日本記者クラブで会見に臨む、共産党を「除名」されたばかりの松竹伸幸さん(2月6日午後2時、撮影)
共産党のトップの委員長は、すべての党員が投票して選ぶ「党首公選制」に改めるべきだ、と著書で訴えた「現役党員」が2月6日付で、党から除名処分を受けました。
京都にある出版社「かもがわ出版」の編集主幹、松竹伸幸さん(68)。学生時代には全学連委員長、その後も共産党政策委員会安保外交部長まで務めた方です。
除名の理由は「共産党攻撃のための分派活動をし、突然、党の規約および綱領への攻撃を開始した」とされています。
「攻撃」だとか「分派活動」とか、すごい表現ですね。目が丸くなっちゃいましたよ。
松竹伸幸さんは1月下旬に、「シン・日本共産党宣言~~ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由~~」(文春新書)を出版しました。
共産党の党首である委員長は現在、2年から3年に一度開かれる党大会で選ばれる約200人の「中央委員」が決めますが、これを全党員の投票で選ぶように改めようという提案。
党首公選制を導入して国民の目の前で野党共闘の障害になっている安保・防衛政策を議論すれば、政権交代が現実のものになる――という考えのようです。
共産党の規約を見ますと、規律違反と認定された党員の処分は、警告、権利停止、機関からの罷免、除名の4種類ありまして、「除名」は一番重い処分なんですね。
いったい、なにがいけないんでしょう・・・
特異な❝政治事件❞ですので、「処分理由」と「松竹さんの記者会見での言い分」を記録しておきます。
目次
共産党が「除名」処分とした理由
共産党の小池晃書記局長は2月6日に国会内で記者会見した際、松竹さんを除名処分にした理由を書いた文書を、マスコミ各社に配布し、公表しました。
「しんぶん赤旗・電子版」(2月7日付)から「全文」を引用します。(注:下線や太字・赤字は筆者の判断です)
松竹伸幸氏の除名処分について
日本共産党京都南地区委員会常任委員会は、2023年2月5日、松竹伸幸氏の除名処分を決定し、京都府委員会常任委員会が2月6日に承認し、除名処分が確定しました。
なお、松竹伸幸氏の所属党組織は南地区委員会の職場支部ですが、松竹伸幸氏がすでに全国メディアや記者会見などで公然と党攻撃をおこなっているという「特別な事情」にかんがみ、当該職場支部委員会の同意のもと、党規約第50条にもとづき、南地区委員会常任委員会として決定したものです。除名処分の理由は以下のとおりです。
(参考)党規約第50条
(1)松竹伸幸氏は、1月に出版した本のなかなどで、「党首公選制」を実施すべきと主張するとともに、党規約にもとづく党首選出方法や党運営について、「党内に存在する異論を可視化するようになっていない」、「国民の目から見ると、共産党は異論のない(あるいはそれを許さない)政党だとみなされる」などとのべています。「党首公選制」という主張は、「党内に派閥・分派はつくらない」という民主集中制の組織原則と相いれないものですが、松竹伸幸氏が、この主張と一体に、わが党規約が「異論を許さない」ものであるかのように、事実をゆがめて攻撃していることは重大です。
(参考:党規約第3条)
(2)松竹伸幸氏は、1月に出版した本のなかなどで、「核抑止抜きの専守防衛」なるものを唱え、「安保条約堅持」と自衛隊合憲を党の「基本政策」にせよと迫るとともに、日米安保条約の廃棄、自衛隊の段階的解消の方針など、党綱領と、綱領にもとづく党の安保・自衛隊政策に対して「野党共闘の障害になっている」「あまりにご都合主義」などと攻撃をおこなっています。
(3)松竹伸幸氏は、『週刊文春』1月26日号において、わが党に対して「およそ近代政党とは言い難い『個人独裁』的党運営」などとする攻撃を書き連ねた鈴木元氏の本(1月発行)を、「『同じ時期に出た方が話題になりますよ』と言って、鈴木氏に無理をして早めに書き上げていただいた」と出版を急がせたことを認めています。松竹伸幸氏はわが党の聞き取りに対して、この本の「中身は知っていた」と認めました。この行為は、党攻撃のための分派活動といわなければなりません。
