北穂高岳で味わう至福のひと時

標高3000㍍の北アルプスに登っていたころの写真記録、国内外の旅行、反戦平和への思いなどを備忘録として載せています。

【解説】「登山」でふつうに使われる奇妙な「用語」の意味

北アルプス涸沢カールのモルゲンロート

 

 

 8月11日は「山の日」。「国民の祝日」です。聞くところによると、「山の日」は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する日」なんだそうです。

 

 「山」といえば、登山の世界でしか通用しないような奇妙な業界用語があるんですよ。

 「山の日」にちなんで、山にもっと親しむために奇妙な登山用語を拾い集め、解説を試みました。

 

目次

 

 

■「ア」行

アルファ米

 今では大地震に備えて買う人が多くなったアルファ米。お湯や水を注ぐだけで「ご飯」が出来上がります。テント持参で登山する人はほとんどが持っていますね。

 メーカーの1社、尾西食品のHPに製造方法が載っていました。国産の米に水を含ませてから炊飯し、炊き上がったら熱風で乾燥させ、1粒ずつ外して包装するそうです。軽いうえ、白飯のほかにもドライカレーやピラフなど何種類かありますね。味についてのコメントは人それぞれですが――。

 

 

アイゼン

 アイゼンは、ドイツ語の「シュタイクアイゼン」の略称。「クランポン」(フランス語)という人もいます。

 凍った雪の上を歩く時、登山靴に装着する金属の「爪」が付いた滑り止めです。爪の数は4本から12本まであり、4本爪と6本爪は「軽アイゼン」と呼びます。12本爪アイゼン(=上の写真)は、つま先に「爪」が2本飛び出していて、急峻な雪壁を登って行く時に片足の2本の爪を蹴り込んで、爪に全体重を乗せて登ります。

 ちょっとした雪道や低山ですと、靴底に金属の網を張った「チェーンアイゼン」なるものを付ける人が増えましたね。

 

 

一本立てる

 登山中に休憩することです。「一本、立てようか」と、同行者に声を掛けたりします。山小屋に食材や燃料を歩いて運ぶ「歩荷(ぼっか)」さんがひと休みする時に、背負子(しょいこ)の下に、杖に使っている棒切れを立て、荷物を下ろさずに休憩したことが語源とされています。

 

 

雲海

(写真は、北ア・白馬岳山頂から見た日の出の時の「雲海」)

 

うんかい」と読みます。高い山の上から見下ろした時、一面に広がる雲。海のように広いことから「雲海」と言われます。夏山の早朝や夕方によく見られます。

 

 

エビの尻尾

(写真は、富士山の登山道わきのロープや鉄柱にできた「エビの尻尾」=2009年11月3日午前9時27分撮影)

 

(写真は、丹沢・塔ノ岳山頂の樹木にできた「エビの尻尾」=2007年1月21日午前11時撮影)

 

 エビの尻尾は、氷点下の冬山を歩いていると登山道わきの杭や鉄棒、木の枝などで見かける「エビの尻尾」のような氷の芸術作品です。

 どうしてこのようなものができるのか・・・。もとになるのは空気中の水蒸気。氷点下になると水蒸気は木や杭などにくっついて真っ白な氷になり、これが風上に向かって「エビの尻尾」のように伸びるんですね。風下に向かって、ではありません。

 

 

お花摘み

 登山用語で、女性がトイレのない山の中で用を足すことです。上品な女性は、ストレートに「トイレ」とは言わずに「お花摘みに行ってくるわ」という具合に使うらしい。

 男性の場合、その後ろ姿が雉(きじ)を撃つ猟師のそれに似ているということで、「雉撃ち」といいます。雉打ちはさらに、大と小に分けて、「オオキジ」「コキジ」という言い方も。体験談ですが、「ちょっと雉撃ちに行ってくるからね」という山仲間に、「ええ?どっち?」と聞くと、「オオキジだよ」という返事がありました。

 

 

