雪山・荘厳な世界~①美しさと厳しさ

f:id:alps6717:20190518165057j:plain

5月  奥穂高岳山頂からジャンダルムへのルート

 

 冬山(雪山)の美しさ

光岳での体験

 

 あの時、目の前で、一瞬のうちに全体に広がった光の神々しさは、今でも強烈な印象として残っています。

 2002年1月1日未明、私たち社会人山岳会の4人パーティーは、南アルプス・光岳(てかりだけ)近くの標高2230㍍地点で張っていたテントをたたんで下山を始めました。気温は氷点下9度。薄い雲に隠れた満月は少しぼやけて見えました。ヘッドランプに照らし出された雪面はキラキラ輝き、木々の枝に覆いかぶさっていた雪も、結晶がキラリと光っていました。

 午前7時15分。遠くの雲が少しオレンジ色になったな、と思った瞬間でした。薄暗かった低い樹林が、一瞬にして明るい光の波に襲われました。眼の覚めるような、自然のつくりだす営みに感動を覚えました。

 

 北アルプスの3000㍍級の山々は、11月も中旬を過ぎると、白一色の銀世界になります。岩や土は氷の下に埋もれ、姿は見えません。聞こえるのは、自分のはいた重登山靴のアイゼンが、氷に食い込む時のガリッという摩擦音のみです。キーンと空気が張り詰め、静まり返った厳かな世界に身を置くと、心が洗われます。

 

 

冬山(雪山)の厳しさ

トレースが消えた!

 

 12月以降の冬山を縦走する時に、「怖い」と思うのは、トレース(踏み跡)が消えてしまうことです。ほんの少し前まで自分がいた場所が、分からなくなってしまうんです。

 2001年の年末から2002年1月にかけての光岳でもそうでしたが、登頂を目指して前進するものの、横殴りの雪と視界が10㍍程度という悪天候のために、来たルートを安全と思われる場所まで戻ろうとしたものの、自分たちが雪の上に残してきた靴跡が消えているんです。吹雪でアッという間に消されてしまうんです。遭難の一歩手前ですね。

 こうした危険な事態を避けるために、きちんとしたパーティーは、山頂まで往復する場合、赤布や旗竿(はたざお)を携行しており、樹林帯では木の枝に赤い布を一定間隔で縛りつけながら進むのです。森林限界(およそ本州中部では2500㍍)より標高が高いところでは、2㍍ほどの長さの竹竿の先に赤布を付け、雪面に突き刺しながら進みます。

 

怖いのは、風

  冬の稜線の風は、すさまじいばかりです。台風並みの毎秒17㍍以上ということもあります。吹っ飛ばされて、転倒、滑落に要注意というところです。

 これも別の年の年末年始の南アルプスでの話ですが、易老岳から聖岳を目指したものの、樹林帯を出たところで強風に歓迎され、稜線を真っ直ぐ歩けませんでした。なんとか茶臼岳(標高2604㍍)まで進みましたが、身の危険を感じ、山頂で証拠写真を撮ってあたふたと下山しました。

 

降雪も怖い

  社会人山岳会の年末年始の恒例の冬合宿ということで、3人パーティーで中房温泉から北アルプス・燕岳(つばくろだけ)まで進んだときのことです。

 山小屋・燕山荘前にテントを張ったのですが、夜中に隣のテントあたりで女性の悲鳴のような驚きの声。続いてスコップの音を聞きながらも寝込んでしまいました。

 「こりゃ大変だ」という仲間の声で目が覚め、ヘッドランプを付けますと、テントが相当圧迫されている気配。テントの入口のチャックを少し開けると、テントの最上部まで雪が積もっていました。テント内はとても狭くなり、コンロを付けるスペースもありません。押しつぶされる恐怖感から、脱出して山小屋に避難することに決めました。

 テントの撤収にかかりましたが、テントのスソは降り積もった70㌢ほどの雪に埋もれており、掘り出しているうちにテントポールを2、3ヶ所折損。さらにテントを引っ張りあげた際に底が破れてしまいました。

 当初予定していた大天井岳(おてんしょうだけ)までの縦走も不可能になり、落ち込んだ気分で山を下りました。

 

夏山との違い

 冬山登山は夏山登山とは大きな違いがあります。

 ①気圧配置が西高東低の冬型で風が強い②気温が低い③日照時間が短い④営業している山小屋が少ない⑤登山者が少ない⑥テント泊の場合は装備が重くなる――などです。

 同じルートでも、天候によっては吹雪によって視界がゼロ(ホワイトアウト)になり、方向感覚を失うことがあります。また、積雪による雪崩の心配もあります。さらに、降雪で路面が凍り、滑って転んだり、がけ下に落ちることもあります。

 汗を大量にかいて、体が冷えてしまえば、低体温症に陥ることもあります。

 

   求められるもの

 

 

  こうしたことから、12月から3月までの冬山、4月から5月までの雪山に登るのに必要なことは何でしょうか。

 

  思うに、1にも2にも体力。そして、生きて帰るんだという強い精神力。さらに、ピッケル、アイゼンをきちんと使える歩行技術。冬山・雪山の稜線では転倒したら終わり、という場所が少なくありません。転ばない技術の習得が大事です。ホワイトアウトの時には、地図とコンパスと高度計を駆使して現在地を確認する「読図」もできるようにしておきたいものです