(4)わが党の聞き取りのなかで、松竹伸幸氏は、自身の主張を、党内で、中央委員会などに対して一度として主張したことはないことを指摘されて、「それは事実です」と認めました。わが党規約は、中央委員会にいたるどの機関に対しても、自由に意見を述べる権利を保障しています。異論があればそれを保留する権利も保障しています。しかし、松竹伸幸氏は、そうした規約に保障された権利を行使することなく、突然の党規約およびに対する攻撃を開始したのです。
松竹氏の一連の発言および行動は、党規約の「党内に派閥・分派はつくらない」(第3条4項)、「党の統一と団結に努力し、党に敵対する行為は行わない」(第5条2項)、「党の決定に反する意見を、勝手に発表っすることはしない」(第5条5項)という規定を踏みにじる重大な規律違反です。
以上の理由から、松竹伸幸氏を除名処分とするものです。
記者会見した松竹さんの発言(要旨)
松竹さんは2月6日、東京都千代田区の日本記者クラブに招かれ、午後2時から会見しました。「著者と語る」というタイトルで行っている日本記者クラブのシリーズものの一環で招かれた松竹さんでしたが、前日に除名処分が地区委員会から通告されただけに、除名問題に質疑が集中しました。
以下、松竹さんの発言要旨です。
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◆経過
昨日、地区委員会から除名処分の決定を受けたことを踏まえて話したい。
私は共産党のことを批判したくてこの本を書いたのでは全然ないんですね。日本の政治を変えるためには、共産党の存在が必要だという思いがあるんです。
そう思ったのは、2021年10月の総選挙の結果ですけども。これを何とかしないと共産党もズルズルと後退していくだろうし、自民党に対抗する野党を強くしていくことにもならない。自分として何かしなければと思った。
その時思ったのは、野党の中では安保・自衛隊問題が野党協力の障害になっていることがはっきりしているんですね。
共産党に日本の政治をよくするために役割を果たしてほしいという思いで書いたにもかかわらず、1月19日出版して記者会見した翌々日(1月21日)に、赤旗論文が出た。
◆処分理由
1月25日に(京都南)地区委員長から電話があって、2月2日に調査が1時間15分間あって、2月5日に除名処分の決定があった。本日6日に、京都府委員会が承認して確定することになります。
地区委員会の調査の時、ビックリしたのは、「あなたは分派活動をしている」ということを言われた。その理由は何かというと、この本を出して、党員に対して同調を呼び掛けている、と。それ自体が分派活動だと。それを聞いた時は、唖然といたしましたけれども。
分派というのは、党に隠れて何らかの主義主張を同じくするグループをつくって、連絡を取り合ってというのが常識的な「分派」の定義だと思いますが。
私は本を出して、党員にも読んで欲しいと思った、その行為自体が分派だ、って言われて。それだったら憲法の言論、表現の自由は共産党員には全くないにも等しい。残念なことでした。
◆「分派活動」での除名という特異性
共産党の歴史の中で、最大の「分派」は、1970年代初めに、「新日和見主義分派」と言われている人たちが青年・学生運動のなかに現れて、党員100人前後が処分されたといわれています。その首謀者とされた川上徹さんでも、規約上の処分では下から2番目の「権利停止1ヵ月」ということでしたが、私に対しては除名という最高の処分が下された。
また、1986年のことですが、分派活動で除名されたのは、東大の伊里一智(イリイチ)さん。これはペンネームですが、イリイチが東大の党組織の中で、党中央委員会議長の宮本顕治さんが退陣しないと共産党の前進はない、と東大の中で多数派をつくったということで除名されました。
◆私(=松竹さん)の見解と今後の対応
私自身の見解ですが、分派の実質がないのにやるのは、(処分するための)こじつけに過ぎない。