花魁歩き

 「おいらんあるき」。花魁(おいらん)は江戸時代、吉原(よしわら)の遊郭で位の高かった遊女のこと。いまでいう格の高い(?)売春婦。雪山登山で「ワカン」を付けて歩く際、後ろ足を前に出す時に半円を描く歩き方のことです。ワカンは大きいため、ワカン同士で踏みつけて転ばないためです。その歩き方が花魁の歩き方に似ているため、そう呼ばれます。

 

 

表銀座

 「おもてぎんざ」。北アルプスの人気のある縦走路の1つで、東京の銀座にたとえてそう呼ばれます。そのルートは、中房(なかぶさ)温泉~合戦尾根~燕岳(つばくろだけ)~大天井岳(おてんしょうだけ~西岳~槍ヶ岳

 

 

■「カ」行

確保

 「かくほ」。登山中に転落や滑落しないように、ザイルなどで体を固定物に結び付けることを言います。

 

 

ガスストーブ・ガスカートリッジ

 「ガスストーブ」は携帯用のコンロのことです。

 

 

『岳』

 「ガク」というタイトルの漫画の単行本があります。山岳の「岳」です。北アルプスの槍・穂高連峰での山岳救助を主な題材にした漫画です。著者は石塚真一。2003年から『ビッグコミックオリジナル』という雑誌に連載されて、山登りをしない人にも読まれました。

 漫画の主人公は、ボランティアで長野県警山岳遭難救助隊に協力して救助活動をしている「島崎三歩(さんぽ)」。どんな遭難者にも「よく頑張った」「また山においでよ」と温かい声を掛ける前向きな姿勢に、読んでいて胸が熱くなりました。2011年には小栗旬主演で映画にもなりました。単行本は小学館が発行し、全18巻。

 

 

ガス

 プロパンガスのことではありませんよ。「霧」や「雲」のことです。登山道を歩いている時に灰色の霧が斜面をはって登ってくると、「ガスってきたね」という言い方をします。ガスに巻かれると、雪山では「ホワイトアウト」になり、自分の今いる場所が分からなくなります。山中がガスっている時、ふもとの街からは、「雲」が山にかかっていると認識します。

 

 

空身

 「からみ」と読みます。ザックなど荷物を持たずに山頂まで往復したり、雪山でパーティーの先頭に立って「ラッセル」(除雪)する時に出てくる単語です。「からみでいく」などという言い方をします。

 

 

滑落停止訓練

 滑落停止訓練は、凍った雪の斜面で転んで滑落しかけた時、ピッケルのピック(写真の左下のとがった部分)を雪面に打ち込んでその上に体重をかけて止める訓練です。

 富士山6合目で冬に訓練する社会人山岳会が多いです。

 やり方ですが、転んだ瞬間に仰向けになって、利き手でピッケルの頭部を、もう一方の手でシャフト(枝)を握ります。次に体を反転させてうつ伏せになる瞬間、ピッケルを雪面に強く打ち込み、上半身を、あばら骨が2、3本折れるぐらい、ピッケルの頭に乗せます。この動作は、転んだ瞬間に行わないと加速度がついてしまいますので停止できません。

 まあ、実際は、凍てついた斜面で転んだらアウト、と先輩に教えられました。

 

 

 

急登

 「きゅうとう」と読みます。「給湯」ではありません。急な斜面を登ることです。地形図を見ますと、等高線が詰まっているところです。

 

 

鎖場

(写真は、北アルプス北穂高岳にあるクサリ場の1つ=2017年7月27日撮影)

 

 「くさりば」と言います。登山道でクサリが岩肌に取り付けられている場所のことです。滑り落ちると大けがをする場所に山小屋などの方が張ってくれていますが、クサリに頼ってぶら下がると身体が振られて危険です。あくまで二本足でバランスを取って登るのが基本で、クサリは片手でつかんで、補助的に使った方がいいです。

 

 

コースタイム

 これは登山する時に、ルート上の特定の位置から特定の場所まで移動するのに要する時間を示したものです。ガイドブックや山と高原地図」(昭文社に書かれており、参考にする人が多いです。

