北穂高岳で味わう至福のひと時

標高3000㍍の北アルプスに登っていたころの記録、国内外の旅行、反戦平和への思いなどを備忘録として載せています。

脱北家族のハードな旅を映像で描くドキュメンタリー映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』が1月から上映開始

 韓国への「脱北(だっぽく)」を試みる5人家族が、韓国人牧師の協力でタイまで脱出する過酷な旅の実態を映像で描いたドキュメンタリー映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』が、2024年1月から全国で公開されます。

 

 それに先立って東京都内で開かれた試写会に出席、主人公の韓国人牧師本人の話も聞くことができました。

 「脱北」について学んだことを書き留めておきます。

 

もくじ

 

 

初耳でビックリしたこと――

 「脱北」とか「脱北者」という単語は、北朝鮮がらみの話で時々耳にします。でも、「脱北」には「ブローカー」という謝礼金目的の、主に中国人の仲介業者が介在しているとは知りませんでした。

 

 また、比較的安全な脱北ルートというのがあって、それが「中国~ベトナムラオス~タイ」経由で韓国に行くんだ、ということも知りました。

 

 

映画の中心人物は韓国人牧師

 この映画は米国で製作されましたが、主人公は韓国で脱北者の手助けをしているキム・ソンウン(金成恩)牧師(=写真)

 これまでに1000人以上の脱北を支援してきたという人物です。

 

 脱北のシーンが具体的に映し出された例は、これまであまりありません。

 映像は、「中国」国内ではキム牧師と付き合いのあるブローカーや国境沿いの農家でつくるネットワークが「スマートフォン」で撮影。「ベトナム」と「ラオス」では映画の撮影クルーが脱北途中の5人家族に合流し、高画質のカメラでようすを撮影。ジャングルのシーンでは、より頑丈なビデオカメラで撮ったとのことです。

あらすじ

 この映画の話の中心になっているのは、「地上の楽園」であるはずの北朝鮮からの脱出を決意した、2人の幼い子どもと80代の女性を含む「5人家族です。

 

 一家は親戚が脱北したために警察から目を付けられ、やがて自分たちの身が危うくなると判断。中国との国境を流れる川を渡って「中国」に入ったものの、山間部をさまようばかりで自分たちがどこにいるのか分からない。

 しかし、出会った中国人のブローカーが、中国製の携帯電話で韓国にいるキム牧師に連絡してくれ、牧師の指導の下、現地のブローカーや農家の協力でで「ベトナム」に向かいます。

 一家はベトナムでキム牧師と合流。お金で雇ったブローカーの案内で深夜、険しい山中を何時間も移動し、ジャングルの道なき道を進みます。

 疲労困ぱいの末、「ラオス」に密かに入国。ブローカーのネットワークによって提供された隠れ家に数日潜伏。タイミングを計ってブローカーの手引きで人目につきにくい深夜、ボートに乗ってメコン川を渡り、対岸の「タイ」にたどり着きます。

 

 タイでは、不法入国で警察に捕まれば送還先は「北朝鮮」ではなく、亡命を希望している「韓国」になるため安心です。

 ここまでの移動距離は1万2000キロになりました。

 

「脱北」には「ブローカー」が介在する

 脱北に協力する「ブローカー」は、脱北者北朝鮮から中国に入った時点で接触し、アジトに連れて行き、時期をみて車や鉄道、バス利用でベトナムとの国境に向かい、東南アジアに入るといいます。

 

 「ブローカー」はほとんど中国人ですが、脱北を手助けしてくれる信頼できる人ばかりではないようです。

 人身売買が目的の悪質なブローカーがいるというのですから、これも驚きです。

 悪質なブローカーは、脱北しようとする若い女性を農村の中国人に売って「嫁」にさせるケースや、売春業者に売り渡して業者からカネを得ることもある、という話です。

 

 

若い「脱北」女性は人身売買の対象に

 この映画の中で、キム牧師は「ブローカー」について、少しだけ次のように語っています。

「ブローカーにとって、この家族は人身売買する価値がない。老婆は性を売買する対象にならないし、5人をまとめて引き取る買い手はいない。」と。

 

 

 「試写会」終了後の質疑応答で、キム牧師(=上の写真。東京都千代田区の日本記者クラブで撮影)は次のように話しました。

 

 「15日前(=12月初め)に3人の脱北者を韓国に連れて行って、その足で今回、日本に来ました。そのうちの1人の17歳の女性は、中国で人身売買の対象になって売られていました。

 「また、最近知ったある中国のブローカーは、北朝鮮の女性を5人面倒みて、どんどん子どもを産ませて、その子どもを人身売買で売り飛ばしてもうける、と。そういう状況の中国から、なんとか救ってくださいというSOSが来た時に、私は牧師として知らんぷりはできないということですね。」

