装備~②無事に帰るための道具

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命を守る装備……夏の沢登り(奥秩父・笛吹川東沢・釜ノ沢東俣)

 ★携帯電話・行動食・水筒・救急医薬品

 

①■携帯電話■

 救助要請に欠かせない装備

  山で死んではいけない。ケガをしても人さまに迷惑をかけずに自力で下山するのが当たり前ですが、このままでは帰れない、もうだめかも、と判断すれば、警察に救助を求めることになります。ひと昔前は、アマチュア無線4級の免許を取得し、無線機を持って山に入りましたが、いまはそんな人をみることもほとんどなく、携帯電話が無線機に代わっています。

 警察庁がまとめた「平成29年(2017年)における山岳遭難の概況」によりますと、全国での遭難発生件数2583件のうち2003件(77.5%)が遭難現場から「携帯電話」で救助を要請、アマチュア無線の利用はわずか12件(0.5%)、残り580件(22.5%)は通信機器不使用でした。携帯電話が救助にいかに役立っているかがわかります。

 

携帯電話の仕組み

 しかし、山に入ると、携帯電話がつながらないところが多いです。北アルプス・穂高連峰の登山基地、涸沢でもほとんど通じません。

 ただ、山小屋・涸沢ヒュッテのテラスでは、携帯電話が時々通じますが、アンテナが3本立っていても通じないことがあります。また、涸沢ヒュッテと涸沢小屋の中間地点のテント場でも通じる場所がありますが、ここでいつも通じるわけではありません。

 どうなっているんでしょうか……。

 携帯電話を使って相手と会話する時は、アマチュア無線機のように相手と直接通信するのではありません。携帯電話が発した電波は、近くにある「無線基地局」というアンテナ付きの通信装置に届くのです。ここから先は、その基地局から別の基地局へ光ファイバーなどの有線ケーブルで次から次へと情報がバトンタッチされて伝わり、通話相手の近くにある基地局にやっとたどり着きます。そこから再び無線の電波となって相手の携帯電話に届き、会話ができる、という仕組みです。

 つまり自分の携帯も相手の携帯も、それぞれ近くにある基地局までの間だけ無線が使われ、それ以外の部分は有線ケーブルでつながっているわけです。ですから、近くの基地局に携帯電話が発した電波が届くことが先決です。

 ところが、「電波」には直進する性格がありますが、木やガラスはそのまま通り抜けるものの、建物など金属を使った構築物や水滴や氷から成る雲にぶつかると、反射したり、その障害物の縁に沿って裏側に回り込む性質があります。

 また、電波の強さは、携帯電話と基地局とでは異なり、携帯電話は基地局ほど出力の大きな電波を出すことはできません。1つの基地局からの電波が届く範囲は、狭いものでは半径数十㍍、広いものでも半径数㌔程度で、その範囲内でしか携帯電話と通話できません。

 さらに、電波は遠く離れるほど弱くなるという性質があります。

 

 携帯電話会社の努力

  NTTドコモなど携帯各社は、登山人口の増加に配慮して、このところ登山道でも携帯がつながるよう基地局の設置に務めているようです。例えばNTTドコモは、ふもとの基地局の鉄塔に登山道対策専用のアンテナを取り付け、住宅地方向のみならず、山頂に向けて電波を発射する取り組みをしているようです。また、登山シーズン限定で、山小屋の屋根や周辺の小さな空間を利用して柱を立て、小型の基地局を設ける努力もしています。

 NTTドコモは2013年ごろから北アルプス・常念岳の肩にある常念小屋の横に、4月下旬から11月上旬までの期間限定で基地局を開設しています。常念岳、槍ヶ岳、北穂高岳、奥穂高岳の各山頂や涸沢で電波を受信できるのは、常念小屋をはじめとした、期間限定の基地局のおかげではないでしょうか。

 

 課題は電池

   携帯電話は電源が入っている限り、近くの基地局をさがして電波を発信し続けます。基地局から離れた位置にあるほど、基地局に向けて送信する電力量が多く、電池の消耗が進みます。「圏外」表示になると消耗が進みます。このため予備の電池を複数携行することが、遭難対策として望ましいと思います。

 特に気温が低いと電池の消耗が激しいです。冷える冬は予備の電池をザックに入れたままにしておくのではなく、ズボンのポケットに入れて肌に密着させて持ち歩くことをおすすめします。

 予備の電池があり、そして集落が見える位置まで登ることができれば、電波が飛んで命が助かる確率が高まります。

 

②■行動食■

シャリバテを防ぐ食品

 行動食は文字通り、行動中にとる軽食のことです。多くの栄養士や医師、登山家がすすめる食品は、あんぱん、おにぎり、チョコレート、アーモンド、チューブ入りのコンデンスミルクなどが代表的です。

 あんぱんは、すぐにエネルギーになる糖分と、ゆっくりエネルギーに変わるでん粉を備えており、行動食に最適です。チョコレートは糖質と脂質を兼ね備えており、非常食にも代用できます。

 登山中にエネルギーが切れるシャリバテになる前に、こまめにこれらを補給することが大切です。

 

エネルギーを使う登山

  登山でどのくらいのエネルギーを使うかといいますと、鹿屋体育大学の山本正嘉教授によると、次の計算式から推定できます。

行動中のエネルギー消費量(キロカロリー)=体重(㌔)×行動時間(h)×5

 