 とはいえ、その「コースタイム」は何を基準に決めているんでしょう。手元にある「山と高原地図」(2021年・白馬岳をみますと、こう書いてあります。

 「コースタイムはおおむね以下の基準をもとに設定しております。①40~50歳の登山経験者②2~5人のパーティー③山小屋利用を前提とした装備④夏山の晴天時」。

 コースタイムには、休憩時間は含みません。季節や天候状態、メンバーの体調などによって所要時間は変わりますのであくまで「目安」ですね。筆者の主観も入っているでしょう。なお、国土地理院の2万5000分の1の地形図にはコースタイムは書かれていません。

 

 

小屋番

 山小屋で働いている人のことです。宿泊の受付とか食事の配膳・片付け、掃除などしています。登山シーズンになると、各小屋はアルバイトを募集しています。

 

 

『ゴロー』

(写真は、「ゴロー」で買った革製の登山靴)

 

 「ゴロー」は知る人ぞ知る、東京・巣鴨にあるオーダーメイドの登山靴店です。左右の足の長さが違っても幅が広くても、職人さんが調整してくれます。私は20年前にオールシーズン用の皮の重登山靴(Cー02製造中止、写真右)を購入、ソールを3回張り替えました。いまはスリーシーズンと初級の冬山で使えるという登山靴(Sー8)を愛用しています。なによりも自分の足にぴったりするということがベスト。長時間歩いても違和感がない。ソールの張り替えは3回はできるというのがいいですね。

 ただ、「Sー8」は重量が片足で1275㌘(「Cー02」は1390㌘)もあって重いというのが難点なんでしょうね。履いている時は何とも思いませんが・・・。

 以前、店員さんに「雑誌のヤマケイにはゴローさんの広告や記事が載らないですねえ」と水を向けたところ、「取材にも来ませんね」とそっけない反応でした。

 

 

行動食

 登山の途中で食べるものを「行動食」と言います。朝食や昼食とは別にエネルギーを補充して、シャリバテで歩けなくなるのを防ぐためのものです。冬の山では立ったままで口に運ぶことが経験上、多いです。

 行動食の内容は人それぞれですが、私はすぐエネルギーになるソイジョイ大塚製薬)のほか、アンパン、チョコレートを選択します。おにぎりは糖質がたっぷりでよいのですが、冬山では凍って食べられないので要注意。

 

 

高層天気図

(図は、気象庁発表の700hPa高層天気図:2023年8月5日21時)

 

 ふだんテレビやスマホでみる天気図は「地上天気図」といって、等しい気圧の地点を結ぶ「等圧線」を描いた図面ですね。それとは別に、上空に目を向けて、ある特定の気圧(例えば、700ヘクトパスカル)になった高さの分布を示す「高層天気図」があります。

 高層天気図は、ある気圧の高さを等高度線で結んだ天気図で、上空の寒気や低気圧の様子も捕らえることができ、地上天気図とセットで使います。高層天気図には「850ヘクトパスカル天気図」(上空約1500㍍の高さ)、「700ヘクトパスカル天気図」(上空約3000㍍の高さ)などがあります。

 北アルプスに登る人は「700ヘクトパスカル天気図」をチェックすること大事です。上空3000㍍という北アルプスの峰々と同じぐらいの高さの天気図です。「雨雲の有無をチェックするのにも役立つ天気図」とされています。

 「700ヘクトパスカル天気図」の図面には、【等高度線】、【等温線】、【湿域(しついき)】、【風向・風速】などが表示されます。

 【等高度線】は、同じ高度を結んだ線で、3000㍍を基準にして「60㍍ごとに実線」で表示されます。

 【等温線】は、同じ気温を結んだ線で、0℃を基準にして「6℃ごとに破線」で表示。気温の数値も6℃ごとに示されます。

 【湿域】はドットで示され、「雨雲があるので雨が降ります」ということを表しています。

 このほか、低気圧の中心は「L」。高気圧の中心は「H」。寒気の中心は「C」。暖気の中心は「W」

 

 

 

