30万円が限度額。
会員が9万1000人(2019年10月現在)もいるために、会員1人当たりのその負担額は、毎年数百円で済んでいます。
一般的な「保険」ではないので、病院での治療費や入院費は出ません。あくまでも捜索や救助にかかった実費に対してのみ、支払う制度です。
12月の支払い事例
▼遭難発生時期: 2017年12月下旬 (単独登山)
▼場所: 北アルプス・燕岳(つばくろだけ)
▼概要: 常念岳から燕岳に向かう途中、吹雪のために予定時間が遅れ、日没後に道に迷う。山小屋「燕山荘(えんざんそう)」に電話したところ、ビバークの指示を受ける。翌朝、少し天候が回復したため行動を開始したが、手足に違和感があり、転んでしまうため救助を要請。燕山荘から従業員ら3人が出動し確保しながら燕山荘に入る。手足に凍傷があり、応急処置。その日は天候が悪く、ヘリは飛べず。さらに翌朝、ヘリでのピックアップは小屋付近の視界が悪くて難しいため、ふもとから歩いて上がってきた救助隊5人が、遭難者を担いで合戦沢のアタマまで下山。そこでヘリでピックアップし、医療機関に収容、入院した。
救助してくれた隊員らに支払う金額
この表のように、この事例では
支払う総額は、87万5659円です。たいへんな額ですよね。
救助隊員には1人当たり、1日2万円の日当を払わなければなりません。夕方5時以降や朝7時前、悪天候や冬山の場合には、1項目1日5000円という「危険手当」、山小屋の従業員の助けを得る場合、営業が忙しい時期は1日5000円上乗せしなければなりません。宿泊費や食費、交通費、保険なども支払う義務があります。
★jRO(ジロー)のような互助会や山岳関係の保険に入っていなければ、これだけの額のお金を自分で負担することになります。
★ヘリコプター民間ヘリの場合は有料ですが、県警ヘリや消防防災ヘリにはお金がかかりません。でも、命がけのへり操縦であり、ヘリのの購入・維持は地元住民の税金でまかなわれていることを忘れてはいけません。
奥穂高岳山頂から見たジャンダルム (2017年8月5日撮影)
jRO(ジロー)が毎年支払う遭難事案の発生件数
例年、40件から50件前後の捜索・救助費用の支払いが発生しています。
最近の典型的な遭難事例
▼2019年7月 八ヶ岳・北横岳 (被害特になし)
高山病になって行動不能。同行者により近くの山小屋に救助要請。
3万5720円の支払い。
▼2019年7月 北海道・トムラウシ山 (死亡)
単独登山。下山中に倒れ近くの登山者が警察に救助要請。搬送先の病院で死亡。急性心筋梗塞。
48万9089円支払い。
単独登山。近くの登山者から「滑落」の通報あり。翌日、稜線付近で死亡しているのを発見。低体温症。
44万1280円支払い。
▼2018年9月 北アルプス・涸沢 (入院)
朝、山小屋「涸沢ヒュッテ」のテラスの階段でバランスを崩して転倒。涸沢から100㍍下山したところで行動不能に。近くの登山者が涸沢ヒュッテに救助要請。(常駐の)救助隊員と合流後、ヘリでピックアップ。尾てい骨2カ所骨折。
8万4434円支払い。
北穂高岳から下山中、右足でつまずき、左足で踏ん張ったが、踏ん張り切れずにそのまま50メートル下に滑落。体を強く打って死亡。
51万9588円支払い。
山の遭難はどうして起こるのか
遭難原因の全国トップは道迷い
北アルプス・涸沢の長野県警ヘリポート (2019年8月9日撮影)
登山に遭難はつきもの。
警察庁の統計数字をみます。
「令和元年(2019年)における山岳遭難の概況」(警察庁生活安全局生活安全企画課)によりますと、
2019年の山岳遭難発生件数は、2531件。
遭難した人は2937人。
このうち死者・行方不明者は299人で、遭難者のおよそ1割です。
遭難原因は、
全国集計では「道迷い」が最多で1142人(38.9%)。約4割ですね。
次が「滑落・転落」の573人(19.5%)、
そして「転倒」492人(16.8%)の順。
発生場所を都道府県別でみると、
最多が長野県で265件、次いで北海道202件、山梨県165件と続きます。
長野は冬山・雪山での滑落 その先にある死
全国で遭難が一番たくさん発生する長野県の統計数字をみます。
「令和元年中 山岳遭難統計」(長野県警察本部山岳安全対策課・長野県山岳遭難防止対策協会)によりますと、
長野県内の2019年(令和元年)の遭難者数は、290人(前年330人)。
死者は20人。前年の52人に比べて大幅に減りました。
ほかに行方不明者が7人(前年は5人)います。
死者・行方不明27人という数は、山梨県の31人に次いで多い人数です。
遭難の原因は、長野県に限ってみると、遭難者290人のうち「滑落・転落」が87人(30%)を占めて最多となっています。その次が「転倒」の68人(23%)。
全国平均で遭難原因のトップを飾る「道迷い」は、長野県では57人(20%)。57人のうち1人は行方不明ですが56人は無事救助されています。
長野県の死者20人の分析
深刻な「死者20人」について少し詳しくみます。
年齢構成
死者20人の年齢構成は、
20歳代 2人
30歳代 2人
40歳代 6人
50歳代 4人
60歳代 1人
70歳以上 5人
原因別
原因別では、20人のうち、
滑落・転落 9人:2月滑落(47歳)、2月滑落(44歳)、2月滑落(59歳)、3月滑落(48歳)、4月滑落(70歳)、5月滑落(46歳)、
6月山菜採りで滑落(75歳)、
8月前穂高岳東壁を岩登り中、支点が崩壊して転落(41歳)、12月滑落(39歳)
転倒 1人:1月バックカントリースキー(27歳)
低体温症 2人:4月(55歳)、4月(57歳)
病気 2人:8月赤岳に登山中、発病(71歳)、
9月キノコ採りのため入山中、何らかの疾患を発症(54歳)
雪崩 1人:2月(28歳)
不明 4人:7月(38歳)、8月(42歳)、9月(61歳)、
9月キノコ採りのため入山中、行動不能に(92歳)
その他 1人:8月増水した沢を通過中、流された(71歳)
シーズン別
シーズン別に見ますと、
【冬山(12月~3月)】 7人
【春山(4月~6月)】 5人
【夏山(7月~8月)】 5人
【秋山(9月~11月)】 3人
信州では、死者20人のうち6割(12人)が、冬山や残雪期の春山で命を落としています。
雪面でのスリップ、雪崩、風雪による低体温症は、死に直結します。体力と技術のみならず、「覚悟」が必要でしょうね。
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