 例えば、体重60㌔の人が6時間の登山をしたとすると、

60㌔×6時間×5=1800キロカロリー

 と計算できます。山を2時間も登り続ければ、エネルギーを消費し、糖質が枯渇します。エネルギー不足になると、頭がボーッとしてあくびが出て、脚が前に出なくなります。何回か自分でも経験しましたが……。

 こんな状態でエネルギーを補充しないと、注意力や判断力の低下によって転倒・滑落を起こし、遭難です。ですから、そうなる前にこまめに行動食を1時間ごとにとる必要があります。合わせて熱中症予防のために、水分とナトリウムなど電解質を30分ごとに飲んで、体を脱水状態にしないことです。

 なお、カロリーとは、エネルギーの単位で、1リットルの水の温度を1度C上げるために必要なエネルギーが、1キロカロリーです。

 

 エネルギーは、人間が一定の体温を維持し、かつ筋肉を動かし、頭を働かせるために必要なものです。人間は食事によって糖質、脂質、タンパク質を体内に取り込み、エネルギーをつくり出して生きています。糖質は炭水化物から食物繊維を除いたものです。

 体内では、まず食事で得た糖質が小腸で吸収され、血流に乗って肝臓や筋に運ばれます。この糖質が優先的にエネルギーになり、糖質がなくなってから脂質、さらにタンパク質の燃焼が始まります。

 

 

 ③■水筒(水)■

 大切な水分補給

  「ナルゲンボトル」という米国製のポリエステル樹脂を原料にした水筒を、山でよく見かけるようになりました。マイナス20度から100度の高温にまで耐えられるという丈夫なつくりや、口が広くて飲物を注ぎやすいということが人気のようです。キャップと本体がループでつながれており、キャップを失うこともない。

 また、「プラティパス」はポリエチレン製の水筒で、水を入れなければ丸めたり、たたむことができる人気の品です。何よりも、水を入れないときにかさばらないことがメリットでしょう。2リットル入るボトルは、テント泊には料理用の水を運んだり、飲み水を入れるのに好都合です。私も愛用しています。

 ただ、水漏れのトラブルを指摘する声もあります。水場で水をタップリ入れ、狭い口元をつまみあげてテントまで繰り返し運んでいたせいか、口元近くの肩の部分にすき間ができ、水漏れが生じたことが私にも2度ありました。

 私が20年前から愛用しているのがスイス・SIGG社製の水筒。アルミニウム製のため軽く、しかも本体には継ぎ目がないため丈夫。スクリュー式のキャップを左に回して取り外し、直接ボトルに口を付けて飲むタイプ。ただ、水筒の口の部分の直径が3センチ弱と狭いことから、失敗談も。氷点下の雪の八ヶ岳・横岳を縦走していた時、水を飲もうとしたものの、満タンの水筒の口の部分が凍っており、水分を取れませんでした。以後、ウイスキー専用の容器にしています。

 

 

④ ■救急医薬品■

 自力で応急処置を

  ビニル袋などで防水した上で、すぐに取り出でるように、できればザックの天ぶたに入れることが望ましい。中身は、ガーゼ、包帯、消毒液、三角巾、リバテープ、胃腸薬、鎮痛剤、持病薬など。

  

 

⑤■その他(無雪期の場合)■

ヘッドランプ

思いがけないトラブルで下山が遅れ、日没になることもあります。遭難時に、ライトを照らして自分の居場所を知らせることができます。頭に付けて両手はフリーに。予備電池を忘れないように。

 

レスキューシート

サバイバルシートともエマージェンシーシートとも呼ばれる薄いシート。緊急時の防風、防寒、防水対策用。

 

高度計・地形図・コンパス

高度計は、海水面からの高度を計る道具。縮尺が2万5000分の1の地形図とコンパス(磁石)に照らし合わせると、大筋の現在地が分かります。腕時計タイプの高度計が便利でおすすめ。2万5000分の1の地形図は、等高線が10m刻みで引かれており、尾根か谷かが判別しやすいです。

地形図上の「1cm」は、実際の距離は25000cm=250m。

つまり「4cmが1キロ」と覚えると便利です。

 

ストック

私は脚力を鍛えるため、トレーニング山行では使いません。しかし、20㌔のザックを背負う時には1本のみ携行し、下山時に膝にかかる負担を軽くするために時々使っています。

 

ヘルメット

北穂高岳や奥穂高岳では登山道での落石が多く、警察などはヘルメットの着用を推奨しています。実際、ほとんどの着用者が着用しています。特に、北穂高岳では、岩場を三点支持で登る時に、岩カドで頭を打ちやすい場所が何ヵ所かあります。

 

財布

汗でズボンがぬれるため、札をビニル袋に入れて財布代わりにしています。

 

ツエルト

使いたくありませんが、非常時用に必要です。

 

遭難時の必需品。

◎ナイフ

◎マッチ・ライター・ろうそく・メタ

◎帽子

◎手袋

◎持病薬

 

健康保険証

コピーを携行すればよい、と書いているネット上の山行記録が多いのですが、難色を示す医療機関もあるようです。私は実物を携行しています。

 

◎サングラス・日焼け止め

下着

メリノウールがおすすめです。汗臭さを隠してくれるうえ、汗で体がぬれても寒さをあまり感じません。