■「サ」行

ザック

 リュックサックのことを、略して「ザック」と呼んでいます。

 

 

ザレ場・ガレ場・浮き石

 「ザレ場」は数㌢ほどの岩の破片(=岩くず)や小石が転がっている斜面のこと。

 「ガレ場」はザレ場よりもやや大きな岩がゴロゴロと積み重なっている場所を言います。ザレ場、ガレ場は歩きにくいです。

 「浮き石」は不安定な状態の石のことで、うっかり足を乗せるとグラッと傾いて転んでしまいます。私の友人の知り合いは、西穂高岳から奥穂高岳に縦走中、浮き石に乗ってしまい、転落して亡くなっています。

 

ザイル

 岩登りや沢登りの時に使うロープのこと。ドイツ語。最近では「ザイル」といわずに、英語で「クライミングロープ」とか「ロープ」というのが一般的。

 

 

三点支持

 岩場を安全に登り下りするための基本動作です。「3点」とは、両手両足の「4点」のうち、つねに「3点」は手がかり、足掛かりになる岩の突起や割れ目をとらえ、残りの「1点」だけ動かして移動する歩き方です。「三点確保」とも言います。

 

 

山行

 「さんこう」と読みます。登山に行くことです。やまいき」ではありません。「来月の山行予定」とか「教育山行」などというふうに使います。登山業界では名の知られた登山家・槇有恒(まきゆうこう)の著書「山行」(1923年発行)以後、使われるようになった言葉だそうです。

 

 

シャリバテ

 空腹になって歩けなくなった状態のこと。車でいうところの「ガス欠」。エネルギー源である「糖質」が足りなくなった状態でアンパンやおにぎりを食べれば回復します。

 

 

ジャンダルム

(写真は、奥穂高岳から見たジャンダルム=右端=。人の姿が見える)

 

 ジャンダルムはフランス語で「護衛兵」という意味。主峰を守るかのように立ちはだかる塔のような岩峰です。西穂高岳からジャンダルムを経て奥穂高岳に至るルートは国内最難関の縦走路で、私には無縁です。

 

 

縦走

 「縦走」は、山頂から山頂へと複数の山の稜線を歩く登山形態です。「走る」わけではありません。これに対して、ピークに立つことを目的とする登山を「ピークハント」と言い、登山口から山頂まで往復することを「ピストン」と言います。

 

 

シュリンゲ

 シュリンゲ(ドイツ語)は、岩登りの時にカラビナやザイル(ロープ)と組み合わせて使う道具で、安全を確保するために環状につないだヒモです。「スリング」(英語)と呼ぶ人が多くなりました。

 岩登りでは、自分で自分を守るための「セルフビレイ」をとる時や、立ち木を使って支点をつくる時に、ハーネスや安全環付きカラビナと一緒に使います。懸垂下降する時に、木に巻いてザイルを掛けるための捨て縄(=残置する綱)としても使う人がいました。

 

ストック

 「トレッキングポール」とも言います。山登り用の「ツエ」です。

 

 

ステーションビバーク

 昔、「ステビバ」とも言いました。駅の待合室などで仮眠することです。私は20年前の2003年1月に、無人JR土合駅でステーションビバークした経験があります。神奈川県勤労者山岳連盟の深雪訓練で13人が深夜、乗用車に分乗して土合に着き、夜が明けてから谷川岳での訓練に臨みました。

 それより前も、南八ヶ岳硫黄岳から赤岳まで縦走する際、始発バスに乗るためにJR茅野駅の待合室やコンコースに2、3回ステビバしました。最近はJRによって禁止されているかもしれません。

 

 

象足

 「ぞうあし」です。雪山でテント泊の時に使うと便利なテントシューズ。足首まで覆われるので暖かい。象の足のような形をしています。

 

 

 

■「タ」行

体感温度

 体に感じる温度のことです。同じ温度でも、風が吹くと体に感じる温度は違います。風速が毎秒1㍍あたり強まると、体感温度は1℃ほど下がるといわれています。気温が0℃でも風速が毎秒10㍍であれば、マイナス10度とたいへん寒く感じます。