 

 

 会場の参加者から「映画の宣伝パンフには『50人以上のブローカーが協力した』とありますが、だれがお金を出したのか、原資は何ですか?」という質問が出ると、次のように答えました。

 

 「ふつうは、ある脱北者のグループを中国から最終目的地のタイまで連れて行く時に、間に入るブローカーはだいたい15人から16人ぐらいです。今回は映画の撮影なので、経費が3倍も4倍もかかりました。なぜなら車を雇う場合もふつうは1台で行けるのに、前に中国の公安がいないかと思ってもう1台雇って、後ろからついてこないかと、もう1台雇って、3倍カネかかったのですね。大金を渡してしまうとブローカーは味を占めて、その次からはその金額、もしくはそれ以上の金額を要求します。私は個人として莫大な資金はないわけですから、牧師として教会を通じて後援をお願いして、集まったお金を使ってやっています。」

 

 

1人の脱北にかかる費用は「200万円以上」

 「コロナ禍」以降は脱北者が減ったというが、現状はどうですか――という質問に、牧師はこう答えました。

 

 「北朝鮮当局は、中国から新型コロナウイルスが入るのを恐れて国境のバリケードを二重にし電気を通して封鎖しているので、いまは脱北が難しくなりました。」

 

 「中国はいま、脱北者だけの取り締まりではなく、スパイ行為を取り締まるため、改正した『反スパイ法』を7月から施行して取り締まりを強化しました。監視体制が強まり、中国の警察に捕まるリスクが高まったためにブローカーに支払う費用もどんどん上がってしまい、たいへんです。コロナの時にたった1人だけ救援した時にかかった費用は、韓国のウォンで300万ウォン(約32万円)ですが、いま2000万ウォン(約220万円)。ものすごく値上がりしています。

 

 

安全な脱北ルートは中国~ベトナムラオス~タイ~韓国

 脱北のルートは、大半の場合が「中国」経由だそうです。

 北朝鮮と中国との国境線上には、鴨緑江(おうりょくこう)と豆満江(とまんこう)という川が流れています。

 脱北者の多くは、水深が比較的浅く川幅も狭い豆満江を渡って脱北するそうです。

 

 上の写真は、北朝鮮と韓国の「軍事境界線」上の板門店

 南北の軍事境界線。(いずれも1997年12月3日、韓国側から撮影)

 

 韓国を目指して「脱北」するには、朝鮮半島軍事境界線突破が最短ですが、高圧電線や地雷原があるため、ここを通る脱北者はまずいません。

 

 

 

 試写会参加者から、「安全な脱出ルート」について次のような質問が出ました。

 「脱北者が亡命先とする韓国はベトナムとも国交があって大使館だけでなくダナンやホーチミンに領事館があります。そうした韓国の在外公館に彼らを連れて行けば安心だと思いますが、できないのでしょうか。中国経由ではなく、ロシアウラジオストックの韓国領事館接触することもできないのでしょうか。」

 

 キム牧師の返事はこうです。「ベトナムは政治的には親・北朝鮮です。ラオスにいたっては軍隊の教官は北朝鮮からきているんですよ。そういう国に公然と連れて行ってはダメなんです。ロシア北朝鮮の国境線は18キロしかなく、徹底的な警備が行われていますから、突破して越えろというのは自殺しろということです。私たちは一番安全なところを探した結果、やっている。」

 

 

まとめ

 このドキュメンタリー映画の中に、豊かとは思えない暮らしをしているふつうの市民の日常が出てきます。

 これはジャーナリスト・石丸次郎氏(アジアプレス大阪事務所代表)の取材協力者である北朝鮮の人たちがギリギリのところで「隠し撮り」した映像という話です。北朝鮮の市民の実情を外の世界の人に知ってもらいたいという思いから協力していると思われます。

 

 試写会から帰宅してテレビでニュースをみますと、ICBM大陸間弾道ミサイル)の発射実験を視察したキム・ジョンウン金正恩朝鮮労働党総書記が、満面に笑みを浮かべていました。

 

 

(参考)北朝鮮の写真(1992年4月撮影)

 以下の写真は、平壌市内の「金日成スタジアムで4月15日に催された金日成主席の生誕80周年祝賀行事」でのマスゲームのひとこまです。

 「日本人拉致」も「脱北」もまだ大きなニュースにはなっていない時期で、日本社会党自民党の代表団はこの時、北朝鮮を訪問し、金日成祝意を述べました。

 

 

 以下は、開通したばかりの平壌板門店」間の高速道路上のバスから撮影した写真。(1992年4月13日撮影)

 

www.shifukunohitotoki.net

 

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