出版が分派活動として処分されるなら、憲法の言論・表現の自由は死にますし、そんなことを進める共産党だって、滅びかねないのであって、この本で訴えたかったのは、やっぱり共産党がもっと開放的になって、透明性を持った党になって、安保・自衛隊問題も国民の前で堂々と議論するようになって、しかし、そういうことが処分されるのではなくて、ふつうにやられていくような党にならなければならないという点では、今回の処分は、党の現状をさらに深刻にさせるものです。
私としては今後、処分の撤回を求めて規約上の権利を行使したい。中央委員会と党大会に再審査を求めたい。共産党は来年1月に党大会を開くことを決めていますから。
(参考:党規約第55条)
◆「党首公選」について
残りの説明は駆け足で・・・
「党首公選」を、共産党としてどうみるかは、これまでの歴史の中で党大会でも中央委員会でも判断が示されていません。だから、少なくとも、決定に反する意見を私が述べているものではない。
昨年(8月23日)、「赤旗」に党首公選を否定する論文が(党建設委員会名で)出されましたが、あの論文は規約第3条にいう民主的な議論の結果、出されたものではない。ある日、突然、「赤旗」に出されたものです。
この本を27万人の党員のほとんどに買っていただき、来年の党大会に向けて一緒に頑張ろうと呼び掛けていきたいと思います。
◆記者会見での主な質疑
【質問】
党中央委員会など「党の機関」で自分の意見を述べることをしなかった理由はなんですか?
【説明】
「党首公選」の問題は、党内での手続きはとっておりません。悩んだことは事実でありますが、少なくとも党の決定に反する意見だとはみなさなかった。
それよりも、党の決定にも議論にもなっていないことを、党建設委員会という、普通の人が聞いたこともないような名前で突如として出された、そういうものはよくない。
党内でそれはおかしいねって言えばよかった、という立場があることは、私は理解します。私のやり方が100%で、そっちのやり方がゼロというふうに考えているわけではありませんけれども、自分としては一番、この訴えを党内で議論していくためには、自分のやりかたがベターだと判断したということです。
【質問】
規約第3条で、「民主集中制」を党の組織原則としていることについて、どう考えていますか?
【説明】
私はこの本の中で、民主集中制自体がおかしいみたいなことは書いていない。
だからいろんな方が書評するときに、「なんだ、松竹は民主集中制を批判していないじゃないか、不十分だ」と批判する方がいることは承知しています。
そういう点では、政治的な対応をしている面もあります。要するに共産党の中では、「民主集中制を変えるべきだ」と言っただけで、「もうお前は共産党の外に出ろよ」という話になるわけです。
私が考えたのは、党首公選という問題に限って党の運営を今の運営と違うやり方でやることによって、もっと組織の在り方の問題として、もっと踏み込んだ論議が次の段階でできるんじゃないかと考えました。
感想
共産党は組織の原則に、「民主集中制」をとり入れています。党内部の規律です。その内容と党員の義務は――党の意思決定は議論を尽くして最終的には多数決で決め、決定したことはみんなでその実行に当たる。そして党内に派閥・分派はつくってはいけない。党の統一と団結に努力し、敵対する行為はしない。党の決定に反する意見を勝手に発表することはしない。党の内部問題は党内で解決する――といったことです。
この内部規律に違反したと党中央にみなされると、処分されるんですね。
松竹さんは、党首公選の実施を求める意見書を党の機関に提出したところで、却下されたうえ封印されることは火を見るよりも明らかと見通して、一般党員の目に触れるように「出版」に踏み切ったようです。
今回の一件で、この党が持っている体質の一端を垣間見てしまったフツーの人は、「なんとも窮屈な組織で、外に向かって自由にモノは言えないんだね」なんて思うでしょうね。
4月には統一地方選があります。この東京でも共産党の宣伝カーがいま、住宅街を走って支持を訴えていますが、この一件の影響があるのかどうか・・・。
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