 

 

単独行

 「たんどくこう」と読みます。1人で登山するスタイルです。「ソロ」とも言います。

 単独行に対して、警察はなるべく避けるようにと指導します。理由は、遭難した際に、だれにもみられていないため救助が遅れ、死亡する確率が高いためです。

 でも、単独行は静かに自分と向き合うことができるしマイペースで歩いて景色を楽しむこともできます。ゆっくり写真も撮れます。自分の力の限界もチェックできますから、体力をつけて技術もある程度ある方には、お勧めしたいですね。

 友人から「なんで山に1人で行くの?」とか、「悲しいことでもあったの?」なんて言われたことがありましたが、わざわざ山にまで友人とおしゃべりに行くほど私は話好きではありませんからね。

 

 

地形図と地図の違い

 地形図は、測量を基にして等高線を10㍍間隔で引き、道路や施設などの地図記号を入れた地図のことです。国土地理院が作成しており、縮尺2万5000分の1の地形図が登山で一般的に使われます。2万5000分の1の地形図では、4センチが1キロの距離に当たります。(4㌢×25000=100000㌢=1000㍍=1㌔)。

 地形図は、「コンパス(=方位磁石)」と「高度計」と一緒に使うことによって、GPSを使えなくても現在地や周囲の地形、進むべき方向が分かります。

 登山者が最も多く使っているのは、山と高原地図」(昭文社という「地図」です。等高線は入っていませんが、登山口やコースタイム、危険個所など便利な情報が書き込まれており、その山域の概念をつかむには便利です。

 私は国土地理院の地形図をコピーして、そこに「山と高原地図」などから仕入れた情報を書き込んだものを携行しています。

 

 

沈殿

(写真は、北アルプス涸沢のテント場=5月でも吹雪になります)

 

 「ちんでん」というのは、登山中に吹雪や強風などの悪天候行動できなくなり、テントや山小屋で待機する状態のことを言います。

 

 

 

「梅雨明け10日」

 「つゆあけとうか」という言葉があります。梅雨が明けた後の10日間は晴れが続くよ、という意味。だからその間に山に行こうよ、というわけです。登山者は「梅雨明けはいつか」ということに注目して計画を立てるのですが、近年、地球温暖化の影響で梅雨明け後も天候は不安定ですね。

 

 

つぼ足

 雪山で、ワカンやスノーシューを使わず、登山靴で歩くこと。足が雪に埋まりながら歩くため、踏み跡が「ツボ」のようになることから、そういわれるらしい。

 

 

手ぬぐい

 このところ山で「手ぬぐい」が見直されているらしい。これまで「タオル」を汗ふきや下山後の入浴に使ってきましたが、「装備の軽量化」で「タオル」に切り替えようかと。

 「手ぬぐい」は、けがをした時の「止血」なり「包帯」に使えそう。昨年(2022年)、北アルプス涸沢の涸沢小屋で「タオル」を買おうとしたところ、「手ぬぐい」しか置いてないとのことでした。20年以上前からこの小屋で計3本、タオルを買ったのに、です。売れなくなったようです。

 

 

偵察山行

 「偵察」なんて、戦争用語ですよね。山の世界では、冬山登山に向けてルート確認のため雪が降る前の秋ごろ、事前の下見に行くことを言います。

 

 

「低体温症」「凍死」

 10年ぐらい前までは山で遭難死した人は、「疲労して動けなくなって凍死した」とみなされ、「疲労凍死」と新聞・テレビで表現されていました。ところは昨今は、「凍死」という言葉はほとんど使われず、「低体温症による死亡」という言い方に変わってきています。

  「低体温症」というのは、体が何らかの原因で冷えることによって「深部体温」(=直腸など体の中心部分の体温)が35度以下になった状態のこと。そうなると体の機能を正常に維持できなくなります。体温がどんどん下がり20℃という重症の低体温症になると、不整脈」が起こって死に至ります

 「低体温症による死」が「いわゆる『凍死』」なんですが、『凍死』というと体が凍ってしまって亡くなったとか、冬山で遭難死したと誤解されやすいため、『凍死』という表現を使わなくなっていると思われます。「いわゆる凍死」は、体が「凍って」しまって死亡するのではないのです。

 

 

テルモ

 「テルモ」は持ち運びできる、携帯用の魔法瓶です。もともとはドイツのメーカーが製造した商品名ですが、いまでは「登山用の魔法瓶=テルモス」となり、日本でも数社が製造販売しています。

 

 

テン場

 テントを張る場所のこと。「テント場」の略称。たいていは山小屋のそばにあり、指定されています。「キャンプ場」と同じことですが、ベテラン登山者は「キャンプ場」と言わず、「テン場」です。

 

 

トレペ

 トイレットペーパーのこと。トレペは、巻紙式のそれの「芯」をあらかじめ抜いてペシャンコにしたものをジップロックに入れて持っていきます。使いみちは、テント山行の時にお尻をぬぐうのに使いますし、食事に使ったコッヘル(食器)をぬぐうのに使います。水は貴重ですからね、食器ぬぐいには使いません。

 

 

読図

 「どくず」と読みます。地形図を読んで、尾根や谷、坂道などを確認することです。「見る」のではなく、「読む」のです

 

 

登山計画書

 「登山計画書」は、自分の登山計画を書いた書類のこと。警察は書くように勧めます。

 何を書くのか、といいますと、どの山にいつから誰と、どんな装備を持っていくのか、といった内容です。書式に決まりはありません。なぜ書くのか、といいますと、遭難した場合に登山ルートや持ち物が分かるので、捜索・救助活動に役立つからです。それに、自分で書くことによって計画に無理がないか、チェックできます。提出先は、その山を所管する警察や登山口にあるポスト。インターネットでもできます。

 

 

■「ナ」行

日本百名山

 「日本百名山」は、深田久弥という小説家が書いた本で、百の山を訪ねた時の紀行文。それだけのことですが、百名山を制覇することが生きがいの方も少なくないようです。

 

 

「こんにちは」のあいさつ

 街を歩いていて、見知らぬ人とすれ違う時、「こんにちは」と挨拶することは、まずないですね。ところが山中の登山道では、登りの人と下りの人がすれ違う時は、だいたい「こんにちは」「こんにちは」とあいさつし合います。なんでしょうかね。

 

 

■「ハ」行

バケツを掘る

 「墓穴(ぼけつ)を掘る」じゃあないですよ。

 「バケツを掘る」というのは、雪山の斜面を登っている途中、ザックを下ろして休憩しようとする時に、ピッケルの「ブレード」部分で雪を掘り、ザックを置く場所をつくることです。

 ザックを置いたら、ザックのショルダーベルトにピッケルを通して、ピッケルを雪面に打ち込みます。ザックが滑り落ちるのを防ぐためです。休憩は、立ったまま水分などをとるか、ザックの上に座ります。

 なぜ「バケツ」というのか、知りませんが・・・。

 

 

 

パーティー

 お酒を飲む「宴会」ではありません。一緒に山に登るグループのこと。「××人パーティーで登山」などという言い方をします。

 

 

ビーコン

 雪崩に巻き込まれた場合、埋まった人の位置を特定したり、逆に、発見してもらうために使う「無線装置」がビーコンです。送信モードと受信モードに切り替えることができます。パーティーを組んで雪山登山する時には、1人ひとりが首にかけ、無線信号を発信する「送信モード」にセットします。万一、雪崩に巻き込まれて仲間が流された時には、探す人は「受信モード」に切り替え、埋まった仲間が発信し続けている電波を探すわけです。

 ただ、機種にもよるのでしょうが、電波が強く反応するのは数㍍から数十㍍です。

 雪崩で埋まってしまうと、雪はすぐにかたくなり、埋まった人は「窒息」したり「低体温症」になります。「15分が勝負」と言われています。

 雪山に入るには、この「ビーコン」と、雪を掘るための「スコップ」、雪に突き刺して埋まった人の位置をさがすための「ゾンデ」(ドイツ語)という金属の棒が大事ですね。「ゾンデ」は昨今、「プローブ」(英語)と呼ばれています。 

 

 

「ピンクテープ」「ペンキ」「旗竿」

(写真は、白馬鑓温泉の直下=2023年7月22日撮影)

 

 「ピンク」のテープ・・・樹林帯を歩いていると、登山道から高さ1~2㍍の「木の枝」に結び付けられているテープをよく目にしますね。ピンクだったりだったり。目立つ色を使います。

 これは、道迷いを防ぐために、遠くからでも「登山道」の位置が分かるように付けられたものです。

(写真は、丹沢=2023年4月2日撮影)

 遠くから見て、「分岐点」だと分かるように付けられることもあります。

(写真は、白馬大雪渓=2023年7月20日撮影)

これ以上は『立入禁止』だと、注意を促すためにも付けられます。

 

 「ペンキ」が登山道わきの「岩」に塗られているのもよく見ますね。白いペンキで「○印」だったり「矢印」だったり。これは、登山道の位置を示すものです。

 進むと危険であることを示す「×印」もあります。

 

 こうした「目印」を付けて登山道を整備しているのは、近くの山小屋や地元山岳会など警察に協力して遭難防止対策に従事している人・組織なんです。登山者個人の判断では付けてはいけません。

 「登山道」というのは、だれが管理しているのか多くの場合、分かりません。山の所有者が管理しているわけでなないのですね。

 

 「ピンクテープ」に似たものに、「旗竿」があります。

 旗竿は、竹ざおの先に「赤布」を縛り付けたものです。個別の山岳会がパーティを組んで雪山登山をする時に、登りながら一定間隔で雪面に刺していきます

 これは下山する時に、ホワイトアウトになってしまうと遭難しますので、歩いてきたルートが分かるように印をつけるんです。そして、旗竿を回収しながら下山します。

(写真は、八方尾根=2002年暮れ撮影)


 

ブキ

 「ブキ」とは、テント山行する時に、持っていく割りばしやフォーク、スプーンのこと。語源は何でしょうかね。

 

 

ヘッデン

 「ヘッデン」は「ヘッドランプ」のことです。頭にベルトで取り付けた明かり。「ヘッドライト」という人もいますね。

 

 

ボッカ

(写真は、那須岳=2021年9月17日撮影)

 

(写真は、丹沢・塔ノ岳に通じる大倉尾根=2022年12月26日撮影)

 

 ボッカは「歩荷」と書きます。背負子(しょいこにダンボール箱などをいくつも載せて、ふもとから山小屋まで食材や飲み物を歩いて運ぶこと、または運び人のことです。

 

 

 

『風雪のビバーク

 『風雪のビバーク』は、登山家・松濤明(まつなみ・あきら)が1949年1月に、北アルプス槍ヶ岳の北鎌尾根で、一緒に登っていた有元克己とともに遭難した際に、死の直前まで書き続けた「遺書」を載せている本。

 凍える指先でつづられた手帳の文字は、読む者の心を打ちます。

 手帳は長野県大町市大町山岳博物館に展示されています。

 

 

 

穂高岳

 深田久弥の「日本百名山」に「穂高岳」という名前の山が出てきますが、そんな名前の山はありません。

 あるのは、奥穂高岳(標高3190㍍)北穂高岳(標高3106㍍)前穂高岳(標高3090㍍)西穂高岳(標高2909㍍)という単体の山です。この4つの山に、明神岳(標高2931㍍)を入れて、穂高連峰という呼び方はします。

 

 

ホワイトアウト

(写真は、午後零時31分撮影。先行する登山者を見失って、あせる)

 

(写真は、午後零時46分撮影。ガスが少しとれて、登山者2人が見えた。足跡も見える・・・)

 

(写真は、午後零時48分撮影。写真を撮っている間に、ガスッて来た)

【写真はいずれも、2007年5月2日の北アルプス北穂高岳の登り】

 

 

 ホワイトアウトは英語でWHITEOUT。視界が白一色になる自然現象ですね。

 原因は、「暴風雪」、強風で積もった雪が吹き上げられる「地吹雪」それに「濃霧」です。

 ホワイトアウトになるとどうなるか――。2007年ゴールデンウィークの自分の体験を踏まえますと、足元の雪面と空間の境目の識別がつかなくなって、トレース(足跡)も消えます。

 それによって、どちらが前方なのか、方向感覚がなくなります。それに、バランス感覚を失って、空間をフワフワ歩いているような感覚になります。訳が分からなくなって恐怖感を覚えます。

 その状態で動くと、転落、滑落、雪庇(せっぴ=雪のひさしのこと)の踏み抜き、道迷いが待っていますね。

 

 どうすればいいかというと、「雪山登山の教科書」には「視界がよくなるまで待て。ツエルトをかぶって」なんて書いてあります。

 でも、私は焦りました。恐怖感から、待つなんてできません。先行者に追いつこうと、白い闇の中を必死で追いかけ、上に向かいました。たまたま山小屋「北穂高小屋」の鐘をどなたかが鳴らしてくれたので、小屋の方向が分かって助かりました。

 ホワイトアウトは怖いです。教訓は、当たり前ですが「無理をしないこと」です。

(写真は、谷川岳の山小屋「肩の小屋」の鐘=参考)

 

 

 

■「マ」行

水場

 「みずば」と読みます。山中で飲むことができる水を得られるスポットです。ただ、登山地図にそうかいてあっても、枯れていることもあるし、登山道からかなり下の事もありますから要注意。

 

 

 

目出帽

 「めでぼう」と読みます。闇バイトの強盗犯がかぶるような、両目の部分だけ開けた防寒用の帽子です。古い登山者は「めでぼう」と呼ぶんですが、昨今は「めだしぼう」と呼ぶらしい。

 

 

モルゲンロート

(写真は、2019年8月10日撮影)

(写真は、2021年10月8日撮影)

(写真は、2015年10月7日撮影)

 

 モルゲンロートは、山や雲が赤く染まる「朝焼け」のことです。早朝に登り始めた太陽の光に照らされた山肌や雲が、赤く染まる現象です。

 語源はドイツ語のMorgenrotで、「モルゲン」は「朝」、「ロート」は「赤い」を意味しているそうです。

 写真はいずれも、涸沢カールです。

 

 

 

■「ヤ」行

雪が腐る

 「雪がくさる???」。これは気温が上がって雪が解け、シャーベット状に柔らかくなった状態を言います。雪が腐ると、アイゼンが効かずに滑りやすくなります。

 

 

■「ラ」行

ラッセ

 雪がたっぷり積もった傾斜がきつい冬山で、雪を踏み固めながら斜面を登っていくことを言います。

 ピッケルで目の前の雪を手前に崩し、膝で押し付けて固め、その上にワカンを付けた登山靴で踏みつけて一歩ずつ登ります。体力を消耗しますので、通常、パーティーのメンバーが交代して行い、ラッセルし終わった者は最後尾に付きます。除雪する「ラッセル車」が語源のようです。

 「ラッセル泥棒」という言葉もあります。それは先行するパーティーラッセルして切り拓いたルートを、あとから知らん顔してラクして登っていくフトドキもののことを言います。時々いるんですよ、そんなのが。

 

 

 

■「ワ」行

ワカン

 「ワカン」は「輪かんじき」の略称。

 深い雪の上を歩く時、登山靴に付けて使う用具。長円形をしており、爪も付いています。接地面積が大きくなるため、雪に沈み込まずに歩けます。材質は、昔は藤やヒノキらしかったですが、私のは20年前に買ったジュラルミン製。今使われるのは「スノーシュー」ですね。

 

 

 

 

≪参考資料≫

①「山登り語辞典」(鈴木みき著・誠文堂新光社・2017年3月発行)

②「山のことば辞典」(豊田和弘著・河出書房新社・2014年6月発行)

③「山の単語帳」(田部井淳子著・世界文化社・2021年8月発行)



 

 

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